Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第2集
第5話 月経タイム
《月経タイム 前編》
マユミは机の上に立てていた12月のカレンダーを持ち上げて独り言を呟いた。「もう来る頃かな……」そして小さなため息をついた。「毎月毎月やんなっちゃう……」
海棠マユミ。高校二年生。学校では水泳部のマネージャをやっている。
マユミの部屋のドアがノックされた。「マユ、入るぞ」
「あ、ケン兄!」
マユミはいそいそとドアを開けた。「お風呂、早かったね」
ケンジはにっこり笑った。「早くおまえを抱きたくて」
――マユミの双子の兄、海棠ケンジ。高校二年生。マユミとは別の高校に通い、水泳部の主力選手として活躍している。中学時代から泳ぎの能力はずば抜けて高く、今も大会では、特にバタフライで必ず上位に入る強者として、近隣の高校でもその名は広く知られていた。
実はケンジとマユミは双子の兄妹でありながら、この夏に一線を越え、身体を求め合う関係になっていた。それから毎日のように二人は夜、こうしてどちらかの部屋で過ごし、そのままベッドで抱き合って眠るのが日課になっていた。
その晩は、マユミの部屋で二人は同じ時を過ごした。マユミは机に向かって、ケンジは床に腹這いになってそれぞれの宿題を済ませ、コーヒーとチョコレートを楽しんだ後、どちらからともなく抱き合い、熱い口づけを交わし、ベッドに倒れ込んでお互いのスウェットを脱がせ合った。
「ケン兄……」仰向けになったマユミが、覆い被さってきたケンジの目を見つめた。
「マユ……」そして下着姿のケンジは、またゆっくりとマユミの唇を味わった。
マユミはケンジの背中に腕を回した。
ケンジはマユミのブラを慣れた手つきで外し、現れた豊かな乳房を両手でさすった。そして、乳首を交互に舐め、柔らかく吸った。
「んっ……」マユミが目を閉じて呻いた。
唇を移動させながら、ケンジはマユミの小さな白いショーツを脱がせた。そして露わになった谷間と、その入り口の愛らしい粒を舌先でくすぐった。
「ああん……ケン兄……」
早くも身体中を上気させたマユミが身体を起こした。「今度はあたしの番だよ。ケン兄、」
「う、うん」
ケンジは仰向けになった。
マユミはケンジに軽くキスした後、さっきケンジがしてくれたように唇を滑らせ、逞しい胸の小さな乳首を舐め、吸った。
「ああ……」ケンジは熱い息を吐いた。
そうしてマユミはゆっくりとケンジの穿いていたピッタリとした黒い小さな下着を脱がせた。
ケンジのペニスが勢いよく跳ね上がって、先端から透明な液を迸らせた。
「すごい、ケン兄、もうこんなにしちゃって……」
マユミは熱くなったそれを愛しそうに手でそっと包み込んだ。
「マ、マユっ、」
「ケン兄ったら、まだ恥ずかしがってるの?」
マユミはふふっと笑って、ケンジのペニスに躊躇うことなく舌を這わせ始めた。
「ああっ、マユ、マユっ!」ケンジが大きく喘ぎ始めた。
マユミの口がケンジのペニスをくわえ込んだ。
息を荒くしていたケンジは、焦ったように起きあがった。マユミの口が離れた。
「マ、マユ、俺、もう入りたい、おまえに。入っていい?」
濡れた口元を拭いながら、マユミはこくんとうなずいた。
ケンジがマユミの身体を優しく抱き上げ、ベッドの真ん中に仰向けに寝かせると、彼女は恥じらいながら両脚を広げた。
「いくよ、マユ」
「来て、ケン兄……」
ケンジはマユミの唾液で濡れそぼったペニスを掴み、そっとマユミの谷間に押し当てた。そしてマユミの両膝に手を置いて、ゆっくりとそれを中に挿入させていった。
「ケン兄、いい、いい気持ち、ああああ……」
マユミが顎を突き出して甘い声を上げた。
「お、俺も。マユの中、あったかくて気持ちいい」
ケンジは腰を前後に動かし始めた。
「んっ、んっ、んっ……」
二人の身体が次第に大きく揺れ動き始めた。
一人用のベッドがぎしぎしと音を立てた。
「ケ、ケン兄、あたし、あたしっ!」
「も、もうイくのか? マユ」
「イっちゃう! ケン兄、一緒にイって!」
ケンジは激しく腰を動かした。
「お、俺も、も、もう……」ケンジは苦しそうに歯を食いしばった。「イ、イく、出、出る、出るっ!」
「ケン兄、ケン兄ーっ!」
「ああああーっ! イくっ!」
ケンジは大きく身体を仰け反らせた。その瞬間、ケンジの身体の奥深くから、マユミの体内に、熱い想いが発射され始めた。
びゅくびゅくびゅくっ!
「あああああーっ! ケン兄ーっ!」マユミは身体を大きく震わせながら叫んだ。
ケンジは身体を倒してマユミの口を自分のそれで塞ぎ、大きく交差させながら、収まりきれない熱さの余韻をマユミと共に味わい続けた。
◆
明くる日、部活動が終わってバインダーとストップウォッチを片づけていたマユミに、後輩の一年生マネージャ、和代が近づいてきた。
「先輩」
マユミは顔を上げた。「なに? どうしたの?」
和代はまっすぐにマユミの目を見ながら唐突に言った。「ケンジさんのアドレス、教えてください」
「え? ケン兄の?」
「はい」
「なんで?」
「あたし、ケンジさんが好きなんです。それに、この前、彼の誕生日だったのに、あたし何もプレゼントできなかったし」
マユミは怪訝な顔をした。「なんで、ケン兄の誕生日を知ってるの?」
「だって、マユミ先輩とは双子なんでしょ? うちの部活の名簿見ればすぐわかります」
和代は自信たっぷりに言った。
「なるほどね」マユミは中断していた作業を再開した。
「ねえ、教えてくださいよ」
「悪いけど、」マユミはバインダーの束を抱えて腰を伸ばした。「アドレスや電話番号をむやみに第三者に教えるのは、海棠家では御法度なんだよ」
「えー、何でですか?」
「まずはリアルに会って、話をして、親しくなってアドレス交換、っていうのが普通の流れじゃない?」
「いいじゃないですか、教えてくださいよー。あたしケンジさんが好きなんですうー」
マユミはいらいらしてきた。以前からこの後輩だけは苦手だった。なによりその無神経な厚かましさが我慢できなかった。マネージャ和代のしつこさと過剰なポジティブさは部員の間でも定評があったので、おそらくこういうやりとりが数日続くことをマユミはその時覚悟した。
しかし、予想は覆された。翌日の部活動が終わった後、和代はいつになく片づけを手際よく全部済ませると、にこやかにマユミに手を振ってあっさりと荷物を抱え、部室を出て行った。「じゃあ、マユミ先輩、また明日っ」
マユミは拍子抜けしたように肩をすくめ、自転車で颯爽と去って行くその後輩の背を見送った。それから彼女は、部室の灯りを消し、ドアに鍵をかけ、自らも自転車に跨って学校を後にした。
あと5分もすれば家に帰り着く、という通学路の交差点に面して小さな公園があった。マユミはいつものようにその場所を通り過ぎようとして、ふとその車止めのある入り口に目をやった。
「え?」
もうあたりはすっかり暗くなっていた。公園入口に立てられた街灯の下に、二台の自転車が置いてあった。そのうちの一台はケンジのものだった。
マユミは自転車を停めた。そして中の様子を窺った。
ブランコ横のベンチ。そのそばにも一本の街灯が立っていて、まるでそこだけスポットライトが当たっているように、制服を着た男女が座ってなにやら話をしている姿が浮かび上がっていた。
それはケンジと和代だった。
「なに? 何なの? あの子……」
マユミは二人に悟られないように場所を移動し、公園横にある古い商店の自動販売機の陰に身を隠した。
和代はケンジに薄いピンク色の封筒を手渡した。ケンジは照れたように頭を掻きながらそれを受け取った。二人が言葉を交わす度、二つの白い息が混じり合った。
みぞおちのあたりに締め付けられるような痛みが走り、マユミは思わず顔を背けた。そしてそこに座り込んで胸を押さえ、息を整えた。
マユミが再び目を上げた時、ケンジは立ち上がって和代から受け取ったものをバッグにしまっているところだった。そして彼は焦ったように公園の入り口に停めた自転車に向かって歩き出した。
マユミは慌ててそばに停めていた自分の自転車に飛び乗り、ペダルを思い切り踏み込んだ。
◆
その夜、マユミはケンジの部屋を訪ねた。
スウェット姿のケンジはいつもの笑顔でマユミを出迎えた。そしてドアを入ったところで彼はマユミの身体を抱きしめた。
マユミはちょっとだけ身体をこわばらせた。
「マユ、今夜は俺がコーヒー淹れて来てやるよ」
「え?」マユミは顔を上げてケンジを見た。
「ここで待ってな」ケンジはマユミを部屋に招き入れて、ベッドに座らせた後、ドアに向かった。
「あ、そうそう、」ケンジは立ち止まって振り向いた。「机の右の引き出しに、おまえの好きなメリーのチョコレートが入ってるから、食べてていいぞ」
そして彼は階段を下りていった。
マユミはケンジに言われた通りに彼の机の引き出しを開けた。ケンジが自分のためにいつも買ってくれるメリーのチョコレート・アソートの箱が無造作にそこに入れられていた。
ふと机の上を見たマユミは、今日の夕方、公園で和代がケンジに渡していた封筒が、これも無造作に置いてあるのに気付いた。
マユミはそれを恐る恐る手に取った。心臓が速打ちを始めた。
封はすでに切られていた。彼女は息を止めて、その中に入っていた二つ折りのカードを取り出し、ゆっくりと広げた。
『お誕生日おめでとうございます。突然ですけど、よかったら、私と交際してください。私、ケンジさんが好きです』
和代の文字は歳の割に大人びている、とマユミは思った。文の最後に小さなクマのイラストが描かれていた。
階段を上がってくる足音が聞こえ、慌ててマユミはそれを封筒に戻した。そしてチョコレートの箱を持ってベッドに戻った。
「あれ、食べてても良かったのに」トレイを持ったケンジが、ドアを開けてマユミを見るなり言った。
「え?」マユミの手の箱はまだ包装紙に包まれたままだった。
「どうかしたのか? マユ」
ケンジはトレイを床のカーペットに置いた。
「え? 何が?」
「何か、ぼーっとしてるぞ、今日は」
「な、何でもないよ。ケン兄、気にしないで」
「そうか?」
ケンジは二つのカップにデキャンタからコーヒーを注いだ。
マユミの手からチョコレートの箱を取り上げて、ケンジは呆れたように妹の顔を見た。「どうした? おまえチョコレート大好物だろ?」
「う、うん……」
ケンジはプラスチックの包みを破り始めた。
「ケン兄、」
「なんだ?」
ケンジは開けた箱をマユミの目の前に置いて、自分が先に一粒のチョコレートをつまみ上げた。
「遅れてるの……」
「え?」ケンジの手が止まった。
「今月の生理……まだ来ないの……」
ケンジの指先からチョコレートが落ちた。「な、何だって?!」
マユミはうつむいた。
「そ、それって……まさか……」ケンジは血の気の引いた顔をこわばらせた。
「予定より、もう五日も遅れてる……」
ケンジは焦って二人の間のトレイを横にどかすと、マユミの前ににじり寄り、震える声で言った。
「ま、まさか、おまえ、に、妊娠したんじゃ……」
マユミは顔を上げて、力なく笑った。「だ、だいじょうぶだよ、ケン兄。心配しないで」
「だ、だけど……」ケンジはマユミの両肩にそっと手を置いた。その手は少し震えていた。
「いつもより不安定だけど、ちゃ、ちゃんと高温期に入ってるし……」
出し抜けにケンジはマユミに向かって土下座した。
「ごめん! マユ! ごめん! お、俺の、俺のせいだ! ごめん! ゆ、許してくれ、マユ!」
「ケ、ケン兄……」マユミは狼狽して腰を浮かせた。
「ごめん! ごめん!」ケンジは床に頭を擦りつけながら必死で叫び続けていた。
「ケン兄、顔を上げて」マユミはケンジの背中を抱き起こした。
ケンジの目は真っ赤になっていた。「俺、俺、おまえを妊娠させちまった! ど、どうしたらいいんだ……」
「まだ妊娠したって決まったわけじゃないよ。ケン兄」
マユミの目を見つめるケンジの顔は、マユミが今まで見たこともないような憔悴しきった表情だった。
「お、俺、責任とらなきゃ、おまえに責任、とらなきゃ……」
ケンジはひどくおろおろしていた。マユミはそんな兄の哀れな姿を見るに堪えず、固くなってうつむいた。
「マユ、俺、もうおまえとは二度とセックスしない。誓う!」
マユミはとっさに顔を上げた。「い、いやだ! ケン兄、これからも抱いてよ!」
「お、俺のせいでおまえの身体がぼろぼろになっちまう。ちゅ、中絶したりしたら、もしかしたらもう子どもが産めない身体になっちまうかもしれないんだぞ!」
「ケン兄が責任取ってくれるって言うのなら、これからもあたしを抱いて欲しい」
「いや、もうだめだ。こんなこと続けてたら、おまえだけ不幸にしちまう」
ケンジの目から涙がこぼれ始めた。
「いやだよ、ケン兄、いやだ、あたし、ケン兄にこれからもずっと抱かれたい、抱かれたいよ……」
マユミの目からも涙がこぼれ始めた。
ケンジはたまらなくなってマユミの身体をぎゅっと抱きしめた。ケンジの身体は、まるで高い熱を出しているようにぶるぶると大きく震えていた。
その夜から、ケンジはキスはおろか、マユミの身体には指一本触れようとしなかった。
ケンジは毎晩マユミの部屋を訪ね、床に頭を擦りつけながら何度もマユミに謝った後、すがるマユミを振り切って自分の部屋に戻っていった。
マユミはケンジの温かさが恋しくて、毎夜枕を濡らし、浅い眠りの夜を過ごした。
◆