Chocolate Time 雨の物語集 ~雨に濡れる不器用な男たちのラブストーリー~

《4.雨の歌》

 

 『Simpson's Chocolte House』の店の前に並べて植えられたプラタナスの木は、その葉を鮮やかに黄色に染めて、その駐車場を取り囲むように立てられた街灯のオレンジ色の光に包まれ、揺らめいていた。

 

 閉店後の喫茶スペース、窓際のテーブルに修平と夏輝、それに真雪が向かい合って座っていた。

「どういうきっかけだったのかな」真雪が切り出した。

「俺にもよくわかんねえよ。気づいたらあの二人、つき合いだしてた」修平はコーヒーカップを手に取った。

 

「でもさ、リサって年下の彼とつき合ってたんじゃなかったっけ?」

 夏輝が言った。「そうそう。シャイで年下の彼がいい、って言ってたよね」

「そいつとはいつ別れたんだ?」修平はカップをソーサーに戻した。

「リサが良平兄さんの店に就職する直前だったみたいだよ」夏輝は続けた。「実際その一つ下の彼って、おとなしい人だったらしいけど、積極的でもなかったみたい。いわゆる『草食系』ってやつ?」

「ふうん……」真雪はテーブルのチョコレートに手を伸ばした。「確かにリサ、うちに来て、時々言ってたな……進展してるのか、後退してるのか、停滞してるのか、状況がよくわからない。つき合ってる意味がよくわからない、って」

「リサも活発な方じゃないけどね。そんなあの子にそう言わせるほどだったんだね」

 

「で、結局どっちが振ったんだ?」

「彼の方らしい」

「何て言われたんだ?」

「そんなことわかんないでしょ。プライベートなことだし」

「でも、リサ、結構落ち込んでたよ」真雪が言った。

「好きだったのかな……、その彼のことが」

「好き、って言うか……、」真雪が窓から外を見ながら言った。「期待してたんじゃないかな……」

「期待?」

「少なくとも性格的に合わなかったわけじゃないみたいだし。これから愛を育んでいこう、って思ってたんじゃない?」

「なるほどね。リサの性格だったら、そうだね」夏輝がカップを手に取った。

 

「それで、今日はリサと良平さんのデートなんでしょ? しゅうちゃん」真雪がにこにこ笑いながら修平に顔を向けた。

「ああ。兄貴のヤツ、めかし込みやがってよ。今思い出しても笑っちまうぜ。わっはっは!」

「なんで知ってるの? しゅうちゃん」

「あのやろ、わざわざデート前に俺んちに見せびらかしに来やがったんだ」

「見せびらかしに、じゃないでしょ」隣に座った夏輝が横目で修平を睨んだ。「リサが好きな物とか、喜ぶことを教えて欲しい、って来たんじゃない」

「しゅうちゃんのお兄さんって、誠実なんだね」真雪が感心したように言った。

「小心者なんだよ。あいつは。昔からな」

「初めてのお泊まりデートなんだよ」夏輝がウィンクした。

 

 

 良平は夜の賑やかな通りをリサと並んで歩いていた。

「リサさん」

「はい?」リサは良平に顔を向けて微笑んだ。

 良平は少し赤くなって、ネクタイを締め直した。

「どうなさったの?」

「え? い、いや……。貴女の笑顔は相変わらず可愛いな、って……」

「嬉しい……」リサは良平の腕にそっと自分の腕を巻き付けた。

 

 二人は細い脇道に折れた。薄暗いその通りに入った時、良平はリサの腋に手を回し、自分の身体に押しつけた。

「良平さん……」

 良平は慌てて腕の力を緩めた。「ご、ごめんなさい」

「え? いえ……、私、嫌がってるわけじゃないんです」

「そ、そうですか……」良平は頭を掻いた。

 

 『ステーキハウス J.B.』という店に入った二人は、まだ火の入っていない暖炉の脇のテーブルに向かい合って座った。ほのかに清涼感のある灰の匂いがした。

 その店は、ほの暗く、しかし暖かみのある琥珀色の明かりが、テーブルの上と客が座るシートの上にスポットライトのように投げかけられている落ち着いた雰囲気だった。

 

「素敵なお店……」リサが小さな声で言った。「良平さん、よく利用されるの?」

「とっておきの場合に限って」良平は笑った。

 ロマンスグレイの頭髪をきちんと整えた初老のホールスタッフが、ゴブレットを運んできてテーブルに置き、慣れた手つきでゆっくりとピッチャーから水を注いだ後、革の厚い表紙のメニューをリサと良平それぞれに渡した。

「お飲み物がお決まりになりましたらお呼び下さい」

 バスバリトンの甘い声でそう言った彼は、品の良い笑みを浮かべて二人を見た後、軽く会釈をしてテーブルを離れた。

 

「普通の店じゃないみたい……」

「どうして?」

「ホールの人の品格が高い感じがします。それに」

「それに?」

「流れてるBGM、クラシックですね?」

「気取りすぎ、ですか?」

「そんなことありません。良平さんらしい、って思います。落ち着いてて」

「僕は貴女の雰囲気にぴったりだ、と思ってここにお連れしたんですけどね」良平は少しぎこちない笑みを浮かべて水のグラスに手を伸ばした。「お好きですか? クラシック音楽」

「はい。よく聴きます」リサは上目遣いで、流れる音楽に耳を傾けた。「ブラームスですね?」

「すごい! よくわかりましたね。これは弦楽六重奏曲です」

「第1番ですよね? ブラームスがまだ二十代だった頃の作品」

「27歳の時だそうです。いやあ、まいった! リサさんがそこまでこんな音楽に詳しいとは……」

 

 リサは恥じらったように言った。「私ブラームスとラヴェルが特に好きで、よく聴いてるんですよ」

「ほんとですか? 貴女の履歴書の趣味の欄には『茶道』とだけしか書いてなかったから……。でも良かった。こんな共通の趣味があったんですね」良平は心底嬉しそうに言った。「この店の『J.B.』というのも、作曲家ヨハネス・ブラームスのイニシャル。店主が彼の大ファンなんです」

 リサは店内を見回した。「この落ち着いた、大人っぽい雰囲気はまさに、ブラームスにピッタリですね」そして微笑んだ。

「飲み物は? リサさん」

「良平さんは何がお好き?」

「ここではいつもワインです」

「私もワインは好きです」

「そう。でも、ドイツワインは甘いですよ?」

「そうなんですか?」

「いつもはどこのワインを?」

「ぱっとしたカリフォルニアとかオーストラリアの赤をよく飲みます。でも、ドイツワインも飲んでみたいです」

 

 良平は手を軽く上げて、ホールスタッフを呼んだ。先の男性スタッフがすぐにやって来た。

「このシュバルツカッツの猫ボトルを持って来てください」

「かしこまりました」彼はまた穏やかに微笑んでテーブルを離れた。

 

「白ワインですけど、いいですか?」

「ええ」

 

 間もなくブルーの細身のボトルが運ばれ、新たに置かれたワイングラスにその透明なクリーム色の液体が注がれた。

「わあ! かわいいボトル。猫の姿」リサは小さく歓声を上げた。

 

「乾杯しましょう」

「はい」

 

 リサと良平は同じように微笑みを交わし、グラスを軽く触れさせた。

 

 

 間もなくオードブルが運ばれてきた。


 リサはフォークを手に取った。「私、今『雨の歌』が聴きたい気分です」

 良平は顔を上げた。「『雨の歌』? 元の歌曲ですか? それともヴァイオリンソナタの方?」

「ソナタの方」

「ああ、僕もあれは好き。でもどうして?」

「ピアノに包まれて歌うヴァイオリンが、まるで恋人の胸で幸せそうにしている女性みたいだからです」リサは顔を赤らめた。

「なるほど……」

「かと思えばヴァイオリンとピアノが熱く絡み合ったり、ピアノにヴァイオリンが寄り添ったり……」

「確かにブラームスって、かなり甘くて艶っぽいところもありますね」

 

 良平はスープを運んできたスタッフに耳打ちした。

「かしこまりました」

 

 しばらくして、店内のBGMが、優しくたゆたうようなピアノの調べに乗った躊躇いがちに歌い出すヴァイオリンの音楽に変わった。

 

「あ!」リサは思わず顔を上げた。「『雨の歌』!」

「リクエストしました」良平はにっこり笑って、スープスプーンを手に取った。

「ありがとうございます!」リサも嬉しそうにスープ皿を引き寄せた。

 

ヴァイオリンソナタ第1番ト長調作品78「雨の歌」第1楽章(J.ブラームス)


 

 

 エレベータの階表示が8になったところで、ドアが静かに開いた。リサと良平は手を繋いで臙脂色の絨毯の敷かれた通路を歩き、811というプレートが取り付けられた部屋のドアを開けた。

 

 そのホテルの部屋の広い窓からは近くを流れる川が見下ろせた。

 

 浅黄色の壁に、アルフォンス・ミュシャのポスターが、マホガニーの額に入れられ、掛けられている。

 

「わあ!」リサは部屋に入るなり大声を上げた。「素敵!」

「気に入っていただけました?」

「広いし、バスルームもユニットじゃないんですね」

「いわゆるスペシャル・ルームってやつです」良平は照れたように頭を掻いた。

「ありがとうございます! でも、あの……」

「どうかしましたか?」

「た、高いんでしょう? こんなお部屋……」

「正直に言います。奮発しました」良平は笑った。

「……ありがとうございます、私との時間をこんなに大切にしていただいて……」リサは右手の薬指で目元を拭った。

 

「先にシャワー、どうぞ」

「はい」

 

 リサは恥じらったように顔を赤らめ、着替えを準備してバスルームに消えた。

 

 良平はすでに胸を熱くしていた。彼は上着のジャケットを脱いでベッドに置くと、バッグを開けた。そして水色のパスケースを取り出した。

 

 

 良平がシャワーを済ませてベッドに戻ってきた時、彼のジャケットはハンガーに掛けられ、クローゼットの中に吊されていた。

 

 リサはベッドの端にちょこんと腰掛け、顔を赤くしてやってきた良平を同じように赤い顔をして見上げた。

 良平はリサの隣に腰を下ろした。

「リサさん、もう一度訊きます」

「はい」

「僕で、本当に良かったんですか?」

「……はい」

 

 良平は照れたように頭を掻いた。「弟の修平には、いつも言われます。兄貴は小心者だ、って」

「天道君が?」

「うん」

「でも、良平さん、仕事もきちんとされるし、部下のみんなにもてきぱき指導されてます。とても小心者のようには見えませんけど」

「少し前まではとっても無理していたと思います。でも、もうずいぶん歳もいったし、慣れもあって、仕事の時はあまり気にしなくなりました」

「私、仕事中の良平さんの仕草で、一番好きなのは、何か作業をし終わった後、小さくため息をついてハンカチで額を拭う姿」

「え?」

 リサはバッグから平たい包みを取り出した。「これ、良平さんにプレゼント」

「僕に?」良平はリサからその包みを受け取り、意外そうに彼女の目を見つめた。「開けていいですか?」

「どうぞ」

 

 それは爽やかなライトブルーのハンカチだった。

 

「わあ! ありがとうございます」良平は過剰なほど嬉しそうな声を出した。

「それで額の汗を拭いてもらいたいな、って思って買いました」

 

 良平は恥ずかしげに頭を掻いた。

 

「でも、僕の好きな色、よくご存じですね」

「観察していればわかります。ネクタイのストライプ、パスケース、それに上着のネームの刺繍」リサはクローゼットにちらりと目をやった。「刺繍にまでこの色をお使いになるなんて、並大抵のお好みじゃないってことでしょう?」

 

 良平は後ろに手をついて、天井に目を向けた。「僕も、貴女と同じ春生まれなんです。そのせいかもしれません。あの淡くて明るい空の色っていうイメージだから」

 そう言って良平はリサの顔を見た。

「そう言えば、こないだいただいたチョコレートの包み紙もこの色でしたね」

「気づいて頂いて嬉しいです」

「貴女のそういう気遣いが、僕はとても好きです」

 良平はリサの手を取った。

 リサは静かに顔を上げた。

「私を愛して下さる?」

「喜んで」

 

 良平はリサの頬を両手で包み込むようにして静かに唇を重ね合わせた。

 

 リサは目を閉じ、それに応えた。

 

 それから良平はリサの身体を柔らかく抱き、手のひらで彼女の背中を優しくさすった。

 

「素敵……」良平の唇が離れた時、リサは小さくそう言った。「キスって、こんなに素敵だったなんて……」

「僕も」良平は額を彼女のそれに宛がったまま、言った。「この前もそう思ったけど、リサさんの唇は、あなたのほのぼのとした性格の温かさと同じです」

 

 

 良平はリサが羽織っていたローブを脱がせ、その身体をゆっくりとベッドに仰向けた。

 

 リサは水色のランジェリー姿だった。

 

「リサさん……」良平は愛しそうにリサを見下ろした。

 

 そして良平も帯を解き、ローブを脱ぎ去った。それから下着姿のまま、二人はベッドの上で身体を重ね合い、また唇を重ね合った。

「ん……」リサが小さく呻く。

 良平はついばむように唇をとがらせ、頬、鼻筋と移動させた。そして閉じたリサの瞼に軽くキスをした。

「はあっ……」リサはため息をついた。

 良平の腕がリサの背中に回され、ブラのホックが躊躇いがち外された。

 

 リサは自分の乳房を包み込んでいる良平の大きな手の温かさが、今まで一度も反応したことのない身体の奥深いところにある場所まで届く気がした。

 

 この世で一番大切な物を扱うように、静かに、ゆっくりと、良平はリサの肌をさすり、唇を這わせた。リサの身体はそれに合わせてゆっくりと、しかしはっきりと熱さを増していった。

 

 良平の手がリサのショーツにかかったまま、動きが止まった。見つめている良平の目を見つめ返し、リサは小さくうなずいた。顔はすでに熱く火照り、彼女は荒くなっていく息を押さえ込もうと焦った。

 

 小さなショーツがするりと脱がされ、良平も自ら下着を脱ぎ去った。

 

 良平の身体がリサの全身を包みこんだ。

「ああ……」

 下になったリサは良平の肩越しに目を閉じ、うっとりした表情を浮かべてため息をついた。

 

「リサさん、貴女が好きです……」

 良平はそのままリサの太股に手を掛け、ゆっくりと開かせた。

「良平さんと二人で、熱くなりたい……。お願いです」リサが小さく良平の耳元で囁いた。

 

 良平は一度身を離して、パスケースからプラスチックの包みを取り出すと、中身の薄いゴムを自分の熱く、大きくなったものに被せ、自分の唾液をその先端に塗りつけた。そして再びリサの身体に覆い被さると、腰をゆっくりと動かして、脈動しているそれを彼女の最も敏感で神秘的な場所に挿入させていった。

 

「ああ……」

 リサがまたため息をついて、身体を小さく震わせた。

 

「リサさん……」

 良平はそう言った後、腕をシーツに突いて身体を持ち上げ、波に揺られるように全身を大きく動かし始めた。

 

 リサの身体もその動きに同調して、同じように揺れ動いた。

 

 深く繋がった二人の身体は、静かに、しかし大きくいつまでもベッドの上を漂った。

 それでもリサの肌にも、良平の身体にも、たくさんの汗の粒が光っていた。

 

 リサは激しく荒い呼吸を余儀なくされていた。良平も歯を食いしばりながら、リサへの想いを必死で送り込もうとしていた。

 

「りょ、良平さん、良平さん!」

 リサが大声を出した。

 良平の身体が倒れ込み、再びリサに覆い被さった。

「リサさん!」

 良平は両腕できつくリサの身体を抱きしめると同時に、彼女の口を自分の口で塞いだ。

 その途端、良平の喉元でぐううっ、と音がして、良平とリサの深く繋がり合った下半身が大きく跳ね上がった。

 

 どくっ!どくどくっ!

 

「んんんんんーっ!」リサと良平が同じように呻いた。二人の口は交差して重なり合い、身体をまるで春のそよ風に煽られる花のように震わせていた。

 二人の息が平静さを取り戻したとき、リサは良平の胸に顔を埋め、腕を回して彼の身体をぎゅっと抱きしめた。「良平さん……」

「リサさん……」

 良平はリサの髪をゆっくりと何度も撫でた。

「嬉しいです。リサさん」

「私も……」

 

そしてまたしばらくの間、二人は温かな静寂を味わった。

 

「まるで、」リサが静かに口を開いた。「『雨の歌』の第2楽章のようでした」

「え?」

「穏やかで、静かで温かく包まれるような……」

「そ、そうですか?」良平は照れたように笑った。

「良平さんにはとても失礼だとは思うんですけど、私、貴男に抱かれているとき、幼い頃、父に抱かれた時のことを思い出しました」

「お父さんに?」

「ファザコンってわけじゃないんですよ」リサは小さく笑った。「でも、貴男の腕や、胸は、私が今まで忘れかけていた絶対的な安心感を思い出させてくれます」

 リサは再び良平の胸に顔を埋めて目を閉じた。「ありがとうございます……」

 

 良平はリサの背中に腕を回して、そっと抱きしめた。

 

 リサは不意に目を上げて、良平の顔を見上げた。良平は腕を立ててその視線を受け止めた。

 

「でも、良平さんって、眼鏡を外すと、本当に天道君に似てるんですね」

「修平に?」

「きょうだいだから当然ですね。でも、雰囲気は随分違います」

「言ったでしょう、僕は小心者だって」良平は困ったように笑った。「弟は突っ走り易いし、短気だし大胆だ。貴女もご存じでしょう?」

「やんちゃですよね」

「僕とはだいぶ違います」

「お兄様は大胆にはなれないの?」

 

 リサは指で良平の胸をつっとなぞった。

 

「大胆になってもいいんですか?」

 

 リサはにっこりと笑った。「まだ、第3楽章が残ってます。情熱的でピアノとバイオリンが甘く絡み合う……」

 

「リサさん……」

「良平さん、お願い、もう一度……。今度は隔てるものを着けずに、激しく愛して……」

「え? い、いいんですか?」

「今は大丈夫。私、良平さんと直に繋がりたい……」

 

 少しだけ躊躇った後、良平はペニスに被せられていたゴムを取り去り、口を結んでゴミ箱へ入れた。

 

 解放されたそれは、すでに大きく反り返り、前にも増してビクビクと激しく脈動していた。

 

 振り返り、しばらく頬を赤くしてリサの目を見つめていた良平は突然叫んだ。

「リサ!」

 

 そして彼はリサをベッドに押さえつけ、暴れ始めていたペニスをリサの体内深くに挿入させ、大きく前後に動かし始めた。

「あ、あああ……りょ、良平さん!」

「リサ! リサっ!」


5.アクアマリンのリング
若き日のJ.ブラームス
若き日のJ.ブラームス

《information》

ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms 18331897)作曲

『雨の歌』-ヴァイオリンソナタ第1番ト長調作品78(Sonate für Klavier und Violine Nr. 1 G-Dur op. 78)

 

 J.ブラームスは3曲のヴァイオリンソナタを遺しました。その第一番は俗に『雨の歌』と呼ばれ親しまれています。ブラームス自身が作曲した歌曲「雨の歌」作品59-3と「余韻」作品59-4の主題がその第3楽章に使われているためにこの表題がつけられました(作曲者自身がこのソナタに『雨の歌』というタイトルをつけたわけではありません)。

 歌曲『雨の歌』は、ブラームスが密かに恋心を抱いていたクララ・シューマンが特に好んでいたらしく、その主題を使ったこのヴァイオリンソナタには、彼のクララへの想いが込められているとも言われています。


ヴァイオリンソナタ第1番ト長調作品78「雨の歌」第2楽章(J.ブラームス)

ヴァイオリンソナタ第1番ト長調作品78「雨の歌」第3楽章(J.ブラームス)