Twin's Story 11 "Sweet Chocolate Time"

《6 ケネスの過去》

 

 『シンチョコ』の定休日。別宅、離れのリビングでミカとケンジ、ケネスとマユミが午後のコーヒータイムを楽しんでいた。

 

「久しぶりにスクールの休みとかぶったね」ミカが言った。

「ほんまやな。こうして四人でゆっくりコーヒータイムできるのも、しばらくぶりや」

「あいつら、今頃お楽しみ中かな」ミカが時計を見て言った。

「ディナーも済んでやれやれ、ってところだな」ケンジが言った。

「やつらにとってはこれからがわくわくのプライベートタイム。一晩中寝る暇なんてないよ、きっと」

 

「そやけど、わいらもええ歳になってもうたな」

「まだまだだよ」マユミが言った。「これからじゃない」

「マユミの言うとおり。人生これからが本番。楽しまなきゃ」

「そうだな。子どもたちも本格的に独立したわけだしな」ケンジが感慨深げに言った。

「龍と真雪はしばらくはケンジんちで一緒に暮らすんやろ?」

「ああ。でもなー」

「どないした?」

「龍の部屋、手狭になっちまって、二人で暮らすにはちょっと無理があるんだ」

「そうなんだよ」ミカが言った。「あいつと真雪、ふたりでも狭いのに、龍のカメラ道具、山のような本、パソコン。そこに真雪の持ち物が入るスペースはない」

「どうするの?」マユミが訊いた。

「今さ、マンションをいくつかあたってる」

「この近くにいい物件があるんだ。ほら、そこの公園の裏手」

「ああ、あそこな。日当たりも良さそうやんか。そやけど、あのマンション、二世帯どころの話やないで。広すぎるんとちゃうか?」

「いや、俺の両親もいっしょに暮らそうと思ってね」ケンジが言った。「もういい歳だし」

「そうなれば三世帯! ほんで龍と真雪に子どもでもできたら親子四代一つ屋根の下やないか」

「いいだろ? 理想的だよ。子どもにとっちゃ。じいちゃん、ばあちゃんと一緒に暮らせるなんてさ」ミカが言った。

「きっとパパもママも喜ぶよ。ケン兄ありがとうね」マユミが言った。

「おまえもアルバートさん夫婦、大切にしろよ」

「十分大切にしてもうてるで。マーユにはな」ケネスが微笑んでコーヒーを一口飲んだ。

 

「龍も真雪も、二人でけっこう蓄えてるみたいでさ。早ければ夏までには引っ越せるといいね、って言ってるとこだよ」

「ちゃんと考えてるじゃない、二人とも」マユミが感心したように言った。

「でもさ、うちに嫁さんがくる、っつっても、真雪だからな。あんまり今までと変わらない感じだ」ケンジが言った。

「そう言いながら、実はかなり嬉しいんだよ、この人」

「へえ、なんでやねん」

「うちは一人息子だったでしょ。娘が家にいるってだけで、雰囲気が全然違うよ。親子同然の真雪でもね」

「実は俺、ちょっと気を遣う。真雪に」

「手だけは出さないでくれよ」ミカが横目でケンジを睨んだ。

「出すかっ!」

 

「で、ここはどうするんだ? ケネス」

「店の二階から親父とおかんを追い出して、この離れの一階に隠居させるつもりや。わいとマーユが本宅の二階に住む。その方が店に出るのに便利やからな」

「じゃあ、今まで真雪がいた部屋は?」

「この二階の二部屋を一つにして新婚夫婦の部屋にしたらなあかん、思てる」

「なるほどな」ケンジが言った。

 

 

「それにしても、今日はいい天気だな」ケンジが一度伸びをしてそう言い、着ていたトレーナーを脱ぎ始めた。

「ほんとにね。まるで春の陽気ってとこだよ」ミカもそう言って上着を脱ぎ、黒いノースリーブのシャツ一枚になった。

「この部屋、日当たりいいからね」マユミが言った。「ぽかぽかして気持ちいいよね」

「ひょっとしてミカ姉、ノーブラか?」ケネスが訊いた。

「OFFの時は時々ね」

「ミカ姉のバスト、型崩れもせんと、若々しいな、相変わらず」ケネスが言った。

「そう?」ミカがセクシーポーズをとってみせた。「マユミもだよね」

「え? そんなことないよ」マユミが胸を押さえて少し照れたように言った。

「それが真雪に遺伝して、龍はその虜になった。ってか」ミカは笑った。

 

「ところでさ、」ケンジが身を乗り出した。「俺、いつか聞いてやろうと思ってたんだが、」そしてケネスを見た。

「な、なんやねん、ケンジ。わいのことか?」

「ああ。おまえさ、初体験って、いつで、相手は誰だったんだ?」

「おお! いいね。聞きたい、あたしも。マユミは知ってんの?」

「ううん。聞いたことない」

「よし、初公開、ケニーの初体験物語」

「そ、そんなこと今さらなんで話さなあかんねん」

「何だよ。おまえ今まで俺たちをさんざんおちょくっておきながら、自分の恥ずかしい過去を封印し続ける気か?」

「わいがいつおまえらをおちょくったっちゅうねん」

「いいから、話しなよ。もう30年以上も前の話だろ。何があったとしても時効だ時効」

「しゃあないな……」

 

 ケネスは語り始めた。

 

 ――トロントの片田舎でアルバートが始めた小さなチョコレートハウスは、地域の人々に愛され、固定客も増え始めていた。日本仕込みの腕の良いショコラティエ、アルバート・シンプソンの作るスイーツの味わいもさることながら、彼の妻で関西弁を遠慮なくしゃべるシヅ子も店の看板娘として、その評判に一役買っていた。そしてその夏、この店が話題になるもう一つの出来事があった。

 

「ほんま信じられん話やな」シヅ子が言った。「ケニーが全国大会で3位やなんて」

「本当にな」アルバートが微笑みながら言った。

 

(※註:アルバート・シンプソン始め、ここの話に登場する人物の話言葉はすべて日本語に翻訳されています)

 

「水泳というカナダではマイナーなスポーツを続けているというのも驚きだが、それで全国3位とはな。誇りに思うぞ、父さんは」そう言って彼は中学三年生の一人息子ケネスの頭を撫で回すのだった。

 

 小さな町のこと、その噂は一気に広がった。ケネスも店の看板になったと言っても過言ではなかった。

 

 

 ある日、ケネスは、以前からつき合いのあるカフェにココアパウダーとチョコレートを届けに行った。その小さなカフェ『ウォールナッツ』も、その町に古くからある庶民のための憩いの場として親しまれていた。いつものように店の主人はケネスを笑顔で出迎え、品物を受け取りながら言った。「全国大会で3位だったってな、ケニー。すごいじゃないか」

「ありがとうございます」ケネスは頭を掻いた。

 

(※註:ケネスが英語でしゃべる時は、当然ながら関西弁ではありません)

 

 店の奥から、手をかけているとは言いがたいカールした髪の女性が顔を出した。「お、ケニー! おまえやるじゃん。全国3位。すげえな」

「ジェニファー、君のその乱暴な言葉遣い何とかならないの?」

「そうだそうだ」店の主人もその娘の方を向いて言った。「そんなんだから、いつまでたっても彼氏ができないんだぞ」

「いらねえよ、彼氏なんて」そして彼女はすぐに顔を引っ込めて二階にどたどたと上がっていった。

 

 その店には兄妹がいた。兄はすでに成人していて両親と一緒に店を切り盛りしているトニー(22)、そして妹が今のジェニファー(19)。彼女は法律の勉強のために大学に通っていた。

 

「それじゃ、これ、お代な。ケニー、アルバートによろしく」

「わかったよ、おじさん」

 ケネスは店を出た。

 

 

 トロントの夏は短い。あっという間に秋も過ぎ、11月がやってきた。そんなある日の昼下がり。

 

「ケニー、『ウォールナッツ』から今電話があった。クッキーの材料が足りなくなりそうだから、急いで届けてほしいって」

「いいよ」ケネスはアルバートからチョコチップの詰められた大きな袋を受け取ると、すぐに『ウォールナッツ』に向かって駆け出した。外は強い北風が吹いていた。

「すまんな、ケニー」店の主人はそれを受け取った。「ん?」主人は窓から戸外に目をやった。

「あ、」ケネスも外を見た。街路樹が真っ白で見えなくなっている。

「吹雪いてきた……。こりゃ当分やみそうにないぞ」

「珍しいね、この時期にこんなに……」ケネスはため息をついた。

「上がりな、ケニー。吹雪が収まるまで上でゆっくりしていけ」

「え?」

「これじゃ帰れんだろう。アルバートには私が連絡しておくよ」

「じゃ、遠慮なく」ケネスは二階への階段を昇り始めた。

 

 階段を途中まで上がったところで、上から声がした。「ケニー、こっちに来いよ」

 それはジェニファーの声だった。

「あ、ジェニファー」ケネスは言われた通りに彼女の部屋に入った。爽やかなラベンダーの香りがした。

 

「へえ……」ケネスは部屋の中を見回した。女の子らしい明るい部屋だった。暖色系の色合いで統一されていた。かわいらしいクマのアップリケのついたベッドカバーの掛けられたベッドの上に、不釣り合いな法律の本が伏せて置いてある。

「ま、ゆっくりしてけよ」ジェニファーが言った。

「ごめんね、勉強中だったんでしょ?」

「なんてことないよ。そこに座って、ケニー」

 

 ジェニファーがケネスをベッドに座らせた。ジェニファーも彼の横に座った。体温が感じられるほどの近さだった。ケネスは胸がどきどきし始めた。

 

「ケニーには彼女いるのか?」

「え?」突然の質問にケネスは驚いてジェニファーの顔を見た。彼女は頬を赤く染めて微笑んでいた。

「いるの?」ジェニファーがもう一度訊いた。

 ケネスはうつむき加減で小さく言った。「い、いないけど……」

「そうなんだー」ジェニファーはケネスの顔をのぞき込んだ。「じゃあさ、セックスもまだなんでしょ?」

「ええっ!」ケネスは真っ赤になって、またジェニファーの顔を見た。

「あたしが教えてあげようか、ケニー」

「ジェ、ジェニファー、ほ、本気で言ってるの?」

「知っといた方がいいよ、先々のためにもさ」いつものように屈託なく豪快に話すジェニファーの真意を測りかねていると、ジェニファーは急に立ち上がり、ケネスの前に立って出し抜けに彼にキスをした。

「ジェ、ジェニファー!」ケネスはますます真っ赤になって叫んだ。「だ、だっ、だめだよ、お、俺、そんな……」

「もしかして、キスも初めてだった?」

「……」ケネスは黙ってうつむいた。

「あたしさ、あんたに抱かれたかったんだよねー」

 ケネスはとっさに顔を上げた。「だ、だ、抱かれたかったって……」

「あんたの身体見てると、あたしの身体が疼くんだ。オトコのあんたにはわからないだろうけどさ」そう言いながらジェニファーは服を脱ぎ始めた。「ケニーも脱いでよ。教えてあげる」

 

 ためらっているケネスにしびれを切らしたジェニファーは、彼を半ばベッドに押さえつけながら服をはぎ取っていった。「あっ、あっ! ジェ、ジェニファー!」

 ケネスはあっという間に下着だけの裸にされていた。同じようにショーツ一枚になったジェニファーは、自分がベッドに押し倒したケネスの身体を見下ろして短く口笛を吹いた。「中学生のくせに、なに、その下着。超セクシーじゃん」

 

 ケネスは黒いピッタリとした短い下着を穿いていた。

 

「大丈夫、緊張しないで。あたしに任せて」ジェニファーは今までで一番優しい声でそう言うと、ケネスの身体に自分の身体を重ねた。

「ああ……」ケネスは情けない声を出した。自分の胸に弾力のあるジェニファーの乳房が押し付けられたからだった。彼のペニスはショーツの中ではち切れんばかりの大きさになっていた。

 

「咥えたら、すぐに果てちゃうかな?」ジェニファーがケネスの下着に手を掛けて言った。

「え? ええっ?! く、咥えるっ?!」ケネスは最高に動揺した。「くっ、くっ、口で咥えるの? こ、これを?」

「当たり前だろ。鼻で咥えられっか」

「ジェ、ジェ、ジェニファーの口が、僕の……」

「そうだよ。それがセックスの順序ってもんだ」

 

 ケネスは荒い呼吸をしながら言った。「た、たぶんすぐに出ちゃう……」

 

「そうか」ジェニファーは笑いながら下着をはぎ取り、ケネスを全裸にした。「じゃあ、少しだけね」

 ケネスに考える暇も与えず、ジェニファーはケネスのペニスを深く咥え込んだ。

「あああっ!」ケネスは突然襲いかかった快感に身を仰け反らせた。

 

 ひとしきりペニスを唾液で濡らしたジェニファーは身を起こし、ケネスの横に仰向けになった。「入れてみて、あたしに」

 ケネスは起き上がり、大きく広げられたジェニファーの脚の間にひざまづいた。そしてごくりと唾を飲み込んで恐る恐る自分のものを握り、初めて見るジェニファーの股間にあてがった。

 

「ゆっくりでいいからね。焦らないで、ケニー」

「う、うん……」

 

 すでにジェニファーの谷間は潤っていた。

 

「あ、も、もうちょっと下だよ」

「え? こ、このあたり?」

 

 彼女に手助けしてもらいながら、ケネスは自分のペニスをその神秘の場所に挿入し始めた。そしてそれは思いの外あっけなくそこに入り込んだ。「んっ!」ジェニファーが小さく呻いた。

「あ、ああ、いいよ、気持ちいい、ケニー。そのまま動いて」

「ジェ、ジェニファー」ケネスは腰を前後に動かし始めた。自分の部屋で息をひそめて一人エッチをする時とは比べものにならないほどの気持ちよさだった。そして目の前に絶頂がやってきた。

 

「あ、ああ、ジェニファー、ぼ、僕もう……」

「イくの? 早いね。でもそんなもんか。いいよ、ケニー、イって」

 

 ケネスは激しく腰を動かし始めると、すぐに大きく喘ぎ始めた。「ああああ、イ、イく、イっちゃうっ!」

 

「ケニー、」ジェニファーは自分の乳房を両手で握りしめた。

 

「で、出るっ!」ぐうっ! という呻き声とともに、ケネスは登り詰め、勢いよく射精を始めた。

 

「ああああああーっ!」ケネスは顎を上げて叫ぶ。「ジェ、ジェニファーっ!」

 

 

「どう? 気持ち良かったでしょ?」

「ジェ、ジェニファー、ぼ、僕……」

「やっと願いがかなった。あたしずっとケニーとセックスしたかったんだ」

「で、でも、ジェニファーはイけなかったでしょ?」

「初めてだもん。しょうがないよ。だんだん上手になるって」ジェニファーは並んで横になったケネスの頭を撫でた。

 

 

 その日からケネスはたびたび『ウォールナッツ』に通い、ジェニファーと繋がり合った。しかし、二人は恋人というわけではなかった。その時以外のつき合いはほとんどなかった。ただジェニファーのベッドで繋がり合い、気持ちよくなる瞬間を共にする、それだけの関係だった。

 

 

 そんなある日、いつものようにケネスはココアパウダーとチョコレートを持って『ウォールナッツ』を訪ねた。品物を渡した時、店の奥で働いていたジェニファーの兄トニーがケネスに声を掛けた。

「ケニー、ちょっと上がっていかないか」

「え?」

「おまえに話があるんだ。ちょっとだけ」トニーは洗った手をタオルで拭きながら笑顔でそう言うと、身につけていたエプロンを外した。

「来いよ」

 

 トニーの部屋は一階の奥にあった。ジェニファーの部屋と違い、質素な感じだった。ミントの香りがした。

 ケネスが部屋に入ったのを見届けたトニーは、笑いながら言った。「妹の身体、気持ちいいか? ケニー」

「ええっ?!」

「時々あいつを抱きに来てるだろ、おまえ」

「し、知ってたの? トニーさん」

「あいつ狙ってたんだ、以前からおまえを」

「ね、狙ってたって……」

 

 トニーはケネスに近づいた。そして静かに言った。

「俺も、おまえを狙ってた」いきなりトニーの口がケネスの唇を押さえつけた。「んんんっ!」ケネスは目を見開いて呻いた。

 

 ケネスの身体から熱いモノがこみ上げてきた。トニーの舌が唇を割って口の中に入り込んできた。ケネスは抵抗できなかった。いや、抵抗しなかった。ジェニファーとは違う温もりを、ジェニファーとは違う匂いを、ジェニファーとは違う肌の感触を、その時ケネスは味わっていた。

 

 いつしかトニーとケネスは全裸になり、ベッドで抱き合っていた。無言のままトニーがケネスの乳首を舐め、首筋を舐め、手でペニスをさすり、背中に腕を回して抱きしめる度、ケネスの身体は熱くなっていった。自分が男性に身体を愛されて感じていることを、しかし不思議に拒絶していなかった。重なり合ったトニーとケネスは、お互いのペニスを擦りつけ合って、先にケネスが、そしてしばらくしてトニーが絶頂を迎えた。二人の腹部に大量の二人分の精液が放出され、ぬるぬるとお互いの腹が擦りつけ合わされた。

 

 大きく息をしながら、上になったトニーは言った。「すまん、ケニー、オトコなんかに抱かれたくなかっただろ? でも俺、おまえを見てると我慢できない。我慢できなかったんだ……」

「ト、トニーさん、僕、何だか……」

 

 ケネスはトニーの身体の温かさを感じながら、目を閉じて荒い息が収まるのを待った。