《3 輝く朝》
静かな朝が訪れた。壁一面のガラス窓からの強烈な光でマユミは目覚めた。横になったままケンジと抱き合い、彼の胸に頬を寄せて眠っていた彼女は、自分の乳房に堅くて温かいものが触れているのに気づいた。
「朝のいつものケン兄……。どんな夢みてるのかなあ……」
マユミは二人の身体に掛かっていた毛布をめくり、昨夜も幾度となく自分の中に入ってきたそれをそっと両手で包み込んだ。いつも二人で迎える朝と同じようにそれは堅く、大きく天を指していた。マユミはその温かさがとても好きだった。
ケンジはまだ寝息をたてていた。マユミが愛しそうにそのペニスをさすると、ケンジはんん、と小さなうめき声を上げた。そして眠ったまま表情を和らげ、つぶやいた「……マユ……」
マユミはそっとその先端に唇をあて、ぺろりと舐めた。
「ケン兄。咥えちゃうよ」そう独り言をつぶやいて彼女はゆっくりとケンジのペニスを咥え込んだ。そしてそれを出し入れしたり舌で舐め回したりし始めた。
「ああああ……」ケンジが喘ぎ始めた。
「マユ」ケンジははっと目を開けた。
マユミは口を離して上目遣いでケンジを見た。「起きた? ケン兄」
ケンジは焦ったように身体を起こした。「な、何してるんだよ……。俺、わき上がってきたじゃないか……」
「そのままここで出しちゃう? それとも繋がりたい?」
「繋がりたい」ケンジは即答してマユミの身体を抱きかかえ、キスをした。そしてゆっくりと時間をかけて、唇と舌を味わった。マユミはいつもと同じケンジのその朝の濃厚なキスも大好きだった。
「チョコレートの匂いが残ってる」マユミが言った。
「お前の匂いも俺は大好きだぞ」ケンジはそう言って、またいつものように舌を首筋からスタートさせて、鎖骨、乳首、腹、へそ、繁みへと移動させ、ゴールへ到達させると、柔らかくクリトリスを舌先で刺激し始めた。
「あ、ああああん……ケン兄……」マユミは夢見心地で目を閉じ、大きく息をした。
「いい匂いだ。マユ……」ケンジは彼女の谷間を舌で押し開き、内側を舐め始めた。
「んんっ! あああ……」マユミの中から泉が湧き出し始めた。「ケン兄、あたし、もう……」
口を離したケンジは、マユミを上目遣いで見て、恥じらったようにと笑った。「入れていい? マユ」
マユミは頭をもたげて上気した顔でケンジを見つめ返した。「あたしも繋がりたい。ケン兄、来て……」
新しい太陽の光が二人の身体に差してきた。首に掛かった二人のペンダントがきらきらと輝いた。ケンジはマユミの両脚をゆっくりと開き、ペニスを谷間に触れさせた。
「お前の肌が、輝いてる」ケンジは微笑んだ。マユミもケンジの目を見つめ返した。
「入るよ、マユ」
「入ってきて、ケン兄。早く一つになりたい、あなたと……」
ケンジはゆっくりとマユミの中に入っていった。愛しい妹と繋がる瞬間をできるだけ長く楽しむために。
「ああああ……いい、ケン兄、気持ちいい。もっとくっついて」
ケンジはマユミの身体を包み込むように覆い被さり、彼女の腰を手で抱えるようにして秘部同士を密着させた。。マユミの中は温かく、いつもと同じように満ち足りた気分でケンジはため息をついた。はち切れんばかりに大きくなったケンジのペニスを、マユミの熱く柔らかな粘膜がそっと広く包み込んでいる。
ケンジがまたマユミの唇と舌を味わい始めると、ケンジのペニスの根本が強く締め付けられた。彼は思わずんんっ、と小さく叫んだ。ケンジはいつもその時、マユミと自分が一つになって離れなくなったことを実感し、言葉では言い表せないほどの幸福感を感じるのだった。
起き抜けのマユミのフェラチオのせいでケンジはすでに頂上に近いところにいた。加えてマユミが締め付けたり緩めたりを繰り返すたびに、少しずつそこに登り始めていた。
ケンジが思わず口を離すと、出し抜けにマユミは大きく喘ぎ始めた。
「ああ……ケン兄、あたし、あたしっ……」
「どうしたんだ? マユ」
「弾けそう……」
「お、俺まだ、動いてないよ」
「いい、そ、そのままでいい。動かなくても。ああああ……だめ、も、もうイっちゃう……」
ケンジは再びマユミの口を自分のそれで塞ぎ、背中に腕を回して力を込めた。「んんんんんーっ!」
がくがくとマユミの身体が震え始めた。ケンジの口に熱い息が吹き込まれた。彼は思わず口を離した。
「イ、イく! イくよ! ケン兄! あたし、イっちゃうっ!」
マユミが大きく身体を揺らし、ケンジのペニス全体がぎゅっと締め付けられた。
「ああっ! マユっ!」
ケンジの腰から腹部にかけて強いしびれが走った。そして次の瞬間。
「で、出る! 出るっ!」
どくっ! どくどくっ!
ケンジはマユミの上で身体を仰け反らせ、繰り返し襲いかかる快感に身を委ねていた。
「ううっ、うっ……」ケンジのペニスはマユミに強く拘束されたままだった。そして最後の脈動までそれは続いた。
はあはあはあはあ……マユミもケンジも、荒い息をなかなか収めることができないでいた。二人はいつまでも繋がったまま、まぶしい朝の光の中でじっと互いの鼓動を聞き合っていた。
「なんか……」
「なに? ケン兄」
「今のおまえ、ずいぶん感度良くなかった?」
マユミは頬を赤らめた。「うん。なんでかな……」
「おまえと繋がってから、俺、ほとんど何もしてなかったのに。ほんとにイったのか?」
「うん。なんかすごかった……。ケン兄があたしの中にいる、って思っただけで登り詰めちゃった」
「そうなんだ……。そんなこともあるんだな」
「ケン兄はどうだった? 気持ち良かった?」
「俺はおまえと抱き合ってる時に気持ち良くなかったことなんか今まで一度もないよ」
ケンジはマユミの頬を両手で柔らかく包み込んで微笑んだ。マユミは照れたように笑った。
ケンジは妹に小さくキスをした後、枕元のティッシュを数枚手に取り、彼女に渡してからゆっくりと身体を離した。
◆
ケンジのケータイが鳴った。
『わいや。二人とも起きたか?』
「ああ。起きてる」
『下に降りてもええか?』
「ごめんな、気を遣わせちゃって。大丈夫。降りてこいよ」
『わかった。ほな』
すぐにケネスは階下に降りてきた。ケンジとマユミは並んで階段の下に立ち、広い窓から外を眺めていた。「おはようさん」
「おはよう。ケニー」マユミが言った。
「しかし、よう降ったな」ケネスも窓の外を真っ白に埋め尽くした雪景色に目をやった。
「ほんとだね」
「この冬一番だな、こんなに積もったの」
ケネスはケンジに顔を向け直した。
「ゆっくり眠れたか?」
「ああ。ぐっすり眠れたよ」
「ほんまに?」
「何だよ」
「ケンジ、お前マーユを一晩中眠らせんかったんとちゃうやろな」
「一晩中はさすがに……」
「ちょっとこっち来てくれへんか、ケンジ」ケネスはケンジの手をとり、入り口のドアのところまで引っ張っていった。
「な、何だよ」
ケネスは小声で言った。「昨夜わいな、お前らがエッチしとる現場、盗み見してもうた」
「えっ?!」
「ごめん」ケネスは両手を合わせてケンジを拝んだ。「悪気はなかってんで。そやけど、身体が勝手に、なんちゅうか、こう……」
「そうか……。こっちこそごめんな。なりふり構わずやってたから、お前を刺激しちゃったんだろ?」
「なりふり構わず……まさにそんな感じやったな……。そやけど、わい、くっつき合ったお前ら見るの、二回目やしな」
「そうか、夏の無人島が最初だったな」
「ああ、そやったな、ビーチでやっとったな。それ入れたら三回目やな」
「え? 何で三回目なんだよ」
「無人島で一回、その夜、民宿でおまえらまた繋がっとったやんか。しかもその時は連続で五回も」
ケネスがウィンクすると、ケンジは赤面して頬をぽりぽりと掻いた。
そこにマユミがやって来た。「ねえねえ、何こそこそ話してるの?」
「え? い、いや、何でもない」
「隠し事なし。気になるじゃん」
ケネスはケンジをちらりと見た。「いいよ」ケンジが言った。
「あ、あのな、マーユ、気い悪くせんといてな。あのな、わいな、ふ、二人の、その、なんや、あ、あれを……」
「見てくれてたんでしょ?」マユミはにこにこ笑いながら言った。
「えっ?!」ケンジとケネスが同時に叫んだ。
「知ってたよ。あたし。ケニーが上から見てたの」
「ほ、ほんまか?」
「うん。嬉しかったよ。ケン兄と愛し合うのをケニーに見られてて。夏に民宿で見られてたってわかった時も、とっても嬉しかったしね」
「う、嬉しいって、マユ……」
「それに、見てる前でやってもらいたい、って言ったのケニーじゃん」
「そ、そうやったかいな……」
ケンジとケネスは揃って困ったように頭を掻いた。
その時、ドアの向こうで声がした。
「朝ご飯持ってきたったでー」シヅ子の声だった。ケネスはドアを開けた。
「おはようさん。二人ともええ朝、迎えられたか?」シヅ子は持ってきたトレイをケネスに預けながら笑顔でそう言った。
「そりゃもう、最高の朝やったみたいやで」ケネスが言ってケンジにウィンクした。
「え?! も、もしかしてさっきのも見てたのか? お前」ケンジが小声で言った。横からマユミがケンジに囁いた。「あたし、知ってたよ」ケンジは真っ赤になった。
「ほな、コーヒー取りに来」シヅ子が言った。
「わかった、わいが取りに行くわ」ケネスがドアから出て母親のシヅ子といっしょに本宅に消えた。
トーストとスクランブルエッグ、それに生野菜が載ったトレイをテーブルに置いて、マユミとケンジは窓際に立った。
「まぶしいね」
「そうだな。辺り一面銀色に輝いてる」ケンジはマユミの肩にそっと手を乗せた。
「ケン兄」
「何だ?」
「言い忘れてた」
「何を?」
「お誕生日、おめでとう」
ケンジは破顔一笑した。
「マユも。おめでとう」
ケンジはマユミの肩に置いた手を彼女の脇に回して、抱き寄せた。
「コーヒー持ってきたでー」ドアの外でケネスの声がした。
「今、開ける」ケンジはマユミから腕を離してドアに急いだ。そしてケネスから3つのカップが乗せられたトレイを受け取った。ケネスは中に入ってドアを閉めた。
「マーユ、朝日の中で輝いとるわ」
ケンジも振り返ってマユミを見た。マユミは二人を見て微笑んでいた。
「ほんとだ」
「きれいやな……」
背後からのきらめく、まぶしい光を浴びて、マユミの髪に天使のような黄金色の輪ができていた。
――the End
2013,8,1 最終脱稿(2016,5,14改訂)
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《White Chocolate Time あとがき》
エンディングまでお楽しみいただけましたでしょうか。いつも最後までお読み下さっていることに心より感謝します。
第3話『Mint Chocolate Time』が恋人たちの夏のアツアツを描いたものであるならば、この第4話は、恋人たちのもうひとつの大イベント、クリスマス……であるはずが、実はケンジとマユミの誕生日のラブラブな夜を描いた話です。
いずれにしても、冬もまた恋人たちにとっては素敵な季節。おおっぴらに肩を抱き合い、身を寄せて歩ける季節。とは言っても、この二人は恋人同士である前に兄妹ですから、あまり人前でべたべたするわけにはいかない。ケンジはそういうことをかなり意識しているのに、マユミはあまり気に掛けず、遠慮なくケンジに甘えます。
ケネスの家『Simpson's Chocolate House』は、カントリー風の三角屋根が特徴の大きな店舗。一階部分は広い売り場と喫茶スペース。入り口を入って向かって左奥が、創始者アルバートとその息子ケネスのアトリエ。全面ガラス張りで、売り場から中は丸見えです。全て、お客様に仕事ぶりを見せることができる、というのは、腕に自信のあるショコラティエの矜恃とも言えます。
売り場の奥にレジ。その横に、チョコレート風味のコーヒーの入ったデキャンタ。カウンターがあって、ここでプレゼント包装や大口注文や予約の受付をします。レジの後ろの壁の向こうは応接室とちょっとしたイベントホール。アトリエとは別のキッチンがあって、ここで喫茶スペースに出されるものを準備します。
二階には居住スペースがあって、寝室が一つと客間、リビング、ダイニングキッチン。一階にはシャワールーム、二階には浴槽付きのバスルーム。
そして隣り合わせに建っている別宅が、今回のケンジとマユミのアツアツの舞台になっているわけです。
ケンジとマユミは双子なので、誕生日は同じ日。考えてみれば、この日にお互いがお互いに「おめでとう」と言えるのは、とても幸せなことですね。そうやって二人が同時に祝福し合うことで、同じ時間を過ごしているという意識を普通のカップル以上に持つことができるのです。
なおこのエピソードは、始めケンジとマユミ、それにケネスがその中心となって展開するストーリーとして公開していましたが、前作『Bitter Chocolate Time』や第1作『Chocolate Time』でも脇役として登場した、ケンジの友人の康男と拓志を出演させるシーンを新たに書き加えて改訂しました。ケンジたちの秘密の関係を強調して、少しばかりのドキドキ感を添えたかったからです。
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