Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第1集
第11話 コスプレタイム
真雪19歳。専門学校に通い始めて二年目。龍15歳。高校一年生。
二人は二年前の夏から交際を始め、最初から熱く甘い、お互いの身体を求め合う関係になっていた。
真雪の双子の兄、健太郎は、菓子作りの専門学校に通っている。彼は真雪の高校時代の同級生、月影春菜と高三の時から付き合い始めた。春菜は現在デザインの勉強のために専門学校に通っている。春菜は健太郎のことを『ケン』、健太郎は春菜のことを『ルナ』と呼び合い、やはり熱々の関係だった。
――とある夏の日の夕方、春菜は健太郎の部屋で、彼の帰りを待ちながら本を読んでいた。
「えー、イヤだよ、俺。勘弁してよ」
壁越しに龍の悲痛な叫び声が聞こえた。春菜は思わず立ち上がり、部屋を出て、隣の真雪の部屋のドアを恐る恐るノックした。
「どうしたの? 龍くん」
「あっ! 春菜さんっ! 助けてっ!」中で龍が叫び、どたどたと駆け寄り、ドアを開けた。「春菜さん! 何とかして!」
「ど、どうしたの?」
「真雪が俺をおもちゃにしたがるんだ」
「おもちゃ?」
「うん」龍は泣きそうな顔で春菜を見た。
「入ってもいい?」
春菜は真雪の部屋に入ってドアを閉めた。「な、なによ、これ?」春菜は中を見るなりびっくりして大声を出した。
真雪の部屋の床には色とりどりの衣服が大量に散乱していた。
「あ、春菜、丁度いいところに。今呼びに行こうと思ってたところなんだ」メイド服姿の真雪はにこにこしながら春菜を歓迎した。「手伝って」
「ちょ、ちょっと、なに? 真雪、メイド服なんか着ちゃって……。それに何を手伝えって?」
「聞いてよ、春菜さん」龍が床に正座して困った顔で春菜を見つめた。「俺にこの服着せて、写真に撮るって言ってるんだ、真雪」
「どの服?」
「これとか、」龍は真っ赤なブルマを手に取った。「これとか、」白いフリルのついたエプロンを持ち上げた。「これなんか」金色メタリックのレオタード。
「ひどいと思わない?」
春菜の瞳が輝き始めた。「いいねいいね、真雪、最高の企画じゃない」
「えええっ?!」龍は飛び上がった。
「でしょー」真雪は自信たっぷりな笑顔で言った。「やっぱり春菜なら理解してくれると思ってたよ」
どたたたた! 龍がドアに向かって駆け出した。すかさず春菜が彼の腕をがしっと掴んだ。その拍子に龍は床の超ミニスカートに足を取られて派手にすっころんだ。
「逃がさないわよ、龍くん。ふっふっふ……」
「こっ、こっ、怖いですぅ、春菜さんー」したたかに床に打ち付けた腰をさすりながら、龍は目に涙を滲ませていた。
「観念しなさい。お姉様たちに逆らうと、後が怖いわよ」
「すっ、すでに怖いんですけど……」
黒のビキニの下着姿にまで脱がされてしまった龍は、部屋の真ん中に立たされていた。
「もともとビキニ穿いてるから、そのままスコート穿いてもOKだよね、春菜」
「そうだね。黒でなかなか妖艶な感じもするしね」
「でも、この、」真雪は床からピンクの小さなショーツを拾い上げた。「あたしのレース付きのランジェリーも穿いてもらいたいな」
「そうね。それもいいね。後で穿き替えてもらって撮ろうよ」
「よし、決まり!」
龍は黒のビキニの上に、テニス用の短い白のスコートを穿かされた。上はスポーツメーカーのロゴの入ったレディスの半袖テニスシャツ。
「おお! なかなかだね」
「うん。イケてる。龍くん肩が逞しいから、半袖でもぱつぱつのウェッジスリーブみたいになってるけど、それがまたいいね」
「……い、今どきスコートなんて穿くテニス部員なんているの?」龍がぼそっと言った。
「学校の部活動じゃ見られないけど、プロの世界では健在だよ。でも、龍が穿くとこれもほとんどミニスカ状態だね」
「いい感じ!」春菜は下から見上げるようなアングルでカメラのシャッターを押した。
「ちゃんとパンチラ状態で撮れた? 春菜」
「ばっちりよ。任せて」
「エロおやじの盗撮行為かっ!」龍は振り向いて叫んだ。
◆
「スポーツウェア、第二弾っ!」真雪が叫んだ。
「オトコどもが萌えるブルマに体操着っ!」
「だから、今どきブルマなんて穿いてる女のコ、いないって。しかもなんで俺がオトコどもを萌やす必要があんのさ」
「女のコでも男のコでも、そんな格好してるのいないから希少価値で萌えるんでしょ。はい、さっさと着替える」真雪が龍の下着に手を掛けた。「龍が穿いてるの見たら、きっとオトコも萌えるよ」
「ちょ、ちょっと待って! じ、自分でやるから」
龍は真雪と春菜に背を向け、下着を脱ぎ始めた。ちらりと後ろを振り向いた龍は、春菜も真雪も舐めるような視線でこちらを見つめているのに気づいた。
「ま、真雪はともかく、春菜さんまで、そんなにじろじろ見ちゃって……」
「龍くんのお尻って、きゅっと締まっててかわいいね」春菜がはしゃぎながら言った。
「は、春菜さんはイヤじゃないの? オトコのハダカ見るの」
「男性のハダカがイヤでヌードデッサンができるわけないじゃない。全然平気よ、私。ケンのハダカもいままでいっぱいデッサンしたしね。でも龍くんの体型、ほんとにケンと変わらないね」
「相手が悪かったか……」
龍はその赤いパンツを穿き終えた。
「か、かなり派手なブルマだね……。それに、異様に短くない?」龍は真っ赤になっていた。
「実はそれ、レーシングショーツ」
「だろうね」龍はそろいのトップスも身に着けた。丈の短いへそが見えるほどのタンクトップだった。
「あなたがいつも穿いてるビキニとほとんど変わらないでしょ?」
「穿き心地はね。ちょっときつめかな……。でも、これ、どこかで見たことがあるような……」
「それ夏輝のだよ」
「えええっ?!」龍は大声を出した。
夏輝というのは、春菜同様、真雪の高校時代の同級生、日向夏輝のことである。
彼女は同じ同級生の天道修平と付き合っている。夏輝は高三の時、剣道部主将だった修平の剣道着姿にくらくらして告白。対する修平は陸上部に所属していた夏輝のトレーニングウェア姿に魅せられてそれをOKしたフシがある。ケンカばかりしているくせに、いつもべたべたくっつき合っている妙な関係の二人だった。
その修平は、真雪の兄健太郎とは中学時代からの親友同士だった。当然真雪とも親しく、彼のことを真雪は『しゅうちゃん』と親しみを込めて呼んでいた。
「龍に穿かせるから貸して、って言ったら快く貸してくれた。いい友だちだよ、夏輝」
「だ、だめだろ、そんな、な、夏輝さんのを俺が穿いちゃ。修平さんにぶっとばされるよ!」
「大丈夫。しゅうちゃんも笑ってた。写真ができたら見せろ、って言ってたし」
「やめてっ! 絶対に修平さんに見せたりしないで!」
「そうはいかないよ。写真見せる条件で貸してもらったんだから」
「こ、こんなの穿いたら、お、俺……」龍は身体をもぞもぞし始めた。
「どうしたの? 龍、顔、ますます赤くなってるよ」真雪が言った。
「息も荒いし……」春菜も言った。
「こ、これ、な、夏輝さんが身に着けてたもの……なんでしょ?」
「やだー、龍ったら! 興奮しちゃってー!」真雪が叫んだとたん、パシャッ! フラッシュが光り、カメラから目を離した春菜がにっこりと笑った。「かわいいよ、龍くん」
◆
「真夏のカジュアルウェア、行ってみよー」
「な、何だよカジュアルウェアって」
「今度は別にレディスってわけじゃないから」
「で?」
「デニムのローライズショートパンツにへそ出しチビTなんてどう?」
手渡されたその極端に丈の短く、まるでジュニアサイズのようなTシャツを広げながら龍は言った。「こっ、これのどこがメンズなんだよっ! それに、さっきもへそ出しだったんだけどね!」
「龍くんのお腹、引き締まっててかっこいいから、積極的に見せなきゃ」
「少年っぽくて素敵じゃない」
「そ、そんなもんですかね……」龍はもう抵抗する気力を失いかけていた。所詮このオタク二人組のお姉様方にはかなわない、とようやく気づき始めたのだった。そして彼はのろのろと真雪に手渡された極端に短いデニムのパンツを受け取り、脚を通し始めた。
「う……こ、これはなかなかきついぞ……」
逞しい大臀筋が邪魔して、そのパンツはなかなか上に上がらなかった。真雪が立ち上がり、手を貸した。「大きめの、買ってきたんだけどな……意外に龍って大きいんだね。春菜も手伝って」
「わかった」
「え? か、買ってきたって……。これからも何度か俺に穿かせる気?」二人の女性にパンツを引っ張り上げられながら、龍は焦って言った。
「夏にいっしょにリゾートに行く時なんかに穿いてよ。海岸あたりだったらきっと普通だよ」
「いや、絶対普通じゃないと思う……」
真雪と春菜に手伝ってもらって、ようやく龍はそのデニムのパンツを身に着けた。
「ぎちぎちのぱつぱつだよー。ちょっとでも動いたら破れちゃいそうだよ」
「やだ! かわいいっ! かわいすぎるっ!」真雪は叫んで龍に飛びついた。そして唇に吸い付いたまましばらく離れなかった。「むぐぐぐぐ……」龍は苦しそうに呻いた。
「うんうん! セクシーだね! ショタコンとか、そっち系の男性には垂涎モノだね」
ようやく真雪が龍を解放して興奮状態のまま言った。「いいよねいいよね。いっそゲイ雑誌に投稿しようかな」
「やめてっ!」龍が叫んだ。「お、俺の人生をめちゃめちゃにする気ですかっ!」
「なんで? その世界で生きるっていう選択肢もありじゃない?」
龍は悲しそうな顔で言った。「真雪さん、俺がその世界に足を踏み込んでもいいってんですか? あなたは」
「うーん……」
「考えてるしっ!」
春菜が静かに言った。「真雪、龍くんが手の届かないところに行ってしまうのは、寂しすぎるよ」
「いや、寂しいとか、そういうレベルの話では、」
「そうだね。龍はずっとあたしだけのものだから、他のオトコや腐女子の慰みものになるのは、やっぱりいやだな」
「だよねだよねだよね!」龍はその衣装を焦りながら脱ぎ始めた。
パシャッ! 脱ぎ始めた龍のセクシーな姿の写真は、それでもちゃっかり撮られるのだった。
「黄金色のきんきらきんレオタードっ!」パシャッ!
「ミニスカセーラー服っ!」パシャッ!
「女性警察官の制服、これも夏輝に調達してもらったっ!」パシャッ!
「ピンクの女性看護士のユニフォームっ!」「ハダカにエプロンっ!」「白のスケスケモノキニっ!」「女児用スクール水着っ!」
「はあはあはあはあ……」龍はぱつぱつぎゅうぎゅうの紺色のスクール水着姿で床にへたばっていた。スクール水着なのに、ハイレグスタイルだった。龍が穿くと、ほとんどTバック状態になっていた。「こ、こんなスクール水着なんて、あるもんかっ!」
「龍、実は楽しかったんじゃない?」真雪が嬉しそうに言った。
「も、もう勘弁してください、お姉様方……」龍は涙目になっていた。
「龍くん……」春菜が申し訳なさそうな表情で龍を見た。
「ごめんね、龍。ちょっと調子に乗りすぎたかな。あたしたち」真雪はそっと龍の肩に手を置いて言った。
龍は顔を上げた。真雪がそっと彼の涙を拭って、優しくキスをした。
龍は恥ずかしそうに小さく言った。「べ、別にいいけど……。こんなこと、滅多に経験できることじゃないし……」そして龍はまた赤くなって少しうつむいた。
「これで最後にするね」
「ええっ?! まだあったの?」
「最後のシメは、やっぱり、これ」
真雪が広げたその衣装を見て、龍は卒倒しそうだった。
「春菜も着るから。おそろいよ。最後は三人で写真撮ろ」
それはメイド服だった。
例によって春菜はピンク、真雪はライトブルー、そして龍は黒のゴスロリ風メイド服を身に着けた。
真雪が三脚にカメラをセットし、ドアの前に立てた。「いくよー」タイマーをセットして、彼女はシャッターボタンを押した。
カメラ本体の赤ランプが点滅を始めた。
龍を真ん中にして三人はカメラに向かってポーズをとった。
「ルナ、ここにいるのか?」部屋の外で声がして、帰宅した健太郎がドアを開けた。
パシャッ!
「……!」中の様子を見た健太郎は一瞬凍り付き、無言でそのままそっとドアを閉めた。
「あああーっ! ケン兄! 誤解だっ! 誤解したまま行かないでっ!」龍は大声で叫び、ドアに向かって突進した。
2013,7,28 最終改訂脱稿
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