《9.シンプソン・マユミ》

 

神父尊「さて、お楽しみいただいたこの対談も、最後のゲストをお迎えすることになりました。やはり大トリをつとめていただくのはケンジ君の永遠の恋人、マユミさんです。いらっしゃい。どうぞおかけください。」

マユミ「ありがとうございます。おじゃまします。」

神父尊「さて、このシリーズのヒロインとしてずっとこの世界を拡げてくださったマユミさんに、まずもって敬意を表します。どうもありがとうございました。」

マユミ「いえいえ。あたしなんか、大したお役に立てていません。ケン兄と一緒に好き勝手なことをやってきただけですよ(笑)。」

神父尊「あのね、マユミさん、」

マユミ「はい。」

神父尊「シリーズの登場人物を設定して、ストーリーを書き始めて、最も早く僕の手を離れたのは、実はあなたなんです。」

マユミ「手を離れた、と仰いますと?」

神父尊「小説を書き始めると、登場人物はどんどん人格を深めていきます。つまり、しゃべる、動く、喜怒哀楽に浸る、ということを重ねていくにつれて、そのキャラクターは、一つの人格を持った『一人の人間』になっていきます。」

マユミ「なるほど。それは、最初の設定以上のものを持ち始める、ってことですね?」

神父尊「その通りです。マユミという人物は、最初は『ケンジの双子の妹』『愛らしい容姿』程度の設定でした。こういう言い方をすると大変失礼なのですが、元々ケンジ君と絡ませるのが目的の萌えキャラだったわけです。」

マユミ「なるほど。でも、いわゆるアダルト小説であればその程度で十分ですね。」

神父尊「そうです。そもそも、この小説は自分で書いて自分で興奮して満足する、という程度のもので、こんな風にネット上で公開するつもりはありませんでした。」

マユミ「それがこんなに長く続いたって・・・。」

神父尊「ひとえに貴女やケンジ君を始めとする魅力的なキャラクターのお陰です。」

マユミ「そう言っていただけると、あたしたちも嬉しいです。そう言えば、ケン兄は、最初から最後までずっとシャイなままでしたね。」

神父尊「小さい頃からそうだったの?」

マユミ「はい。彼は先頭に立つ、というより、最後尾で見守るという感じの子どもでしたね。でも、あの人の偉いところは、それでも人の言いなりにはならない。人の意見をちゃんと聞いた上で、自分の主張もできる。そういう人なんです。」

神父尊「そうだね。彼は初め、すっごく頼りない感じで登場しましたけど、回を重ねるごとにしっかりしてきました。まあ、貴女との時間では結構わがままなところもありましたけどね。」

マユミ「うふふ、そうですね。あの人は隠し事が苦手で、すぐ顔に出ちゃう。あたしを抱きたがってるんだな、ってことは、もう顔を見ただけでわかりました。」

神父尊「貴女の前ではケンジ君。かわいい子どもになって、甘えることができたんでしょう。そういう意味で、貴女は本当にケンジ君を上手にコントロールしていました。」

マユミ「そうですね。確かにそんな感じでした。」

神父尊「物語が進んで行くにつれて、貴女は一人歩きを始めて、甘え上手、大胆、シンが強い、という性格が見えてきました。それは僕が考え出したマユミというキャラに、貴女自身が付け加えていった性格です。そうなると、もう、僕は貴女を勝手に動き回らせることができなくなります。」

マユミ「作者泣かせですね。それって。」

神父尊「いえいえ、僕はかえってそういう状況になることを望んでいます。」

マユミ「どうしてですか?」

神父尊「だって、楽でしょ?キャラクターが勝手に動いてくれるんですから。極端な話、僕は簡単なプロットと結末を考えるだけでいい。」

マユミ「そうなんですね。」

神父尊「それに、エピソード10で、過ちを犯したことを打ち明けた真雪ちゃんを慰めたり、龍くんとの婚約を決意した彼女に釘を刺したりする貴女を見ていると、ああ、ただかわいらしいだけだった女のコが、しっかりと母親になっているんだなあ、って感慨に浸ったものです。」

マユミ「子供を持つ、ということは、人を成長させるものなんですね。あたしも実感としてそれは思います。」

神父尊「貴女がそんな頼り甲斐のある、温かく包み込むような母親になるなんて、書き始めた頃は思いもしませんでした。」

マユミ「キャラクターが人間に近づいていくのですね。」

神父尊「だから、僕の中では、登場する全てのキャラクターは、実在しているんです。僕は貴女たちと一緒に街を歩き、ハワイへ行き、山の温泉に出かけていった。もう楽しくてしようがない。」

マユミ「本当に神父尊さん、嬉しそう。」

神父尊「仕事から帰って、自分の書いたこの物語を読み返すのを、僕は毎日楽しみにしていました。それは『読む』ではなく『会う』という感覚です。」

マユミ「あたしも嬉しいです。作者の神父尊さんがそう思ってくださっているように、ネットで公開されたあたしたちの物語を読んで、あたしたちに会うのを楽しみにしてくださる読者も、きっと多いのでしょうね。」

神父尊「そうなれば、僕は本当に幸せです。」

マユミ「高校二年生だったあたしとケン兄も、最終話ではついにおばあちゃん、おじいちゃんになりました。」

神父尊「はい。これを単純に『アダルト小説』と言ってしまっていいのかどうか疑問も残りますが、さっきも言ったように、もう、キャラクターがどんどん自分の意志で動いてくれる、そうなると、もう僕にも止めることができません。貴女たちの幸せで温かい世界はどんどん広がっていくばかりです。」

マユミ「生まれた真唯と健吾が成長したお話を作る予定はないんですか?」

神父尊「うーん・・・。もはや『Chocolate Time』シリーズで書きたいことは描ききったような気がするし・・・。でも、貴女やケンジ君、ミカさん、龍くんに真雪ちゃん、修平君に夏輝ちゃん、ケネス君、健太郎君と春菜さん、大好きな登場人物たちが住んでいるこの街を舞台に、生まれた双子を活躍させる物語を作ることについては、割と前向きです。」

マユミ「楽しそう!是非お願いします。」

神父尊「本当に長い間ありがとうございました。心より感謝します。」

マユミ「はい。こちらこそ、あたしたちを大切に育ててくださって、ありがとうございました。」