《1 誕生日》
俯(うつぶ)せになったマユミの背後から覆い被さり、ケンジはその豊かな乳房を背中から回した手で強く揉みしだきながら、腰を激しく上下に動かしていた。「マ、マユっ! マユっ! お、俺もう、イ、イくっ……」
「ケン兄、ケン兄! あ、あたしもっ! あ、ああああ……」
ケンジは水泳で鍛えたその逞しい腕で妹の身体をぎゅっと抱きしめ、その柔らかで温かい肌の上で全身を硬直させた。
「イ、イくっ!」
二人の身体が大きく跳ね上がると同時に、ケンジの身体の奥深くから噴き上がった熱い想いが勢いよくマユミの中心に何度も迸った。全身を上気させたマユミも顎を上げて喘ぎ続けた。
二人はその動悸が収まるのを静かに待った。しばらくしてケンジは両腕をベッドについて伸ばし、マユミの身体から自分の胸を離した。
マユミが甘えた声で言った。「ケン兄、もうちょっとくっついてて……」
「え? でも、重いだろ?」
「いいの。ケン兄の身体の重さと温かさが心地いいの」
ケンジは再びゆっくりと身体をマユミの背中に乗せた。そして過度に体重がかからないように、シーツに肘をつき、マユミの身体を包みこむようにして重なった。
枕に半分顔を埋めたまま、マユミはうっとりと目を閉じて静かに口を開いた。
「ケン兄、あたしね、」
「うん?」
「ケン兄があたしの中に入っている時が、一番幸せ」
「そ、そうなのか?」
「うん。何だかとっても満ち足りた気持ちになるから」
「俺もだ、マユ。お前の中はとても心地いい……」
二人はそのまま長い時間じっとして、直に触れあった身体から伝わるお互いの鼓動を聞き合った。
ケンジ自身がマユミから抜け、彼は妹の身体を抱いて横向きにした。そして軽いキスをしてケンジはその目を見つめた。「明日は俺たちの誕生日だな、マユ」
「そうだね。ケン兄、プレゼントは何がいい?」
「お前こそ、何がいいんだ?」
海棠家のこの双子の兄妹は誕生日の12月1日が近づくと、二人で街に出てお互いのプレゼントをそれぞれがリクエストに従って買い合うことが慣例になっていた。
「去年は二人とも腕時計だったよね」
「そうだったな」
「でも、付き合ってることがみんなにばれるのが怖くて、わざと違うタイプのにしたよね」
「今思えば、おそろいにしとけばよかったな」
「あたしもそう思う」
ケンジはマユミの髪を撫でた。「あれから俺たち、何度も同じ時間をいっしょに過ごしたよな」
「そうだね。何度も抱き合って一つになったね。もう一年以上になるんだね」
「マユ、」
「何?」
ケンジは身体を起こした。「お前、俺とこういう関係になって、本当に良かったって思う?」
「どうしたの? 急に」
「いや……」
「今のあたし、ケン兄以外に考えられないもん。ケン兄と一緒にいると最高に幸せって感じられるし、とっても心が癒されるんだよ。ケン兄がお兄ちゃんでなくても、出会ってたら絶対コクってた」
ケンジは切なげな目でマユミを見つめた。「マユ……」
「だから、ケン兄と兄妹でいつも一緒に暮らせるってことが、もうすっごく幸運なことだって思ってる」
「そうか」ケンジは少し瞳を潤ませて安心したように笑った。「明日が楽しみだな、マユ」
「うん!」マユミも笑顔を弾けさせた。
◆
明くる日は朝から寒かったがよく晴れていた。今年の二人の誕生日は土曜日だった。
ケンジは部屋で身支度をしていた。その時机の上に置いていたケータイのメール着信音が鳴った。ケンジはそれを手に取ると、開いてディスプレイを見た。「ケニーからだ」
「なになに、『今夜、お前たちのバースデーパーティをやるよってに、夕方うちに来い』相変わらず強引だな」ケンジは苦笑いをしながらケータイを持ったまま部屋を出て、マユミの部屋をノックした。
「マユ、入っていいか?」
「いいよー」
ケンジがドアを開けると、マユミは着替え中で、下着だけの姿だった。うわっ、と叫んでケンジは慌ててドアを閉めた。
ドアを背にしてケンジは赤くなっていた。「な、何だよ、着替えしてるんなら、そう言えよ」
「なに遠慮してるの? あたし平気だよ。ケン兄に見られるの」マユミが部屋の中から言った。「ねえ、入ってきてよ、ケン兄」
「お、お前な……」ケンジは再びドアを開け、顔を赤くしたまま目を伏せ、マユミの部屋に入った。
ショートパンツを穿いて、白いピーコートを広げながらマユミは言った。「どうしたの?」
「ああ、ケニーからメールで、今夜俺たちのバースデーパーティやってくれるって」
「ほんとに? すごい! 嬉しい!」マユミは飛び跳ねた。
「じゃあ、行くって返事するけど」
「うん。いいよ。もちろん」
ケンジはマユミのベッドに腰掛けてケネスに電話を掛けた。
「よお、ケニー」
『ケンジ、マーユも一緒に来てくれるんやろ?』
「当然だ」ケンジはちらりと横目でマユミを見て微笑んだ。
『わいな、この日のために一週間も前から準備しとってん。来えへん、なんて言われようもんなら暴れ出すで』
ケンジは笑った。「悪いな。遠慮なくお邪魔するよ。って、確かおまえんち、最近引っ越したって言ってなかったか?」
『そやねん。やっと本格的な店が完成したんや。なに、前の店舗のすぐ向かいやから距離的にはそんなに変われへん』
「何だかすごいのができてたな、そう言えば。工事中、何度か見たけど」
『親父はわいを跡継ぎにすること、もう決めてんねん。何代も続くこと想定して設計してあるんやで』
「おまえ、やっぱり跡継ぎになる気なんだな」
『なるで。任しとき』ケネスは威勢よく言った。
「何度も言うけど偉いよな、おまえ」
『別に褒められることやない。わいが自分で選んだ道やさかいな。ああ、それからな、二人とも今夜はうちに泊まり』
「え?」
『最高のおもてなしを用意してあるんや。な、ええやろ?』
「たぶん、大丈夫だと思う。マユ一人だと反対されるけど、俺がいっしょなら両親も許してくれるだろ」
ケネスは電話口で声を潜めた。『いや、逆にアブナイやろ。マーユを手込めにするんは兄のケンジやからな。ほんま、何にもわかってへんな、お前んちの両親』
「何がアブナイだ。俺はマユを手込めになんかしないから」
ケネスは笑いながら言った。『ほな、待っとるからな』
「ありがとう、ケニー」
電話を切ってケンジはマユミに目を向けた。「というわけだから」
「うん」
◆
「じゃあ、これ、私とお父さんからの誕生日プレゼント」二人の母親が封筒に入った現金を二人にそれぞれ渡した。「いつものようにこれで好きなもの、買い合ってね」
「わかった。よし、行こうか、マユ」ケンジはマユミに笑顔を向けた。
「うん、ケン兄」マユミも元気に返した。
玄関の上がり框に仲良く並んで座り、靴を履いていた兄妹を見下ろしながら、母親が腰に手を当て怪訝な顔で言った。「あんたたち、仲良過ぎじゃない?」
「何だよ、いいだろ、ケンカするより」
「そりゃそうだけど……。何だか手でもつないで歩きそうな勢い……」
「何か問題でも?」
「普通、高校生の兄妹って、もっとこう、表面上よそよそしくするもんじゃないの?」
「いいじゃない。兄妹いがみ合ったらきつい、っていつも言うの、ママじゃん」マユミが言った。
「そりゃそうだけど……」
「ああ、それから、」ドアを開けかけたケンジが振り返って言った。「今日はケニーんちに泊まるから」
「えっ?」
「バースデーパーティやってくれるんだって」マユミが言った。
「だからマユも俺も」
「……まあ、ケニーくんのことだから心配ないとは思うけど……」
「いいじゃない、ママ。ケン兄も一緒なんだし」
母親は少々皮肉っぽく言った。「そうね、仲良しのお兄ちゃんが見張っててくれるわね。ケンジ、ちゃんとマユミのこと見ててね」
「わかってるって」ケンジが胸張って応えた。「俺がマユの貞操を守る」
母親が少し頬を赤らめて言った。「露骨よっ!」
「一度帰って、夕方出かけるから」
「遅くならないようにね」
何も知らない母親は、二人を送り出して玄関のドアを閉めた。
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