Twin's Story 8 "Marron Chocolate Time"
《6 実技演習》
夏輝はポニーテールをおろし、プールサイドのマットに立った。そして修平と向かい合った。
修平は夏輝の頬を両手で包み込み、そっと唇を重ねた。夏輝は小さくビクン、と身体を硬直させた。その拍子に二人の歯がぶつかりカチリと音がした。「ご、ごめん、」「いいよ」
修平は口をとがらせて慎重に再び夏輝の唇を吸った。そしてそっと舌で彼女の唇を舐め始めた。
「んん……」夏輝は小さなうめき声を上げた。そして彼女も舌を修平の口の中に差し込んだ。いつしかお互いの舌が絡み合い、二人の口から唾液が溢れ始めた。
夏輝は修平のシャツの裾を持ち上げた。修平は口を離し、夏輝の目を見つめながら自分でシャツを脱ぎ去った。修平の引き締まった上半身が露わになると、夏輝は今にも泣き出しそうな顔でため息をついた。
「修平……。素敵、あなたの身体も。あたし、くらくらしちゃう」
よっしゃあっ、と修平は思った。
「夏輝……」
修平は夏輝のシャツに手をかけた。夏輝自身の手を取らせることなく、それを脱がせた。真新しい水色のブラジャーに守られた乳房を見つめていた修平は、堪らなくなって思わずその大きな手でブラ越しに二つのそれを握りしめた。「いっ!」夏輝が顔をゆがめた。
修平は思わず手を引っ込めた。「ご、ごめん、夏輝、痛かったか?」
「ちょっとだけ……。ワイヤーが当たって……」
「ワイヤー?」
「いいの、後で教えるよ。外して、修平」
「う、うん」
修平は夏輝の背中に手を回し、ブラのホックを手探りした。ホックはすぐに見つかったが、なかなか外すことができないでいた。夏輝が右手を背中に回した。そして修平の手を取ろうとした時、ぷつっ、という鈍い音を立ててホックがはずれた。夏輝の乳房が解放されぷるん、と揺れた。
修平はごくり、と唾を飲み込んだ。
夏輝は自分でブラを腕から抜き去った。修平は思わずその身体をぎゅっと抱きしめた。
「ああ……修平……」夏輝がうっとりした声を上げた。
修平は夏輝の身体をマットに仰向けに横たえた。そして彼は露わになった夏輝の乳房をもう一度見つめた。白くて、丸くて、肉まんのようだ、と思った。
修平は静かに口を近づけ、舌先で夏輝の左の乳首をちょっとだけ舐めた。
「んふ……」夏輝が小さく言った。
「(『んふ』?)」修平は心の中で眉をひそめた。
今度は彼女の右の乳首を同じように舐めてみた。
「ひゃはっ!」
「(『ひゃはっ』? 何だか様子が変だ。さっきケンジさんがミカさんのものを同じようにした時は『あん!』という反応だったはずだが……。)」
もう一度修平は右の乳首を舌先でちろちろと舐め始めた
「ひゃはっ! ひゃはははは! や、やめてくれっ! 修平。く、くっ、くすぐったい! あははははははは!」
ガラガラガラ……。盛り上がりかけていた甘いムードが跡形もなく崩れ去ってしまった。
「お、おまえ、なっ! なんだよ! 『ひゃはは』じゃねえだろ! 雰囲気ぶち壊しじゃねえかっ!」
「し、しょうがないでしょ! ほんとにくすぐったいんだから。あたしだってめっちゃ我慢してたんだからね。くくくく……。あはははは、あー、くすぐったいくすぐったい!」夏輝は自分の乳房を両手で乱暴にさすった。
「(な、何が違うんだ……。)」修平は実際に眉をひそめて真剣な顔で悩み始めた。
「修平が子犬みたいにぺろぺろ舐めるからいけないんだ。ケンジさんみたいにがぶっといってよ、がぶっと」
「『がぶっ』? ケンジさん、そんな勢いだったか?」
「とにかく、あたしにはがぶっ、でいいの。そっちの方がきっと感じるから」
「わ、わかった。やってみる。しょうがねえなー、最初からやり直しだな」
「最初?」
「キスだよ、キス」
「ああ、それは感じる。修平のキスは好き。いい考えだ」
夏輝は唇を突き出して目を閉じた。
修平はちょっと呆れて一つため息をついた後、ゆっくりと夏輝の身体に覆い被さり、優しく唇同士を重ねた。「んんん……」夏輝が甘い声で呻いた。「(よしっ!)」修平は再び手応えを感じ始めた。
ひとしきりキスを続けて、とりあえずムードが高まってきたところで、修平は身を起こし、自分のデニムのハーフパンツを脱いだ。小さく張り付いた蒼いボクサーショーツの前は大きく膨らみ、その下の方にはぬるぬるのシミが広範囲に広がっていた。
修平はひざまづき、夏輝の短いミニスカートをゆっくりと脱がせ始めた。彼女のショーツはブラとお揃いの水色のビキニだった。修平は次第に息を荒くし始めた。
「な、夏輝、きれいだ、おまえの身体……」
「嬉しい……。修平……」
「と、特にこの脚が……」
スカートを脱がせ終わった修平は夏輝の太股に手を当て、頬ずりしながら優しく撫でた。
何度も撫でた。
ずっと撫でていた。
「……そろそろきて、修平」夏輝は両手を伸ばした。
「え? あ、ああ、そうだな」修平は静かに自分の身体を夏輝に覆い被せた。夏輝が両脚を広げたことを確認すると、修平は下着越しに自分のペニスを夏輝のショーツにこすりつけ始めた。
「ああ、いい、いい気持ち、修平、あああ……」
「お、俺もだ、夏輝、夏輝……。や、やばいっ!」修平はいきなり身を離した。そして膝立ちをしたままボクサーショーツ越しに自分のペニスを握りしめた。「んっ……」修平は目をしっかりと閉じ、苦しそうな表情でじっとしていた。
「ど、どうしたの?」夏輝は心配そうに起き上がり、修平の腰に手を当てた。
「さっ! 触るな、夏輝!」修平は大声を出した。
「え?」夏輝は驚いて手を離した。
「い、今は触るな、頼むから……」
しばらく息を止めていたらしい修平は、大きく息を吐き出した。「ぶはあーっ!」
「ねえ、どうしたの? 急に」
「あやうくイっちまうとこだった……」
「え?」
「意外に興奮しやがるな、穿いたままでも」
「持ちこたえられた?」
「な、何とかな……」
修平は夏輝をもう一度寝かせて、ショーツに手を掛けた。「いいか? 夏輝」
「うん」
修平はそのまま夏輝の小さな水色のショーツを脚から抜いた。夏輝は思わず両手で秘部を隠した。「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ、やっぱり……。あ、あんまり見ないで・・・・」
「大丈夫。どっちみちいつまでも見てるだけじゃ済まねえよ」
「や、優しくしてね、お願い……」
生まれて初めて聞いたその夏輝の消え入りそうな声に修平は胸がきゅんとなってしまって、その大きな瞳を潤ませ泣きそうな顔で夏輝の顔を見下ろした。
「安心しろ、乱暴はしねえから……」修平も自分なりに今までで最高に優しく言った後、秘部を覆っていた夏輝の手を取りそっとどけた。そして静かに口を夏輝の愛らしい茂みに埋めた。「ああ……」
「(ここかな?)」
修平はゆっくりと夏輝の谷間のあたりを舐め始めた。
「(なんかマメみたいなのがあんな……これがひょっとしてクリ……なんつったっけな)」
「あ、ああ、修平、これいい、いい気持ち、とっても、いい……あああああ」夏輝は目を閉じ、苦しそうな顔でその快感に身を任せた。いつしかその場所はしっとりと潤い、一生懸命奉仕している修平の口の周りまでたっぷりと濡らした。
修平は口を離した。そしてまた膝立ちになった。夏輝はゆっくりと身体を起こした。
修平は夏輝の動きを目で追った。そしてごくりと唾を飲み込んだ。夏輝の手が彼のぴったり張り付いたボクサーショーツに伸ばされたからだった。
夏輝は修平の穿いていたそのショーツを脱がせようとした。しかし、あまりにピッタリと張り付いていて、なかなか下に下げることができなかった。
「な、なんでこんなパツパツなの穿いてるんだよっ」
「このぐらい締まってた方が、気持ちも引き締まるんだよ」
「脱がせっ、られないっ、でしょっ!」夏輝はいつしか必死になってそれを引きずり下ろそうとしていた。「ちょっと手伝ってよ」
結局修平が自分でショーツを下げた。その途端、大きくペニスが跳ね上がり、修平の腹にべちっと当たった。
透明な雫が糸を引いて飛び、夏輝の頬に付着した。
「やだっ!」夏輝はとっさに身を引いた。「な、何これ? 修平、もうイっちゃったの?」
「ち、違えよ。それはな、こ、興奮すると出てくる液だ。何つったっけ……」
「液?」
修平のペニスは天を指したままびくんびくんと脈動していた。
「こ、こんなに大きいの?」
「そ、そうだよ、悪いか」
「それに、勝手に動いてるし、先からその液いっぱい出てるし……」夏輝はちょっと怯えたように言った。「こ、こんなのが、あたしの中に?」
夏輝はそれをじっと見つめていた。
「あ、あんまりガン見するなよ。は、恥ずかしいだろ……」
しばらく固まっていた夏輝は、出し抜けに修平のペニスをその口に頬張った。「んぐっ!」
「ばっ! ばかっ! い、いきなり何するんだ! あ、ああああっ!」
夏輝は覚悟を決めたように両手でしっかりとペニスの根元を掴んで、口を前後に動かし始めた。
「やっ、やっ、やめろおーっ!」修平は叫んで乱暴に身を引き、その場から逃げ出した。
マットの上にぽつんと一人取り残された夏輝は叫んだ。「な、何よ! なんで逃げるのっ?」
「あっ! うわあああ!」
どぼーん!
慌てて後ずさった修平は、勢い余ってプールサイドで足を滑らせ、派手にプールに落ちてしまった。
「ん?」コーヒーのカップを手に取ったケンジが怪訝な顔で動きを止めた。「何かが水に落ちたような音が」
「確かに……」ミカも眉間に皺を寄せた。
スタッフルームにはケンジとミカ、それに真雪、パソコンに向かっている龍もいた。
パソコンに向かっていた龍も振り向いた。「修平さんと夏輝さん、どんな練習してるんだろう……」
「落ち着きのない二人だからねー」真雪も呆れたように言って、テーブルのチョコレートをつまみ上げた。
げーほげほげほげほっ!
ひどくむせながら修平は水に浮かんでいた自分のパンツを手にとって、全裸のままよいしょとプールから上がった。
修平に手を貸しながら、やはり何も身につけていない夏輝が言った。「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない」
「嫌がってたわけじゃねえやい。お、お、おまえの口に発射しちまうとこだったんだよっ!」
「え? 口に? そ、それはいやだな……」
修平は濡れた髪をがしがしと掻きむしりながら言った。「も、もう咥えるの、いいよ。俺、すでに爆発寸前なんだよっ!」
「わかったよ修平。わかったからこっちに来なよ」
修平は赤い顔をしてマットに戻った。夏輝は正座をして修平と向き合った。
「身体、拭かなくてもいいの?」
修平の身体はずぶ濡れだった。
「やっぱりいやか?」
「ううん。あたしは平気。修平が気にならないのならそのままでいいよ」
「すまねえな」
「そろそろフィニッシュにしようよ」夏輝がしおらしい表情で言った。
修平も夏輝と向かい合い、正座をして言った。「う、うん。でも、おまえ、今ので醒めちゃったんじゃ?」
「もう一回、な、なめなめしてくれる?」
「よし。わかった。任せろ」
修平はすぐに夏輝の股間に顔を埋めた。そしてさっきと同じように谷間とクリトリスに舌を這わせ始めた。修平の前髪から滴る雫が夏輝の下腹部や股間に落ちて流れた。
「あ、ああん、い、いいよ、いい気持ち……」夏輝もすぐに感じ始め、愛らしい喘ぎ声を上げ始めた。
修平はその行為をずっと続けた。彼のペニスは大きく脈動し、勝手にのたうち回って手が着けられなくなっていた。同時に先端から糸を引く透明な液をあちこちにまき散らしていた。
「しゅ、修平、も、もう入れて、そこにあなたのを……」
「よ、よしっ、いくぞっ!」待ってましたとばかり修平はその言葉に即座に従った。彼は自分のペニスを手で掴み、夏輝の谷間にあてがった。
「遅いね、二人とも」真雪が壁の時計を見ながら言った。
「確かに」ケンジが言った。
「そんなに時間かけてやってるのかね」ミカがコーヒーカップを口に運びながら言った。「修平、若いからイっちまうの、早いはずなんだけどね」
「若いから二度目、三度目に挑戦してるのかもしれないぞ」ケンジもコーヒーを一口飲んだ。
「龍、おまえも早かったか? 最初は」ミカが訊いた。
龍はパソコンのキーを叩きながら言った。「初めての時は僕、コンドームの付け方がわからなくて、失敗したんだ。『マユ姉』の身体に触ることもなく出しちゃった」
「そうだったか」ケンジが笑った。
「真雪、どうだった?」
「可愛かったよ。『龍くん』の反応が。でも、あたしもよくわかってなかったからね」
「で、無事成功したのは?」
「二度目」
「え?」
「失敗した後、悔しくて再挑戦して、めでたく、無事に結ばれました。僕と真雪」
「復活するの、早っ!」ケンジが言った。
「若いって素晴らしいね」ミカが言った。
「でも、その時は、正直何が何だか、よくわかりませんでした」
真雪が龍を見てくすっと笑った。
修平はプールサイドに脱ぎ捨てていたハーフパンツのポケットをごそごそ探っていた。
「忘れるとこだったぜ」
「何してんの? 修平」
夏輝が身体を起こして言った。
「男の常識」修平の手には小さな正方形のプラスチックの包みが握られていた。「さすがにそのままおまえの中に出す勇気は、俺にはねえよ」
「おお、修平、なんか余裕じゃん」夏輝は肩をすくめた。
夏輝に身体を密着させるように寄り添った修平は言った。「これもちゃんと練習しとかねえと」
そしてにっ、と笑い、夏輝の身体を抱いて横たえた。
額に汗をかきながら慣れない手つきでコンドームを装着し終わった修平は、親友健太郎に教わった通りに自分の唾液をその先端に塗りつけ、夏輝の谷間にそれを宛がった。
「いいか? 夏輝」
「うん。来て修平。大丈夫」
修平は自分のいきり立った持ち物を夏輝の体内にゆっくりと埋め込んだ。
「おお、なんかもうすんなり入れられっぞ」修平は自慢げに言った。
「修平、なんだか気持ちいい……」
「痛くねえか? 夏輝」
「少しだけ。でも大丈夫。気持ちいい方が勝ってる」
「そうか」修平は安心したように小さなため息をついた。「俺、あんまりもたねえかも」
「なんで?」
「さっき、ゴムつける時にいじってたら、あ、ああ……」
夏輝は焦ったように言った。「動いて、修平」
修平はぎこちなく腰を動かし始めた。「ああ、ああ……、夏輝……気持ちいいよ、めっちゃ気持ちいい……も、もうイきそうだ」
「修平、いいよ、何も考えずにイっていいから」
「う、うん。あ、も、もうだめだ……」
修平は苦しそうに歯を食いしばり、目をぎゅっとつぶった。
「修平!」夏輝は修平の首に手を回して引き寄せた。「キスっ!」
そして彼の口を自分の口で塞いだ。「んんんっ!」修平は呻いた。
夏輝はそのまま彼の背中をきつく抱きしめ、自分の乳房に押し付けながら揺すった。修平の濡れた逞しい胸が自分の乳房と、敏感になっていた乳首を刺激し、夏輝の興奮もぐんぐん高まっていった。
「んんんっ! んんっ!」キスをしながら夏輝も苦しそうに呻いた。修平の腰の動きがさらに激しくなった。彼は夏輝の口から自分の口を離した。
「あああああ! 夏輝! 夏輝っ!」夏輝はそれでも修平の背中を締め付けている力を緩めなかった。
「しゅ、修平! 修平っ! な、何か来るっ! あたしの中に! あああああああ!」
夏輝の身体がびくびくと細かく震え始めた。
「で、出る! 出る出るっ! 出ちまうっ!」修平が叫んだ。
「ああああっ! 修平っ! 来た、来たっ! 動いてるっ! 修平ーっ!」
「夏輝、夏輝、夏輝夏輝夏輝っ!」
修平のカラダの中にあった熱く沸騰したマグマが、何度も何度も薄いゴムの中に豪快に発射され続けた。
はあはあはあはあ……。二人はまだ大きく肩で息をしていた。
「さ、最高だったよ、夏輝……」
「一人エッチの時と比べてどうだった?」
「俺、もう一人でやっても満足できねえ。お前のカラダじゃねえと……」
「あたしも、こんなに気持ちのいいこと、生まれて初めてだった。セックスって凄い」
「そうか」修平は破顔一笑した。「ほんとに痛くなかったか?」
「思ったほどはね」
「俺、」修平は赤い顔で荒い息を落ち着かせながら、眉尻を下げて夏輝を見下ろした。「おまえを気持ちよくさせられてっか、ずっと気になってた」
「そんな心配してたんだ、修平」
「オトコはいつでもイけるが、オンナはそうはいかねえんだろ? 射精するわけでもねえし」
「そりゃそうだけど。でも、」
夏輝はまた修平の首に手を回して額同士をくっつけて言った。「あたしもすごく気持ち良かったよ」
「そうか」
「なんか、好きな人としっかりくっついてるっていう心理的な気持ちよさ、かな」
「心理的? 肉体的な快感はなかったのか?」
夏輝は申し訳なさそうに数回瞬きをした。「やっぱりさ、初めてだし、本やAVみたいに乱れるほど快感があったわけじゃない。どっちかって言うと、違和感の方が強かったかも」
修平も申し訳なさそうに少し口をとがらせた。「そんなもんなんだな……」
夏輝はにっこり笑って言った。「あたしのカラダを修平仕様にしていってよ。これから」
修平は頬の筋肉を緩めた。
「ちゃんと修平といっしょに気持ちよくなるよ、あたし」
「夏輝ー」修平は泣きそうな顔で夏輝を抱く腕に力を込め、その白い首筋に頬をこすりつけた。
「素敵だったよ」夏輝は頬を赤らめ、照れくさそうに修平の耳元で囁いた。「あたし、修平にコクって良かった」
「よ、よせやい……」修平も同じように目元を赤く染めて、くぐもった声で言った。
すっかり息が平静に戻った頃、修平は無声音で言った。
「好きだ、夏輝」
「あたしも、修平」
◆
「どうだった? ミカさん」
スタッフルームに戻ってきたミカに真雪が訊いた。
「とってもいい雰囲気だったよ。あたしがチラ見した時は、もう終わった後のクールダウンの段階だったけどね」
「そうか。どうやらうまくいったみたいだな」ケンジが満足そうに言った。
「プリントできたよ」龍が振り向いた。手にはLサイズの写真数枚が握られていた。
「お、できたか、どれどれ」ミカがそれを受け取って一枚ずつ見始めた。「へえ、なかなかじゃん。さすが龍」
「龍もこっちに座りなよ」真雪が言った。「新製品のチョコ、食べてみて」
「うん」
龍はパソコンをシャットダウンして椅子から立ち上がり、ミカたちの囲んでいる丸いテーブルの真雪の横に腰掛けた。
「ほら、ケンジ、見てみなよ。きれいだよ、とっても」ミカが言った。
「な、何だか恥ずかしいな……」
「いやいや、なかなかだって」ミカが無理矢理ケンジにその写真を手渡した。
ケンジは赤面しながらそれを見た。「や、やっぱり恥ずかしいよ……」
「あたしも見たい。ケンジおじ、見せてよ」
「え? み、見るのか?」
「いいじゃない」ミカが微笑みながら言った。
その数枚の写真を受け取った真雪は、一枚ずつ丁寧にそれを見た。「ほんと、きれいだね。大人の雰囲気全開。あたしたちのセックスでは絶対に出せない雰囲気だよね、龍」
「真雪もさらっと大胆なこと言うよなー」チョコレートに手を伸ばしながら龍が言った。
コンコン……。その時、ドアがノックされた。
「どうぞー」ミカが言った。真雪は持っていた写真の束をミカに返した。
少しだけ開いたドアの隙間から修平が顔をのぞかせた。「あの、すんません」
「どうした? 修平」ミカが立ち上がり近づいてドアノブに手をかけた。
「あっ! だめっす。見ないでください」修平は慌てた。
構わずドアを全開にしたミカは驚いていった。「何だ、修平ずぶ濡れじゃないか。それにまだ全裸だし。続きでもやるのか? 今から」
股間を両手で押さえた修平の背中にやはり全裸の夏輝がぴったりと身体を密着させて、顔を赤らめていた。
「い、いや、そうじゃなくて、タオル貸してください」
しばらくして着衣を済ませた修平と夏輝が赤い顔をして、恐る恐るドアを開け、中に入ってきた。
「あれ? 真雪?」
「それに龍くんも」
「こんばんは」龍が笑って手を振った。
「なんで二人がここに?」
「まあ、お座り。二人とも」ミカが修平と夏輝に椅子を勧めた。
「どう? うまくいった?」
「はい。何とか」
「いろいろ失敗や戸惑いも山ほどありましたが、結果オーライということで……」
「なんだ、それ?」ケンジが言った。
「プールに落ちたのはおまえか? 修平」
「は、はい、つい足滑らしちまって……」修平は短髪の頭を掻いた。
「どうすればエッチの時に足滑らしてプールに落ちるんだ、まったく……」
ミカは遠慮なく呆れ顔をした。
「でも、お二人のお陰でやっと俺たちもまともなエ、エッチ……!」修平が向かいの椅子に座っている龍に気づいて口を押さえた。「はっ! やばっ!」
「どうしたの?」
「え? こ、こんな話題、中学生の龍の前では……」
「大丈夫。龍には免疫がある」ミカが言った。
「免疫?」
「詳しくは話せないけどね」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです」龍が小さく言ってチョコレートを口に入れた。
「へえ」
「免疫ってことは……エッチを見るのに慣れてるってこと? それともすでに誰かとしちゃってるとか……」
夏輝はそう言いながらちらりと真雪に目を向けた。真雪は思わず夏輝の視線から目をそらしてほんのりと頬を赤く染めた。
「ははあん……」夏輝は小さく言って口角を上げた。
「でも、無事に問題なくできたんなら、良かったじゃない」ミカが二人に向き直った。
「はい。お陰様で」
「あたしたち、今まで何が悪かったんでしょうか?」夏輝がミカに訊いた。
「単なる経験不足でしょ」
「そ、そうですかね……」修平が言った。
「あなたたち、って言うか、特に修平は、今までエッチの時、自分が興奮して出すことだけを考えてたんじゃない?」
「え?」
「オトコってのは、」ケンジが口を開いた。「一人でも簡単にイけるし、女のコの裸を目の前にすれば興奮する。そして早く出したい、って思う動物だ。そうだろ?」
「確かにそうです」
「今夜、修平君がこれまでと違っていたことがあったとしたら、」ケンジが微笑みながら続けた。「好きな夏輝ちゃんをどうしたら気持ち良くすることができるか、って考えてたこと」
「あたしたちの行為を見て、いろんなテクニックを使うことが、結果的に夏輝を満足させたってことだったわけだ。でも、」ミカが言葉を切って修平に身を乗り出した。「それは修平が夏輝を好きじゃなきゃできなかったこと。だから、夏輝は精神的にも満足できた」
「そうなのか? 夏輝」修平が夏輝に顔を向けた。
「うん。満ち足りた」
「夏輝が満足すれば、当然修平も満足するでしょ? 身体だけじゃなく、気持ちも」
「そ、そうですね」
「セックスなんて、やり方が決まってるわけじゃくて、二人がお互いを好きなら、好きなようにすればいいんだよ。必要なのはお互いがお互いを『好きだ』っていう気持ちだけ。極論すればそうなるね」ミカはコーヒーをすすった。
「チョコレートどう?」真雪が二人に皿に盛られた小さくいびつなチョコレートを勧めた。
「これは?」
「あたしん家のこの秋の新製品。マロン・チョコ」
「へえ」夏輝はそれをつまんだ。
「中の栗を加工するのに二週間もかかる高級チョコレートなんだよ」
「そんなに?」
「そう。じっくり時間をかけて、甘く、芳醇な香りになっていく。お酒もちょっとだけ入ってるよ」
「おいしい! すごくおいしい。修平も食べてみなよ」夏輝は修平にそのチョコを一つつまんで手渡した。
「セックスも同じだ」
「え?……同じ?」
「好きな二人が時間をかけて経験を重ねれば甘く、かぐわしくなっていく、ってもんだよ。人を酔わせる要素も入ってるしね」
修平もそのチョコレートを口に入れた。「ほんとだ、ただ甘いだけじゃなくって、すごくいい香り……」
「そうそう、二人にプレゼント。っつーか、記念品」ミカが写真の束を二人に手渡した。
修平がそれを受け取り、見た瞬間、「おおっ!」大声を出した。「こっ、こっ、これはっ!」
「何、なに? 何の写真?」夏輝もその写真をのぞき込んだ。
それはケンジとミカのさっきのシーンを撮ったものだった。
「す、すげえ!」
「かっこいい!」
二人は食い入るようにその写真を見続けた。まるでスポットライトに照らされてケンジとミカが抱き合っているところから、濃厚なキス、ケンジのミカの乳房への愛撫、ミカのフェラチオ、ケンジのクンニリングス、二人が繋がる瞬間、そしてフィニッシュ。
「ま、まるで映画のシーンみたい……」
「そうか、それで時々シャッターを切る音がしてたんだ。で、でも誰が撮ったんすか?」修平が顔を上げた。
「こいつだよ」ミカが顎で龍を指した。
「ええっ?!」修平と夏輝は同時に大声を出した。「りゅ、龍が?!」
「な、なんという強烈中学生!」
「そうか、だから免疫があるってことなんすね」
「君たちも撮ってもらうか?」ミカがにやにやして言った。
「え、え、遠慮しときますっ!」