Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第3集 第2作

忘れ得ぬ夢~浅葱色の恋物語~

4.重なり続ける罪


「あ、おったおった、シヅ、」

 週明けの月曜日。午前の休憩時間、職員室のデスクにぼんやりほおづえをついていた私に、ホットココアの入った紙コップを手にした敦子が近づいてきた。

 彼女は声を潜めて言った。「あんた、一昨日の夜、もしかして神村さんと一緒やった?」

 私は思わず身体をこわばらせ、彼女から目をそらした。

「やっぱり……」敦子は遠慮なくため息をついた。

 私は目を自分の膝に向けたまま、小さな声で言った。「なんで……知ってるん?」

「あんたの外出用のパンプスが土曜の夜から日曜日の朝まで靴箱に入ってへんかった」

「気づいてたんや……」

「わたし気になって寮長さんに訊いたんや。あんた土曜の夜、寮長さんに電話で外泊するて連絡したんやて?」

「……」

「まだこっち来て半年しか経ってへんのに、あんたが外泊する所なんてあるんかいな、思たんや」

「そうやな……確かに」

「ますます気になってな、今朝さりげなく雑談装って木村さんに訊いてみたんや。土曜の夜は宴会やったそうですね、楽しかったですか、ってな」

「それで……知ったんやな、あっちゃん。わたしが主任と二人で別行動したこと」

「あんまり詳しく訊かへんかったから心配せんでもええで。妙な詮索されたらかなわんやろ? あんたも」

 私は小さく頷いた。


 敦子は空いていた隣のデスクの椅子に腰掛けた。

「あんたにはアルバートくんがおるやない 大阪に」

 言葉もなく私はただじっと固まっていた。

「神村さんに無理矢理連れて行かれたんか?」

 私は小さく首を横に振った。

 敦子はあからさまに呆れ顔をした。「あんたも同意の上やったんか。どういうことやねん」

 私はうつむいたまま黙っていた。

「止めとき。そんな火遊び。神村さんにかて、奥さんや子供がいてはるんやから」

「……わかってる」

「アルバートくんの耳に入ったらどうする気ぃや? 一気に関係壊れてまうで」

 私は目を上げた。そして小さなため息をついた。

「やっぱり……そうなるやろな」

 敦子は周囲をきょろきょろと見回した後、立ち上がった。「遠距離でなかなか会えへんから寂しいのんはわかるけど……。悪いことは言わへん。もうこれっきりにしいや」


クリックで拡大

 週末の土曜日、街なかのホテルで神村と私は熱く火照った身体を重ね合っていた。


 んんっ、と高く呻きながら、私は枕を強く噛み、全身を震わせながら何度も押し寄せてくる快感の波に必死で耐えていた。

 神村は私の身体をうつぶせにして押さえつけながら、激しく背後からいきり立った彼自身を出し入れしていた。

 私は顎を上げて叫んだ。「ああ! 神村さん! 感じる、わたし、感じる!」

「君の中は、とっても温かくて気持ちいい! ああ、も、もう……」

「来て! 神村さん、わたしの中に来て!」

「シヅ子っ!」

 神村は体重を私の汗ばんだ熱い身体に預け、両手を回して二つの乳房を強く握りしめた。

 んぐっ、と呻き、彼は身体をぶるぶると震わせた。私もその大きな身体に押さえつけられ、大きく喘ぎながら全身を硬直させた。


 びゅくっ!

 私の身体の中心が、勢いよく押し広げられたように感じた。


 「ぐううっ!」

 神村は激しく射精を始めた。熱いその思いを受け入れながら、私は弾け散るような衝撃に幾度も襲われ、枕にしがみついたまましばらく息をするのも忘れていた。


クリックで拡大

 神村は私の汗だくになった身体をそっと抱きしめたまま、呟くように言った。

「ああ……、ずっと君とこうして一つになっていたい」

「神村さん……」

 彼の収まりきれない激しい胸の鼓動が、背中越しに私の心臓にまで届く気がした。


 しばらくして神村は腕をシーツにつき、その胸を私の背中から離した。汗に濡れた背中がひやりとして、私は小さく震えた。

「まだくっついてて、お願い」

「重いだろう? 苦しくない?」

「貴男の重さが心地いいの……温かさも……」

 神村は再びゆっくりと体重をかけ、私の身体にその身を預けた。そして、まだ汗ばんだままの両手で私の乳房をそっと包み込みながらその呼吸を整えた。

 二人の共鳴し合った鼓動が少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「今日も最高だったよ、ありがとう」

「わたしもです……」

 二人はベッドの上で並んで仰向けになり、私は神村の枕に伸ばされた逞しい右腕に頭を乗せていた。

 息を落ち着けながら、珍しく私から口を開いた。

「神村さんは、今日観た『ホールド・ミー・テンダリー』みたいな映画がお好きなんですか?」

「意外かい? 結構好きだよ、ラブストーリー」

「意外です。男の人なのに」

「ロマンチストだって思ってくれないかな」

 神村は小さく笑った。

 

 私は恥ずかしげに言った。「映画の中でヒロインたちがしてたのと同じスタイルでしたね」

「どうだった? 感じた?」

「……はい。とっても」

「良かった。初めてだったの? あんなふうに愛し合ったの」

「……はい」

「そう」神村は満足そうにふう、とため息をついた。

 

「あの女優さん、演技してるようには見えませんでしたね」

 神村は私に顔を向けた。「そりゃ映画だから。わざとらしかったら監督にNG出されるんじゃない?」

「それもそうですね」私は小さくふふっと笑った。

 私は神村から目を離し、天井を見上げて独り言のように言った。「まるで本当の恋人同士にように、すっごく満たされてるように見えました……」

 

「映画で二人が情事の後飲んでたの、ワインだったよね」

 私は思わず同じように仰向けになっていた神村に顔を向けた。「そうでしたね」

「向こうの人って、お酒っていったらやっぱりワインなのかな」

「わたしも好きです。ワイン」

「えっ?!」神村は驚いたように私の顔を見た。「ワインなんか飲んだことあるの? シヅ子ちゃん」

 私は照れくさそうに数回瞬きをして言った。「去年、人生で一番最初に飲んだお酒がワインだったんです。成人祝いで」

 神村はますます目を見開いて言った。「ワインなんてどこで買うの? 大阪には普通に売ってるの?」

「いえ」私は言いにくそうに続けた。「……友だちが好きで、わたしに勧めてきたんです。その人ワインのある店をチェックしてて、そこで買ってたんです」

「へえ。僕は飲んだことないなあ……。おいしいの? ワインって。甘いんでしょ?」

 私はにっこり笑って言った。「それはたぶんポートワインを甘くしたスイートワインです。彼が買ってくれるのは本当の赤ワイン」

 「彼……」神村は目をしばたたかせた。

 私は思わずしまった、という顔をした。

 

 不意に神村が私に身体を向け、背中に腕を回して柔らかく抱いた。そして躊躇いがちに言った。

「シヅ子ちゃん、いいのかい?」

 私は顔も上げずに神村の胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で言った。「何がですか?」

「今さらだけど、君はその彼とつき合ってるんだろう?」

 私は少しこわばった顔で小さなため息をついた。「いいんです……。わたし、今はあなたに抱かれていたい……」


 神村は髪を優しく撫でた。私は顔を上げて神村の目を見た。「あなたこそ、奥さんがいるのに……」

 神村は腕を解き私の身体を解放すると、仰向けになり両腕を枕にして目だけをこちらに向けた。

「言っただろう? 妻とはもうセックスレスだって。それに事実上別居中」


 私は身体を起こし、乱れた襟足をさばきながら神村の顔を見下ろした。「そうでしたね……」

「男の身体って身勝手だ。いつも女性の肌を求めたがる」

「愛がなくても?」

「たぶんね。でも今の僕は違う」神村は私の目を見つめた。「僕は君が好きだ。僕は欲望のままに君を抱いてるわけじゃない」

 そして柔らかく微笑み、おいで、と言って両手を私に伸ばした。

 私は再び神村に身体を寄り添わせ、横になった。触れあった肌から伝わる彼の体温は、忘れかけていた人肌の心地よい温かさだった。


「君はどうなの? どうして僕を拒絶しないの?」

「……寂しいんです。貴男が仰った通り」

「彼と会えないことが?」

 私はこくんと頷いた。

「でも、だからといって僕とこんなことをしちゃ、」

 神村がそこまで言った時、出し抜けに私は神村に覆い被さり、乱暴に唇を彼の口に押しつけて、続く言葉を封じた。

 んんっ、と神村は呻いた。


 しばらくして口を離した私は、表情を硬くして言った。「貴男はそんなこと気にしなくてもいいんです。わたしが好きならその気持ちだけでわたしを抱いてくれればいい」

 神村は困ったような顔をした。


「わたしも貴男のご家族のことを考えないようにしますから……」


 昼に観た映画のせいか、私の身体の火照りは収まってはいなかった。横たわった神村の身体をそのまま抱きしめた私は、彼の目を見つめた。「来て、神村さん……もう一度」

「シヅ子ちゃん……」


 それから私と神村は夜が明けるまで何度も抱き合い、繋がり合った。


クリックで拡大

「神村さん!」私は喘ぎながら彼の名を呼ぶ。


「シヅ子!」神村は息を荒くして私の名を叫ぶ。


クリックで拡大

 神村が私の中で激しく暴れる。


 私は彼の全てを受け入れ、怒濤のように襲いかかる快感に身を震わせる。


クリックで拡大

 そして二人は一つになり揺れ動き、感じ合い、神村は私の身体の中心で弾け、私は彼に抱きしめられたまま何度も昇天したのだった。


クリックで拡大


 私と神村の関係はそれからも続いた。

 週末になると神村は私を食事に誘い、そのまま街のホテルで熱い夜を過ごした。


 日もずいぶん短くなり、昼間もコートなしでは過ごせない時季になったある土曜日、敦子が私を半ば無理矢理誘って、タクシーで一緒に隣町まで行き、その繁華にある小洒落た居酒屋に連れ込んだ。


「最終通告」敦子が運ばれてきたカシスオレンジのグラスに手を掛けながら言った。「いいかげんに目え覚ましたらどやねん」

 私は諦めにも似た小さなため息をついた。

「あんたがやってることは不倫。社会的に許されざる行為。前にも言うたけど、神村さんのご家族にもあんたの彼にも罪を作り続けとるっちゅうことなんやで?」

 わたしはうんざりしたように言った。「わかってる」

「わかっとれへん!」敦子は大声を出した。「わかっとるんやったら、なんでずるずる続けてんのや?」


 私は目の前のジンジャーエールのグラスに着いた水滴を指で拭った。「わかってへんのはあっちゃんや」

「え?」

「わたしの気持ちなんかなんもわかってへん。わたしがあの人に遊びで抱かれとるとでも思ってるんか?」

 敦子は私を鋭く睨み付けた。「遊びやないんやったら、もっと問題やんか! 本気で神村さんに抱かれとるってことなんか? あの人の家庭を壊してでも、アルバートくんを裏切ってでも、これからずっと関係を続けるってことなんか?」


 私はしばらく口をつぐんでいた。

 注文していた生春巻きが運ばれてきて、テーブルに置かれた。


「あの人も、きっと寂しいんや」私はぽつりと言った。「奥さん、相手してくれへんらしいから……」

「理解できへん」敦子は吐き捨てるようにそう言って、白い皿に盛られた生春巻きを箸で取り上げた。「そんなん理由にならんわ」

 私は目を上げた。「わたし、アルを嫌いになったわけやない。そやから余計に寂しいねん」

 敦子は口をもぐもぐさせながら上目遣いで私を見た。「会えへんことがか?」

「彼の代わりにあの人に抱いてもろてる、っていうんは、たぶん正解や。身体を癒やしてもろてる、ってことなんや思うわ」

「神村さんも同じように思てる、ってことなん?」

「たぶん……」


 敦子はテーブルの真ん中に置かれた皿を私の方に寄せた。「シヅ子も食べな。結構いけるで」

 私はうん、と頷いて箸を手に取った。

「わたしが一番心配するんは、あんたがアルバートくんのこと忘れて、神村さんだけに本気になってもて、家族から奪うてやろう、なんて考えるようになることや」

「それはない……」私は手に取っただけの箸を元の箸置きに戻した。

「大いにあり得ることやとわたしは思うで。だって二ヶ月以上も続いてるんやろ?」


 私は小さく頷いた。


「今夜かて、わたしがここに誘わなんだら、今頃あの人と一緒の夜を過ごしてたわけやろ?」


 私はかすかに頷いた。


「そないして夜を重ね続ければ情も厚うなるし、だんだん離れ難くなることは十分考えられるわ。そう思えへんか?」

「……そうやな」

「むこうかて同じ。いつかあんたに本気になって、離婚するから一緒になろう、なんて言うてくるかもしれへんねで? その時あんたがはい、わかりました、言うたりすることなんか考えとうもないけど、あんたがその気でなかったとしても、最悪の場合あの人あんたに付きまとうて、あんたの彼や向こうの家族も入り乱れて、それこそ修羅場になるで」


「考えすぎやわ、あっちゃん」



 敦子は飲み干したカシスオレンジのグラスを持ち上げて、ホールにいた店員に向かって叫んだ。「すみませーん」

 店員はすぐに注文票のバインダーを手にやって来た。敦子は私と同じジンジャーエールを追加して、私に目を向けた。「シヅ、食べたいもの、あれへんか?」

 私は首を横に振った。

 敦子は店員に目を上げた。「ほな、シーザーサラダと串を適当に5本ぐらい持ってきてください」

 店員がテーブルを離れると、敦子は言った。「最近アルバートくんからの手紙、届いた?」

「う、うん。一昨日」

「何て書いてあったん?」

「別にいつもと変わらへん。お店がどうやった、とか大阪は寒うてかなわん、とか」

「アルバートくん、何も知らんと……不憫やな……」

 敦子は皮肉たっぷりにそう呟くように言って、届いたジンジャーエールのグラスをすぐに口に持って行った。


 アルバートからの手紙には、実は他のことも書かれていた。今度、年末に私が帰郷した時に、一緒に映画を見よう、梅田の映画館なら帰って来る時まではぎりぎり上映中だから、と。


 そしてその映画は確かにアルバートの好きそうな恋愛ものの映画だった。『ホールド・ミー・テンダリー』。


「あっちゃん、もう飲まへんの?」

 敦子は肩をすくめた。「わたしだけ飲むのん、おもろないわ」

「そう……」

「せっかく居酒屋に来てんのやから、もっと楽しゅう飲みたいやん。今日はあかんわ」

「……ごめんね、あっちゃん」


 敦子はテーブルに肘を突いて身を乗り出し、念を押すように言った。「少なくともアルバートくんや神村さんの家族が、今のあんたたちの関係を許すはずあれへん。そやから一刻も早く切るべき」


 私は、自分のことを本気で心配してくれている目の前の友人の顔を少し瞳を潤ませて見つめた。彼女の顔はぼんやりと白く曇って見えた。


 学生時代から少しも変わらない愛らしいボブカットのその友人は、右手で私を鋭く指さし、かわいらしいその容姿に似つかわしくないドスのきいた凄みのある声で言った。「最終通告」



 翌週の月曜日、出勤してすぐ、私は更衣室で活動着のジャージ姿に着替えていた。

 そこにスタッフの木村が入ってきた。

「あら、浅倉さん、おはよう」

「おはようございます、先輩」

「今日は寒いわね。何だか本格的に冬が来たみたい。ま、12月だしね。当たり前か」

 木村は私の背後のロッカーを開けて、着ていたコートを脱ぎ始めた。


 私がジャージに足を通し終わった時、木村が背を向けたまま話しかけてきた。

「そう言えば浅倉さん、一昨日の土曜日の夜、寮の部屋にいなかったわね」

「え?」

「どこかに出かけてたの?」

「はい。友だちと飲みに」

「そう。気晴らしってとこね」

 木村は続けた。

「あなた土曜日の晩はいつも留守にしているけど、やっぱりその友だちと出かけてるの?」


 私はびくんと肩を震わせた。


「何度か差し入れに行ったのよ。一人じゃ寂しいだろうからって」

「そ、そうですか」私はジャージの上着のジッパーをゆっくりと上げた。

「寮長さんに訊いたら、だいたいいつも土曜日は外泊だ、って仰ってたけど」

「……」

「大阪の彼に会いに行ってる、とか……。それはないか。遠すぎるわよね」

 ふふっと笑って木村は振り向いた。

 私は身体を横に向けてうつむき、彼女と目を合わせることができないでいた。

「その友だちと夜通し話してる、ってことなのかな? 日頃の鬱憤とか」


 木村は更衣室の入り口付近をちらちらと覗った後、私の腕を取って奥の窓際まで引っ張っていった。

「え? せ、先輩?」

 私の腕をぎゅっと掴んで身体にその身を密着させるようにしていた木村は、その胸の膨らみを私の肩に押しつけながら私に顔を寄せ、耳元で囁くように言った。「私ね、一昨日は神村主任と一緒だったの」


 私は思わず顔を上げた。


「神村さん、優しくて素敵よね」

「あ、あの……」

「誰にも言わないでね。私、前から狙ってたの、彼。私の方がこの職場は長いけど、主任がここに来た時、一目見てストライク。だけどあの人既婚でしょ、だから諦めかけてたの」木村は眉を下げて小さなため息をついた。しかしすぐに目を輝かせ、声を高くして言った。「でもね、あの人が今一人で暮らしてる、って聞いて、今がチャンス、って思ったの。でね、ちょっと強引だけど押しかけちゃったのよ、一昨日」

「お、押しかけた?」


 私の心臓はどくんどくんと速打ちを始めた。


 私はちらりとその嬉しそうに話す先輩木村の顔を見た。彼女は自分の鼻をしきりに擦りながら恥ずかしげに頬を赤くしていた。

「神村さんすんなり私を部屋に入れてくれて……」木村は言葉を切って数回瞬きをした後、蚊の鳴くようなかすかな声で続けた。「キスしてもらっちゃった……」


 私の胸の中で何かが破裂するような音がした。そしてその瞬間からゆらゆらと赤い炎が身体の中に燃え広がり始めた。


「もう急展開で、夢みたいだったわ。今は思いっきり不倫だけど、いいわよね。だってあの人今奥さんとは別居中だし。このまま私とつき合い続ければ離婚してくれるだろうし」


 木村は恥ずかしそうに両手を頬に当てて身を縮めた。

 「お泊まりもしたの。とっても素敵な夜だった」木村は入り口を気にしながらも、興奮したように続けた。「彼ってすっごく大胆なの。いろんなことしてくれて感じさせてくれたのよ。私もお返しについ大胆になっちゃって、彼にいろいろしてあげた。彼もとっても喜んでた」

 その夜を思い出すように、自分の大きな胸を両手で押さえて夢みるように目を閉じた彼女は、すぐに真顔になり、私の顔をじっと見ながら低い声で言った。「誰にも言わないでね。浅倉さんにしか話さないんだから」


 私は木村のバストに目を落としながら同じように低い声で言った。「……わかりました。誰にも……言いません。ご心配なく」


「ありがとう」木村はそう言った後、いつもの張りのある明るい声に戻った。「今日も元気にがんばりましょうね」


次のページへ