Twin's Story 11 "Sweet Chocolate Time"

《5 ハネムーン》

 

 その五日後。どの客室からもワイキキビーチが広く見渡せるホテル。その最上階レストラン。

 

「懐かしい!」龍がレストラン入り口で叫んだ。

「ほんとだね」真雪も言った。

前に来た時も、このレストランでディナーだったよね」テーブルに案内されながら龍が健太郎に言った。

「そうだったな。あん時はミカさん相当酔っ払ってて大変だったよな」

「で、その晩ケン兄は、」龍がおかしそうに口を押さえた。

「なんだよ」

素敵な時間を過ごしたんだよね」

「いいなー、」春菜がつぶやいた。「私も来たかったなー、その時」

 

「すんげーいい感じじゃね?」修平がホールを見回しながら言った。

「さすが観光地って感じだね」夏輝が言った。

 

 6人はテーブルを囲んだ。

 

「で、龍たちは今日のツアーどうだったんだ?」

「真雪がさ、どうしてもやりたかったって言って、ノースショアで乗馬だよ」

「へえ、ハワイで乗馬ができるんだ」

「海岸をね、40分ぐらいだけどね」真雪が言った。「気持ち良かったよ。馬もおとなしかったし」

「おまえにかかっちゃ、どんな馬でもおとなしくなるだろ。龍を含めて」健太郎が言った。

「俺、馬じゃないし」龍が言った。「それにウミガメも見たし、なかなか満足した。ところで修平さんたちは随分早くにホテルに帰ってきてたみたいだけど」

「ああ。ツアーの出発が朝早かったからな」

「シュノーケリング、どうだったの? 夏輝」春菜が訊いた。

「あたし、初めてだったけど、すっごく感動した。海があんなに透明だとは思わなかった」

「修平は経験あったのか?」健太郎が訊いた。

「いや、俺も初めてだったよ。なんだが病みつきになりそうだ。インストラクターも親切だったしな」修平がにやにやしながら言った。

「こいつな、若い女のインストラクターにでれでれしちゃって。まったく」夏輝がため息をつきながら言った。

「いやあ、外国人ってスタイルいいかんなー」修平が頭を掻いた。「そういうおまえだって、男のインストラクターにえらく愛想良くしてたじゃねえか」

「だってイケメンだったんだもん」

「よくあるハネムーンでの亀裂のきっかけ、ってやつだね」龍がおかしそうに言った。

「春菜たちは?」真雪が訊いた。

「俺たちはずっとワイキキビーチとショッピングだったな」

「ゆっくり過ごせたよね」春菜が言った。「絵を描く時間もあったから、充実してた」

「さすがだね、春菜」夏輝が言った。

 

「明日はみんなで『ウェット・アンド・ワイルド・ハワイ 絶叫ウォータースライダーを楽しもう!』だなっ!」修平が嬉しそうに言った。

「修平さん、そんなの好きそうだね」

「いくつになっても遊園地の絶叫系はわくわくするね」

「へたすると、こいつ、一人で勝手に盛り上がっちゃうからね。あたしのこと放っといてさ」

「でも、その明日のために夏輝、新しい水着買ったんだろ? 今日の昼間」修平が言った。

「うん。春菜といっしょに選んだよね」

「夏輝のビキニかわいいんだよ」春菜が健太郎に言った。

「へえ。明日が楽しみだね。ルナのは?」

「内緒」春菜は赤くなって小さく言った。

「なかなかきわどいんだよ、ケンちゃん。楽しみにしててね。そうだよ、春菜今夜着て見せればいいじゃん。ケンちゃんにさ。そしてそのまま雰囲気を盛り上げてなだれ込めば?」

「それもいいかも」春菜がさらに聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。

 

「でも、春菜、ケンちゃんの水着も買ってたよね」

「え? そうなのか?」健太郎がちょっと驚いて言った。

「そうだよ。知らなかったの?」

「俺、修平とコーヒー飲んでたからなーその時」

「どんな水着?」龍が興味を示した。

「明日見られるよ」夏輝が楽しそうに言った。

 

 ウェイターが飲み物を運んできた。

 

「よしっ! 乾杯しようぜ!」修平が威勢よく言った。6人はビールの注がれたグラスを手に持った。

「我々の幸せな未来のために!」健太郎が叫んだ。「かんぱいっ!」

 

 乾杯ーっ! グラスが触れ合う軽快な音が響いた。一同は手に持ったグラスのビールを飲み干した。

 

「ぷはーっ! やっぱ熱帯のビールはうめーな!」修平が口を拭った。

 夏輝がテーブルに並んだ瓶を手に取った。「これって、ハワイのビール?」

「そう。コナビール。ヤモリのロゴがかわいいよね」春菜が言った。

「これってヤモリなんだ」

「そう。幸運のシンボルなんだってさ」龍が言った。「今飲んだのはビッグボード・ラガー。コナビールと言えばこれだね」

「そう言えば昼間見た。このラベル。ショッピングセンターで」

 龍はメニューを手に取って、みんなに見せながら言った。「これが軽めのビッグウェーブ・ゴールデンエール。フルーティで飲みやすいよ。そしてこっちはコクのあるファイアロック・ペールエール」

「全部飲んでみよ」夏輝が言ってウェイターに手を振った。

 

「しかし、龍はものをよく知ってるよ」修平が感心したように言った。「さすがジャーナリストだけのことはあるな」

「今はパソコンがあるからね。それでも龍の部屋は本だらけなんだよ」真雪が呆れたように言った。「あたしたちが住むとこなくなりそうだよ」

「それは半分真雪のせいだろ」龍がオードブルをがっつきながら言った。

「なんであたしのせい?」

「俺が君を『マユ姉』って呼んでた頃に、君の博識さに感動してさ。それから俺、本を読みあさるようになったんだから」

「マユはたしかに一つのものに熱中するととことん、って感じだったからなー」健太郎はビールを煽った。

「そのお陰でいろんな資格を取れたんだよね」春菜が言った。

 

「にしても、」夏輝が龍を見て言った。「もっとさ、味わいながら食べたら? 龍くん。もうその皿、何にも載ってないじゃん。しかも使う前のようにきれいになってる。舐めたみたいに」

「これが俺の味わい方なんだ。ちゃんと全部食べてるでしょ」

 

 真雪が一同に向かって言った。「龍はね、セックスをフルコースに喩えたことがあってね」

「ええっ?」健太郎が眉を寄せた。

「そんなこと覚えてるの? 真雪」龍が少し驚いたように言った。

「あたし一生忘れないと思うよ。あなたから聞いた時、すっごく感動したもん」

「で、で、どんな喩えなんだ?」修平が身を乗り出した。

 

 真雪は声のトーンを落とした。「抱いて身体を重ね合うオードブル、おっぱいはサラダ、舐めるのはスープ。そしてメインディッシュはフィニッシュ」

「なかなかの喩えだ。確かに」夏輝が言った。

「キスはお酒。食事の間、何度も味わって気持ち良くなるから」

「なるほど」

「そして余韻がコーヒーで、その後の会話がスイーツ」

「龍もやるねー。うまいこと言う」

「だから、それは受け売りだってば」龍が照れながら言った。

「それにしちゃ、龍、最初のオードブルから、えらくがっついてたようだが」健太郎が龍を横目で見て言った。

「もう我慢できないんじゃない?」夏輝が言った。「早く真雪を抱きたいんでしょ?」

「やだー、龍のエッチ!」真雪は隣の龍の後頭部を軽くひっぱたいた。

「ち、違うよ!」龍は赤面した。