Twin's Story 6 "Macadamia Nuts Chocolate Time"

《13 旅行土産》

 

 ミーンミンミンミンミン……。

 『Simpson's Chocolate House』の駐車場のプラタナスの木で、やかましく蝉が鳴いている。

 

「すっごく楽しかったね」龍が真っ黒に日焼けした顔で言った。

「お前たちは? 健太郎に真雪」ケンジが訊いた。

「うん。楽しかった」

 

 ケネスの家の『離れ』で、7人はテーブルを囲んでいた。床にはアクセサリーや子どもたちのTシャツ、水着、酒やコーヒーなどの土産物が所狭しと広げられていた。

 

「何が一番の思い出って、やっぱりホテルのプールでみんなで競争したことだよね」真雪が言った。

「そうだなあ、本当にあれは気持ちよかった」健太郎も言った。

「また行きたい」龍が言った。「来年も行こうよ、ねえ、父さん」

「○こでもドアが手に入ったらな」

 

「ケン兄ちゃん、マユ姉ちゃん、ビデオ見ようよ。あっちで撮ったビデオ」龍が言った。

「よし、じゃああたしの部屋のテレビで見ようか」真雪が言った。

「うん」龍はテーブルにあったハワイ土産のマカダミアナッツ・チョコレートの箱をつかんだ。「マ、マユ姉ちゃん、飲み物は、何がいい?」龍が少し赤くなって言った。ビデオカメラを持った真雪が言った。「パイナップルジュースがいいな」

「わかった」龍が応えた。健太郎はジュースのペットボトルとコップを3個トレイに乗せた。

 

「ぼ、僕が持っていくよ」龍が健太郎のトレイに手を掛けた。健太郎は龍に囁いた。「龍、お前マユにいいとこ見せたいつもりなんだな?」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「ほら、持っていきな」健太郎は龍にトレイを預け、龍が持っていたチョコレートの箱もそのトレイに載せてやった。「ありがとう、ケン兄ちゃん。恩に着るよ」そして先に階段を駆け上がっていった。

 

 健太郎は振り向いてミカに視線を投げた。「本当に楽しい旅行だったよ、ミカ先生。いろいろ教えてくれてありがとう」そして龍の後を追って階段を上がっていった。

 

「『ミカ先生』? なんだよ、健太郎のヤツ。なんでミカのことをこんなとこで『先生』なんて呼ぶんだ?」ケンジが怪訝な顔で健太郎の後ろ姿を見送りながら言った。

「あたしがいろいろ教えてやったから……。あいつにさ」

「あっちでも水泳教室やってたのか?」

「教えたいことがいっぱいあったからね」

「そうかー? ミカ姉、ずっと酔っ払ってて、あいつに水泳指導してるとこなんか、見いへんかったけどな」

「そ、それは単にあんたが見てなかっただけで……」

「それに健太郎はあっちにいる間、ミカ姉さんのことを『先生』なんて呼ぶとこ、見なかったけど……」マユミが言った。

 

「何か、怪しいなー」ケンジが横目でミカを見た。ミカは少し赤くなっていた。「珍しく赤くなってたりするし……」

「な、なに勘ぐってんだ! 何にもないって、ほんとに」ミカはますます赤くなった。

 

「何かあったんやな」ケネスがマユミに囁いた。「あったんだね」マユミも囁いた。

 

「白状しろ」ケンジが迫った。

「そ、そう言えば、あの写真どうした? あ、あのケンジのかっこいい写真」ミカが慌てていった。

「話をそらそうとしとる」

「ますます怪しいね」

「『隠し事をする怪しげな行動』、『健太郎の先生呼ばわり』、『教えたいことがいっぱい』、だいたい予想はつくな」ケンジが腕組みをして言った。「お前、健太郎を誘惑したな?」

「ちょ、ちょっと待て!」

「吐くんや、ミカ姉」

「わ、わかった。確かにあたしと健太郎の間に何かあったことは確かだ。だけど、あたしは健太郎と、それを秘密にするって約束した。だから勘弁してくれ」

「ふむ……」ケンジは頷いた。「秘密にするって約束したのなら、仕方ない」

「健太郎に免じて、ミカ姉の名誉を守ったるわ」

「あ、ありがたい……」

 

 しかし、ここまでくれば二人に何があったのかは一目瞭然だった。それでもケンジたちはミカに今はコトの詳細をそれ以上は訊かないことにした。

 

「それはそうと、」ミカが言った。「おい、ケネス」

「なんや? ミカ姉」

「あんた、オンナ抱く時、いつも『ハニー』って呼ぶのか?」

「オンナ? わい、まだマーユとミカ姉しか抱いたことあれへんねけど。あ、そうや今回ケンジもやったわ」

「いや、そういうことを言ってるんじゃなくてだな、」ミカが眉間に皺を寄せて言った。

「俺もオンナ扱いかよ」

「けっこう言うよね、ケニー、あたしのこともハニーって」マユミが言った。

「英語圏の文化やからな。一種の」

「じゃあ、マユミはケネスのこと、『ダーリン』とかって呼んだりするの?」

 マユミは笑いながら言った。「それはない。あたし大和民族だから」

 

「ねえねえ、ケンジ、ちょっと呼んでみてよ、あたしのこと『ハニー』って」ミカが目を輝かせて言った。

「えっ?!」

「ハワイ焼けもしてたりするし、何となくそんな雰囲気じゃない?」

「いや、意味わかんないから」

「いいじゃない、試しにさ」

「な、何て言えばいいんだよ」

「『愛してるよ、マイハニー』なんかどう?」

「ええな、ケンジ言うてみ」ケネスがおかしそうに促した。

「あたしも聞きたいな。ケン兄のその台詞」

 ミカがケンジの首にそっと腕を回し、甘ったれた声で言った。「お願い、ケンジい」

 

「あ、あ、愛してるよ、マ、マイハ、ハ、ハニー……」

 

 

 ぶーっ! ぎゃははははは! ミカは涙を流しながら笑い転げた。「似合わないわ、やっぱり。あはははは!」

「だったら、最初から言わせるなっ!」ケンジは真っ赤になって大声を出した。

 

 ひとしきり笑った後、ミカは涙を拭きながら言った。「でも、さすがだね、ケネス、極めて自然にあたしのことそう呼んだからね、あの時」

「血やな。わいのオヤジもおかんのこと、しょっちゅう『Honney』だの『Sweetheart』だの呼んでるで。”あの”おかんに対して」

「”あの”おかん、なんて言うことないじゃない」マユミがそれでもおかしそうに言った。

「さすがにおかんの方はオヤジのこと『ダーリン』呼ばわりはせえへんけどな」

「呼ばないんだ」

「何か企んでる時か、自分がしでかしたことをごまかすときには使こてるみたいやな。おかん。『ダーリン』って。でもな、健太郎や真雪のこと、オヤジもおかんもよく『ハニー』って呼んでるわ」

「なるほど。かわいい孫だからね」ミカが言った。

 

「ミカ、あの時ケニーにそう呼ばれてどうだった?」

「いやあ、不思議な感覚だったわ。なんかこう、包みこまれるっつーか、甘くとろけさせるっつーか……。オンナ口説くには最強の呼び方だね」

「そうなんだ……」ケンジは腕を組み、目を閉じてうなづいた。

「何? ケンジ、あなたもマスターしたいってか? 誰を口説こうっての?」

「今度マーユ抱く時、言ってやり。きっと喜ぶで。な、ハニー」ケネスはマユミに目を向けた。

「ううむ……こうやってさりげなく使うのか……」

 

「おお、真剣に考えてる考えてる」ミカが言った。「もう笑わないからさ、あたしで練習しなよ、ケンジ」

「何の練習だよ」

「あたし、ケン兄に言われてみたい」マユミが頬を赤らめて言った。

「あたしもまたケネスにそう言われながら抱いて欲しいね。今度は優しくな」

 

 ケネスは頭を掻いた。

 

「にしても、」ケンジだった。「俺たち4人、もうすっかり垣根がなくなっちまったな」

「そうだね」マユミが言った。

「そう言えばケンジ、あなた率先してケネスを受け入れてたけど、どういう心境の変化?」

 ケンジはちょっとおどおどしながら赤面して言った。「お、俺さ、恥ずかしい話だけど、高二の時に見た夢で、ケネスにイかされたことが、ずっと頭から離れなくて……」

「え? あれが?」マユミが言った。

「そ、そういうマユはどうなんだよ」

「えへへ、実はあたしも。ケニーに顔や髪にかけられたり、レイプされたりしたことが、まだどこかに残ってる……」

「ええっ?! マユミ、ケネスにレイプされたのか?」

「夢の中での話だよ」

「なんだ、夢か。で、その夢って?」ミカが訊いた。

 

 ケンジとマユミは当時のことをミカに話して聞かせた。

 

「……というわけなの。詳しくは『Chocolate Time(エピソード1)』を読んでね」

「へえ。でもそれって、純粋にケンジたちのみた夢の世界でしょ?」

「そうなんや。本人のわいにとっては、超迷惑な展開やって思わへん? ミカ姉」

「でも、ケネスにはそういう一面も実際にあるんじゃないの?」

「へ? な、なんで? 何を根拠に?」

「根拠? あるだろ。おまえのあの肉食獣のような乱暴なセックス」

「な、な、何言うてんねん、ミカ姉」

「あたし、あんたを酔わせて押し倒すつもりだったのに、すっかりあんたのペースでイかされた。もう、あたし何もする暇も与えられずにあの時、3回もイったんだぞ」

「そ、それは……」

 ケンジが言った。「確かに日頃のケニーからは想像できないぐらい激しかったな」

「あ、あれはやな、ミカ姉のきんきらきんのレオタード姿に欲情したからや」

「なに? あたしのせいだっての?」ミカはケネスをにらみつけた。

「い、いや、そ、そうは言うてへん」

「じゃあなにか? 俺があれをミカに買ってやったのが原因だっていうのかよ」

「マーユ、助けてーな」ケネスはマユミに泣きついた。

「大丈夫だよ、ケニー。ミカ姉さん、けっこう燃えてたし。まんざらでもなさそうだったよ」

 

「あんなに痛くて激しいセックスは初めてだった! セックス中に咬みつかれるなんて思いもしなかったよ」ミカが強調した。「もうあたし、ケネスに咬み殺されるかと思った。でも、今までにない強烈な気持ち良さだったよ、ケネス。ああいうのを本当の野獣セックスって言うんだね。」

「俺もあの時ベロ咬まれた。ケニーに」

「わいの身体に流れとる血の半分が狩猟民族、半分が大阪のおばはんやからかもしれへんな」

「遺伝だってか?」

「わいのおかん、しょっちゅうあちこちに咬みついてるよってにな。その染色体のせいやな」

「何それ」マユミは笑った。

「マユミもいつもあんなやられ方してるの?」ミカが訊いた。

「時々ね。でもあたしもよく咬みつくよ、ケニーに」

「そう言えば、俺も前、マユにやられたことがある……」ケンジがぽつりとつぶやいた。

 

「あんたらすごいね! 身体中歯形だらけになってんじゃないの?」

「そんなことないよ」マユミは笑った。

「っつーか、あんたらセックスの度に咬みつき合ってるの? 見かけによらず激しい夫婦だね」

「俺も、今度やってみようかな」ケンジが鼻息を荒くして言った。

「あなたには無理よ、無理」ミカが言った。

「何でだよ。俺だってお前のきんきらきんのレオタード姿見れば野生の血が……」

「ケンジは鼻血出して終わりよ」

「そ、そうかもしんない……」ケンジはうなだれた。

「ケン兄は優しく愛してくれる方が似合ってるよ」マユミが微笑みながら言った。

「マユ……」ケンジは寂しげにつぶやいた。「マユだけが俺の味方だ……」

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