《4.高円寺 ユウナ》
神父尊「さて、物語の中で、それはそれで重要なファクターである悪役について語り合いたいと思います。お呼びしたのはユウナさんです。ユウナさん、ようこそいらっしゃいました。」
ユウナ「こんにちは。私のようなちょい役のキャラクターを呼んでいただけるなんて、とても光栄です。」
神父尊「いえいえ。貴女は十分活躍してます。何より真雪ちゃんを殴って諭す場面では、読者は貴女の行動にとても共感したのではないか、と思いますよ。」
ユウナ「そうですか。確かにあの時は、本当に真雪のことが心配でした。彼女の不倫の事実を知った時、私は何としてでもあの子の目を覚ましてあげなきゃ、って思いました。」
神父尊「どうやってあの事実を知ったんですか?」
ユウナ「一つは噂です。」
神父尊「噂?」
ユウナ「はい。実習生の間に、板東 俊介は若い女性を誘惑するという悪癖を持っていて、毎年実習生の誰かを狙っている、という噂。」
神父尊「そんな噂が・・・。」
ユウナ「私がそれを耳にしたのは、もう真雪があの男に食事に誘われた後でした。」
神父尊「でも、真雪ちゃんが板東に誘われたことは、誰も知らなかったはずですよね。」
ユウナ「あたし、その翌朝、真雪の様子が変だったので、もしかしたら、って思ったんです。それまでの実習の中でも、板東は不自然に真雪に接近 してましたから。」
神父尊「なるほど。」
ユウナ「そして、あたし、結果的にあの子が三日目に板東に連れ去られた夜、板東の部屋の前でドアから漏れる二人のやりとりをこっそり聞いてしまったんです。」
神父尊「それで、貴女は真雪ちゃんの部屋で彼女を待ちかまえてた、ということなんですね?」
ユウナ「はい。私も必死でした。真雪がそのまま板東に走ったりすることだけは許せなかったですからね。」
神父尊「貴女のお陰で真雪ちゃんは龍くんの赦しを得ることができたんだと思います。作者が言うのもなんですけど、本当にありがとうございました。」
ユウナ「とんでもない。でもあの時はもう、真雪は自分で反省してましたし、激しく後悔してましたから。私がいなくても、きっと立ち直れてたと思います。」
神父尊「でも、ユウナさん、」
ユウナ「はい?」
神父尊「あなたとリサさん、しっかり板東に仕返しをしてくださいましたね。」
ユウナ「(胸を反らせて)はいっ!あれはあたしたちだけに与えられた特権かつ重要な役回りでした。」
神父尊「結局板東は職場で若い事務長の女性と不倫を続けていたにも関わらず、毎年実習生に手を出して関係を持っていたわけですよね?」
ユウナ「そうです。それに元々あいつは妻子持ち。」
神父尊「あなたたちの実習の年は、真雪ちゃんが被害者だったわけですが、その前の年には『愛人』と呼ばせるまで実習生の女性を弄んだそうじゃないですか。」
ユウナ「実はその年は、もう一人関係を持った実習生がいたんです。」
神父尊「ええっ?!」
ユウナ「つまり、妻、事務長、その二人の実習生との四股がけ!」
神父尊「無茶苦茶ですねっ!」
ユウナ「よくもまあ、懲りずにそんなことができたもんだと思います。ある意味感心しますね。その数年前にはやはり実習生を実に妊娠までさせて、その事実を知った時、無理矢理病院へ連れて行って中絶手術を受けさせたらしいです。」
神父尊「な、何と!」
ユウナ「あたしとリサの報復措置は見事に奏功して、その後板東俊介は奥様に離縁状を叩きつけられました。」
神父尊「当然でしょう。」
ユウナ「事務長からも捨てられ、裁判所の離婚調停の結果、慰謝料と養育費を払い続けなければならない状況になったそうですよ。」
神父尊「ざまあみろ。」
ユウナ「板東俊介は今はあの水族館にはいません。ま、あの事務長がいる限りいられませんよね。別の職を探したんでしょう。ま、どこで働いているかなんてあたしたちの知ったことではないですけどね。」
神父尊「因果応報ってことですね。」
ユウナ「その通りです。」
神父尊「僕がね、ユウナさん、」
ユウナ「はい。」
神父尊「このシリーズ中、最もむかつく言葉が、このエピソード10の中に出てくるんです。」
ユウナ「むかつく言葉、ですか?」
神父尊「はい。板東が真雪ちゃんと関係を持った次の夜、また彼女を部屋に連れ込んで半ば無理矢理セックスをした後に口にする『それとも、彼のこと、もう忘れちゃう?』」
ユウナ「(いきなり立ち上がって)あ、あたしもですっ!も、もうヤツのこの台詞聞いた時は、すぐに飛んで行って絞め殺してやろうかと思ったぐらいですっ!」
神父尊「ありがとう、ユウナさん。貴女も同じように感じたんですね。」
ユウナ「オトコのいやらしさ、わがままさ、自己中心さ、独占欲、思いやりのなさ、無神経さ、その他いっぱい。」
神父尊「仰る通りです。あの一言で、板東の性格の悪さが一気に表面化しますね。」
ユウナ「やっぱりあいつは、奈落の底に突き落とすべきオトコだったんです。」
神父尊「さて、この『Chocolate Time』シリーズの中では、悪役と堂々と呼べる人物がその板東を含めて三人存在します。」
ユウナ「そうですね。ヤツとエピソード2のアヤカ、そしてエピソード7の沼口。」
神父尊「ユウナさんは、この三人について、どう思われていますか?」
ユウナ「アヤカ については、確かにケンジさんにかなりひどいことをしていますが、結局ケンジさんやケネスさんのお陰で改心しますよね。」
神父尊「そうですね。」
ユウナ「あのまま悪いヤツ、として話を終わらせる手もあったのではないですか?」
神父尊「はい。ありました。すっごく性格が悪くて、救いようのない女子高生のまま、あの話を終わらせる、というプロットも、実は別にあったのですが、さすがに彼女は未成年でもあるし、将来もあるし、それに、ああいう行動を取らざるを得なかった心境もわからないではないので、最後は穏やかに反省させました。」
ユウナ「美人で、スタイルも良くて、男どものオカズになっていた。あ、失礼、下品な言葉を使ってしまいました。」
神父尊「あはは、構いませんよ。その通りですから。」
ユウナ「そういう、私たち同性から見れば羨ましい状況にあった彼女は、逆に本当に自分のことを見て、大切にしてくれる人を欲していたんでしょう。」
神父尊「男としても、アヤカと付き合うことは、相当大きな冒険でしょうからね。」
ユウナ「はい。周りの男たちからのやっかみや嫌がらせを覚悟して付き合わなければならないわけですしね。」
神父尊「確かにそれはかなりエネルギーを使う。やっぱりアヤカを恋人にしようとしても、腰が引けてしまうのは無理からぬ話でしょう。」
ユウナ「沼口 洋、あれはひどいヤツでしたね。」
神父尊「はい。もう、ばりばりの変態教師として登場しましたからね。」
ユウナ「私、龍くんがあいつにひどいことをされるシーンは、悔しくて、悲しくて、涙ながらに読みました。」
神父尊「そうですか・・・・。」
ユウナ「犯罪者の心理なんか解ろうとも思いませんが、ああいう輩は、それでも世の中には少なくないのではないですか?」
神父尊「僕もそう思います。潜在的にレイプ願望を持った男はかなり多いと思いますよ。もちろん普通はそれを心の中にしまっていて、実際行動に移すのは希ですけどね。」
ユウナ「相手が男でも、ですか?」
神父尊「逆に対象が男である場合の方が、ああして手を出すエネルギーが強いような気がします。沼口もそういうタイプで、相手が男の龍くんであることであそこまで大胆になれた部分というのは、きっとあるでしょう。もちろん、ゲイやバイの人たちの誰もがそうであるはずはないですし、彼らがそんな目で見られるのも僕の本意ではありません。」
ユウナ「あの時も私、龍くんが立ち直れるかどうか、ということをとっても気にしてました。」
神父尊「明るくて、無邪気で、何にでも一生懸命で誠実な龍くんにとって、あの出来事はかなり辛いものだったでしょう。」
ユウナ「初めは自分を責めてましたよね。僕の身体は穢れてる、触らないで、って叫ぶところは、本当に切なくなりました。」
神父尊「あの時、真雪ちゃんや健太郎君がいてくれなかったら、龍くんは立ち直れなかったかもしれません。少なくともあのトラウマはずっと尾を引いていたでしょう。」
ユウナ「そうですね。特にあの時真雪が龍くんを浄化してあげたことが、今度は真雪が不倫のつらい状況になった時の、龍くんの赦しに繋がったのでしょうからね。」
神父尊「あの二人は、どちらもそういう傷を持っている。だから彼らのつながりは誰よりも強くて温かいんだと思います。」
ユウナ「真雪と龍のあつあつぶりは、このシリーズでは有名ですからね。」
神父尊「はい。その通りです。ときにユウナさん、」
ユウナ「はい?」
神父尊「貴女が結婚なさっているなんて、僕は不覚にも知りませんでした。」
ユウナ「そうですか?」
神父尊「はい。なんでもご主人は高円寺豪哉くんだとか。」★
ユウナ「そうです。あたし、あんながさつな男はいやだったんですけど、執拗にプロポーズされて、つい。」
神父尊「つい、ってあなた・・・・。」
ユウナ「でもま、あたしもかなりがさつなオンナなので、あいつには似合っているかも。」
神父尊「同級生なんでしょ?高校の時の。」
ユウナ「はい。真雪や夏輝、健太郎や修平とも仲良しです。」
神父尊「披露宴の時はいなかったみたいだけど。」
ユウナ「はい。豪哉と二人で披露宴に出席するほどの余裕が、あの時はなくて。とにかく寸暇を惜しんで働かないと。」
神父尊「将来料亭を持つのが夢だって言ってたね。」
ユウナ「そうなんですよ。まだちっとも蓄えがないくせに、近頃、借金して建てる、なんて言い出しちゃって、まったく・・・。」
神父尊「豪哉くんも貴女も働き者だし、気立てがいいから近いうちにきっと夢が叶うよ。がんばってね。」
ユウナ「ありがとうございます。」
★註:「Chocolate Time」シリーズの本編には、高円寺豪哉は一度も登場していません。