Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第2集 第5話
《月経タイム 後編》
海棠家の夕食時。
「あんたたち、なに神妙な顔してんの? 二人そろって」母親がサラダボウルを食卓に置いて座った。
ケンジはうつむいた顔を上げることなくスプーンを手に取った。
「何か悩みでもあんの?」
ケンジの隣に座ったマユミは黙ってスプーンですくったシチューを口に入れた。
しばらくしてケンジは決心したように顔を上げ、びくびくしながら口を開いた。「あ、あのさ、母さん、」
「なに?」
「お、俺たちを身ごもった時、ど、どんな気持ちだった?」
「なによ、いきなり」
「い、いや、こないだ保健の授業でさ、妊娠と出産のこと習って、でも、俺、男だからいまいち実感わかないっていうか……」
母親はちらりと父親を見た後ゆっくりと話し始めた。
「あんたたちを身ごもる前に、実は母さん、一度流産しちゃったの」
「えっ?」マユミが思わず顔を上げた。
「もしその子が生まれていれば、あんたたちの二歳年上のお兄ちゃんになるはずだったわ」
「し、知らなかった……」ケンジは再び目を伏せた。
「だから、あんたたちが二人してお腹の中で育っている、ってわかった時はお父さんといっしょに泣いて喜んだものよ」
「そうだったんだ……」マユミが切なそうな目で父親を見た。父親は少し照れたような顔をして、サラダにドレッシングをかけていた。
それからケンジは黙り込んだまま、焦ったように食事を済ませた。そして無言で手を合わせて立ち上がり、食器をキッチンに運んだ。
母親はケンジの背中を見送った後、マユミに目を向けた。「何かあったの?」
「あ、あたしとケン兄、昨日話しててさ、双子を身ごもるって大変だろうね、っていう話題になったんだ」
「大変じゃないと言えば嘘になるわね。でも、流産した後だったから、あたしもお父さんもすごく嬉しくて、あんたたちが生まれるのがとっても待ち遠しくて、楽しみだったのよ」
「計画妊娠だったの?」
「あんた難しい言葉知ってるのね」
「あ、あたしも一応学校で……習ったからね」
「赤ちゃんができにくい身体だ、ってお医者さんからは言われてた。排卵を誘発する薬も飲んでたわ。でも、お父さんも、とっても頑張ってくれてたのよ」母親はいたずらっぽくウィンクをした。
「ちゅ、中絶とか、したことないよね、ママ」
「当たり前でしょ。あたしもお父さんも子どもがとっても欲しかったんだから。何? そういうことも学校で教えてもらったの?」
「ま、まあね」
サラダを食べ終わった父親がいつになく真剣な顔で言った。「人工妊娠中絶は殺人だ。軽い気持ちで過ちを犯した男女による胎児の殺人なんだよ、マユミ」
◆
明くる日、マユミは学校の部活動が終わった後、和代に呼び止められた。
力なく振り向いたマユミは、やっとの思いで口を開いた。「……何? どうしたの?」
「最近元気ないですよ、先輩。何かあったんですか?」
「別に何も……」マユミはうつむいた。
「この前はごめんなさい」和代はぺこりと頭を下げた。
「え?」
「無神経にケンジさんのアドレス教えてくれ、なんて言っちゃって」
マユミの脳裏に、公園で語らうケンジと和代の姿が甦った。
「……」
「速攻で振られちゃいました」和代は照れたように言って頭を掻いた。
「えっ?」マユミは思わず顔を上げた。
「あたし、ケンジさんを公園で待ち伏せして、手紙渡したんです。先輩が言ってくれたように、直接会って。でもケンジさんのお返事は『ごめんね』でした」和代はつややかなピンク色の舌をぺろりと出した。
「そ、そうなの?」
「はい。その場で。即答でしたね」
「ケ、ケン兄、その場であ、あなたの手紙を読んだの?」
「はい。あたしとっても恥ずかしかったけど、でも、すぐに結果が出て、今は正直ほっとしてます。返事を待つ間のもやもやも経験しなくて済んだし」
「そうだったんだ……」マユミは独り言のように呟いた。
「『俺にはもう付き合ってる人がいる。その子のことしか今は考えられない』って」
「ケン兄が、そんなことを……」マユミの涙腺がゆるみ始めた。
「それにケンジさん、あたしの手紙、突き返さずに受け取ってくれたんですよ。普通そんなことしないですよね?」
「そ、そうだね」
「『君の気持ちには応えられないけど、受け取ることはできるよ』ですって! もう感激です。優しすぎ! あたしそれだけで彼を好きになって良かった、って思えましたもん。それに、」和代は頬を赤らめて続けた。「『俺は一日中、大好きな彼女のことを考えているんだ』ですって。めちゃめちゃ素敵でかっこいいですよね。ケンジさんにそこまで言わせる彼女って、どんな人なんだろう……。マユミ先輩は知ってるんですか? そのケンジさんの彼女」
マユミはにっこり笑った。「うん。知ってるよ」
そしてマユミの目から涙が一粒、ぽろりとこぼれた。
「あれ、何で泣いてるんです? 先輩」
「え? あ、あの、和代ちゃんって、いい人だな、って感動したんだよ」
「えー、何であたしがいい人なんです?」
「いい人だよー」マユミは泣き笑いしながら和代の頭を乱暴に撫でた。
◆
その夜、マユミがいきなりケンジの部屋のドアをノックもせずに乱暴に開けて飛び込んできた。
ケンジは早々に部屋の灯りを消して、ベッドに潜り込んでいた。そして布団の中で丸まって小さく震えながらくぐもった声で呟いていた。
「ごめん、ごめんよ、マユ、マユ……」
「ケン兄!」マユミが叫んだ。そして布団越しにケンジの身体を揺さぶった。「始まったよ! 始まったんだよ!」
ケンジは布団の中から力なく聞き返した。「何が?」
「今月のあたしの生理、始まったんだよ! 今日」
ケンジは布団を吹っ飛ばして飛び起きた。
「ほ、ほんとか?! マユっ!」
「心配かけてごめんね、ケン兄。大丈夫。妊娠なんてしてないよ、あたし」
ケンジはマユミの身体を息が止まりそうなほど力一杯抱きしめた。そして何も言わずマユミの口をむさぼるように吸った。マユミの頬に、温かい雫が幾筋も落ちて流れた。
ケンジはそのままマユミをベッドに押さえつけ、彼女が身につけていたスウェットを荒々しくはぎ取り、ブラも、内側に生理用ナプキンの張り付いたショーツも一気に剥ぎ取って、あっという間に全裸にしてしまった。
「ケン兄、だめだよ、シーツ汚しちゃうよ……」
「マユっ!」
ケンジは一声マユミの名を呼ぶと、彼女の秘部に顔を埋めて、舌と唇で谷間を愛し始めた。
「だめ! ケン兄、血が出てるから、あたし、あ、ああああ……」マユミは慌てた。それでも彼女の身体は、いつになく熱くなっていった。
ケンジは構わずその行為を続けた。そしてしばらくして顔を上げたケンジはマユミの目を見つめて切なそうに笑った。彼の口元は真っ赤な血に染まっていた。
「マユー」
ケンジはもう一度妹の名を呼んだ。
「ケン兄の口、血だらけだよー。バンパイヤみたい」マユミは困ったように笑って、焦ってベッド脇のティッシュを数枚取り、ケンジの口元を優しく拭った。
「良かった、良かった、マユ、マユ……」ケンジは目を真っ赤に泣きはらしてマユミを見つめた。
マユミは申し訳なさそうにケンジの頬を両手で包み込んだ。「ケン兄、きて……」
「い、いいのか? マユ……」
「大丈夫だよ、今は。でも、ケン兄の、血で汚しちゃうね……」
「構うもんか!」ケンジは叫んで自らの着衣をあっという間に脱ぎ去った。そしてマユミの身体にのしかかった。
「入ってもいいのか? マユ」
マユミは無言でうなずいた。
ケンジはゆっくりとマユミの中に入り始めた。
「ああ、ケ、ケン兄……」マユミは眉を寄せて呻いた。
「だ、大丈夫か? マユ。痛くないか?」
「ちょ、ちょっと敏感になってる」
「優しくするからな」ケンジはそう言うと、ゆっくりと腰を前後に動かし始めた。「我慢できなくなったら言えよ、マユ」
「うん。大丈夫。痛くないよ。それより今はケン兄と繋がりたくて我慢できない」
「マユー」
ケンジはまた泣きそうな顔をしてマユミを見た後、身体をぎゅっと抱きしめた。
「嬉しい、ケン兄、ケン兄……。やっとまた抱いてくれたね……」
そしてケンジは口でマユミの口を塞いだまま、腰をいつもよりもゆっくり、それでも大きく動かし始めた。
マユミの身体が細かく震え始めた。
ケンジの背中を強い痺れが走り抜けた。
「あ、マ、マユ、マユっ!」
「ケン兄ーっ!」
ケンジがマユミの中で、いつもに増して激しく弾けた後、マユミは少し涙ぐみながら、上になったケンジの身体をぎゅっと抱きしめた。
「ケン兄……」
ケンジはマユミの頬をそっと撫でた。「マユ……、ほんとに痛くなかったか?」
マユミは腕をほどいた。
「うん。大丈夫だよ」
「俺、おまえが妊娠してたら、どうしよう、ってマジで悩んでた」
「……うん」
「でも、今の俺じゃ、きっとどうすることもできなかった……」
「ごめんね、ケン兄を追いつめちゃって……」
「おまえのせいじゃないよ」
ケンジはそっとマユミにキスをした。
「マユ、基礎体温表、つけてる?」
「え?」
「毎日計ってるんだろ?」
「手帳に書いてるだけ。でも明日からちゃんと書こうかな」
「俺にも見せてくれよ。っていうか、いっしょにつけようぜ。日課にして」
「ケン兄って、高校生離れしてるね」マユミはおかしそうに言った。「基礎体温表なんて、普通の男子高校生は知らないんじゃない?」
「学校で習ったことがあるのを思い出してさ、今回あらためて調べ直してみたんだ」
「そうなんだー。えらいよ、ケン兄」
ケンジは恥じらったように言った。「マユの身体のこと、おまえ任せにしちゃいけない、って、今回強烈に思ったし……」
「優しいね、ケン兄」
ケンジはマユミの髪をそっと撫でた。「まだ妊娠の責任をとれない以上、そういうことはちゃんとしなきゃ、って」
マユミは潤んだ目を何度か瞬きさせた。「ほんとに優しいね。ケン兄」
「臆病なだけだよ」ケンジは腰をもぞつかせた。「あ、気持ち悪くないか? マユ」
「何が?」
「出血してる上に、俺の、その、え、液が中に入っててさ」
「ケン兄と繋がってるから全然気にならないよ。」マユミはにっこりと笑った。「逆にすっごく嬉しい」
「そ、そうか……」
マユミが小さな声で言った。「って、ケン兄、今日はなかなかちっちゃくならないね。まだ大きいし、びくびくしてるよ」
ケンジは顔を赤らめた。
「お、おまえをしばらく抱けなかった反動……かな」
「もう一回イく? いっしょに」
マユミはまたケンジの背中に腕を回した。
2013,7,15初稿発表 2013,8,9改訂
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