《あとがき》

　アルバート・シンプソンとシヅ子はそれぞれ２２歳と１９歳で交際を開始。その三年後、シヅ子が２２歳、アルバートが２５歳の時に結婚。そしてその二年後、シヅ子は２４歳でケネス（ケネスのプロフィール）を出産します。

　シヅ子はアルバートとの交際期間中、２１歳の時に当時３９歳だった上司の神村照彦と不倫関係を結んでしまいます。その当時照彦には中一の息子（１２）と小学生の娘（１０）がいました。彼はシヅ子との交際中は、自宅を離れ、一人暮らしをしていました。夫婦関係が冷めかけていたのです。そしてシヅ子にその心の隙間を埋めてもらおうと考えていたわけです。シヅ子も遠距離になっていたアルバートへの思いがねじれ、その寂しさが神村に抱かれることへと走らせたのです。

　不倫恋愛の話は本やドラマ、映画など主要なメディアで山ほど語られています。シチュエーションは違えど、本命のパートナー以外と関係を持ってしまう、というストーリーは、甘く熱い恋愛譚でありながら人間の心の奥にある『弱さ』や『迷い』、『苦しみ』をもあぶり出してくれて、何かしら共感するものを強く感じさせ、妖しく魅力的なのだと思います。

　単純に『その人が好き』という感情はその多くが純粋です。その時は自分の心に嘘をついていません。よく言われる『不純』というのは、例えば身体の欲望に任せて相手に『愛してる』と言ったり、お金や地位に目がくらんで言い寄る、といった場合であって、止むに止まれぬ恋愛感情のみを抱えているのであれば、それは『純粋にその人が好き』と堂々と言えるわけです。

　問題はそのことで、罪のない第三者に辛い思いをさせるかどうか。ということ。不倫で生じる歪みやトラブルの多くはそれが原因であることはご承知の通りです。

　それでも好きだから突っ走る、というストーリーも魅力的ですが、今回僕は極めてオーソドックスに『不倫関係はよろしくない』というテーマにしました。

　ただ、その当たり前の物語の中で、シヅ子の『イケナイことだけど、好きになってしまったから抱かれてしまう』という心と身体のギャップを掘り下げたかったというのがこの作品を書こうと思った最大の理由。そして彼女に関わる神村の男としての『弱さ』やアルバートの『苦しみ』も彩りとして添えたかった。

　その他、母親が不倫した事実を知る息子（ケネス）や、悔い改めた父親の過去を咀嚼して手紙でその思いを伝えようとする息子（篤志）。

　浅倉シヅ子と神村照彦という二人の人間の道ならぬ行為を通じて周囲のいろいろな人たちがさまざまなことを考え、深く思うことを描いてゆく過程はとても充実感に溢れていました。

　それにしても、不倫関係にある二人のラブシーンはどうしてこうも魅力的なのでしょう。不倫という『陰り』があるというだけで、二人の燃え方が普通のカップルのそれとは全然違ってきますからね。現実にそんなことになったらいろいろ大変ですけど、物語に没頭することでかなりのアドレナリンが放出されるのは書いている僕だけではないでしょう。

　さて、今回の主人公シンプソン（旧姓浅倉）・シヅ子は、その夫となるアルバート・シンプソンと共に、『Chocolate Time』シリーズの第一期の主人公ケンジ（ケンジのプロフィール）やマユミ（マユミのプロフィール）のもう一つ上の世代です。彼女はケンジの親友ケネスの母親で、シリーズ中にも完全脇役として何度か登場しました。

Chocolate Time 登場人物相関図

　この物語の時点でシンプソン・シヅ子は７１歳、アルバート・シンプソンは７４歳（現在のアルバートとシヅ子）。息子のケネス・シンプソンとシンプソン・マユミは共に４７歳。その娘真雪は２７歳で、その夫龍は２３歳。さらにこの真雪、龍夫婦の双子の兄妹海棠健吾と海棠真唯は１歳、という設定です。

　シンプソン・ファミリーと海棠ファミリーはほぼ家族同様の付き合いがありますから、海棠家の龍も、まるで自分の祖父母のようにシヅ子やアルバートを慕い、二人も龍を孫のように可愛がっていました。だから真雪がシヅ子と似たような過ちを犯してしまった時も、彼らは真雪はもちろん龍のこともひどく心配し、その結果アルバートは龍に自分の辛かった思いを伝え、その苦しみを共有してやろうと思ったのです。

　この話は、もはや『アダルト官能小説』というカテゴリには含まれないような気がします。濡れ場はありますが、登場人物の心情描写が主体です。性的な興奮を求め、そういう濃厚なシーンを期待して読まれた方には申し訳なく思っています。でも、僕自身はシヅ子と神村のカラミの場面は、結構激しく萌えます。だから挿絵も無駄にいっぱいあります。

　失礼しました。

Simpson