Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第1集
第1話 廃墟タイム
ケンジ、マユミ、高三の秋。
マユミがいつも学校帰りに自転車で通る銀杏の並木道沿いにある郵便局の角に、ケンジはそわそわした様子で立っていた。
マユミは彼の姿にすぐに気づいて自転車を降りた。「ケン兄、どうしたの? いきなりメールで呼び出したりして」
「いや、あのな、」
「どうしたの?」
「マユ、」ケンジは、マユミに近づいて、その耳に口を寄せた。「お、俺さ、」
「なに? なに?」マユミは微笑みながらケンジの顔に耳を近づけた。ケンジはマユミの頭に手を置いて、自分の方に引き寄せながら小さな声で言った。
「今日さ、部活休みで早く帰れるなーって思ったら、おまえを、その、急に抱きたくなってさ」
ケンジは顔を赤くして眉尻を下げた。
「やだー、ケン兄、いきなり何言い出すのかと思ったら……」
「でさ、俺さ……」
マユミはケンジの顔を見てにっこりと笑った。
「ケン兄、我慢できないのなら、あたしがお家でイかせてあげるよ」
「い、いや、そ、それも嬉しいんだけど、」
「どうしたの?」
「一度やってみたかったことが、その、あってさ」ケンジはもじもじしながら言った。
「何? どんなこと?」
「そ、外で、やりたい。おまえと……」
「外?」
「う、うん」
「こんな町の真ん中で?」
「ちっ、違うよっ」ケンジは一気に赤面した。「どっか人が来ない所でさ……」
「ケン兄ったら……」マユミも頬を赤くして恥ずかしげに言った。
「まだ外で裸になっても寒くないし、いいだろ? マユ」
マユミは少し考えて言った。「あたし、いいトコ知ってる。そこに行こ、ケン兄」
「いいトコ?」
「うん。ついてきて」マユミはいそいそと自転車にまたがって、ケンジを促した。ケンジも慌てて自転車に乗り、マユミの後を追った。
海棠ケンジ、マユミの双子の兄妹は、昨年、彼らが高校二年生だった夏に、お互いを想い合う気持ちを知り、なだれ込むように身体を求め合った。そしてその禁断の関係は今もずっと続いていたのだった。
→二人が一線を越えた話はこちら(本編第1作『Chocolate Time』)
◆
そこは一軒の空き家だった。カントリー風の二階建ての大きな建物が唐突にあった。街から離れていて、建物全体が深い雑木林に囲まれていた。ひと気はない。ツクツクボーシが元気なさ気に鳴く声に、川の流れるかすかな音が混じって聞こえる。
「こんなのが、あったのか、こんなところに……」ケンジは自転車を降りて言った。
「素敵な家でしょ? まだそんなに朽ち果ててないし」マユミも自転車のスタンドを立てた。「入ってみようよ。ケン兄」
入り口の上に大きな看板が掛けられていた跡があった。曲がった釘が何本か残っている。
マユミとケンジは、その大きな観音開きの強化ガラス製のドアを開けた。
「鍵掛かってないんだ……元はレストランか何かだったみたいだな」
「そうだね」
二人が中に入った所には木製のレジカウンターがあった。一階部分のほとんどは広いホールで、椅子やテーブルは残っていなかった。その奥の壁に広く空いた出入り口の先は厨房だったようだ。
「こんなところにレストランがあったなんて、知らなかったな」
「そうだね。でもなんでこんな町はずれに建てたんだろうね」
ケンジはホールを見回しながら言った。「ここに入ってくる道の前の道路は旧国道だったんだ」
「そうなの?」
「ああ。川に橋が架かってバイパスができてからこっちの方は寂れたんだろうな」
「もったいないよね、これ」マユミも天井の電球のとれたペンダント型照明に目をやりながら呟いた。「きっと素敵なお店だったんだろうな」
その時、奥の元厨房の方からみゃあ、という声が聞こえた。
「あ、猫だ!」とっさに振り向いたマユミが叫んだ。そしてその声のする方に足を向けた。
「気をつけろよ、マユ、足下」ケンジも後を追った。
その広い部屋は埃まみれで、所々に割れた陶器のかけらが散乱していた。
ケンジが足を踏み入れた時には、すでにマユミはしゃがみ込んで黒いトラ縞の猫の喉元を撫でていた。その小動物はごろごろと喉を鳴らしながら目を細めてマユミの手にすり寄っていた。
「やん、可愛い! この猫、女の子だね」
「人なつこい猫だな」ケンジもマユミの横にしゃがんでその猫の背を撫でた。しっぽを立てた彼女はケンジの脚に身体を擦りつけてきた。
「かわいいな……」ケンジも目を細めた。
「あれ、外にもいるよ」マユミがふと目を上げた。
厨房は裏庭に面していて、広いガラス窓から見えるそこには雑草や小木が生い茂っていた。
「意外に開けてる」
「けっこう広い裏庭だね」
伸び放題の草の中に転がっていたオレンジ色の水タンクの陰に、白い猫と斑の猫が並んで寝そべっていた。
「猫のすみかになってるのか、この家」
「誰かごはんあげたりしてるのかな……」
立ち上がって所々にシミの広がった壁に囲まれた部屋を見回していたケンジは、汚れて輝きをなくしたシンクの近くに落ちていた物に気づいた。そして無言でそこまで歩くとそれを拾い上げた。
「あれ、ケン兄、何それ?」
「え? あ、ああ。電気のコードが落ちてた」ケンジは手に取ったそれをマユミに見せた。
「コードだけ? ミキサーか何かのだったのかな」
「そうかもな」
「そんなの拾ってどうするの? しかも二本も」
ケンジは少し赤面してそれを手にしたまま、何も言わず先にそこを出た。
二人はホールに戻った。
「あっちにサンルームがあるみたいだ」
マユミもケンジが指さした方に目を向けた。
レストランのメインホールと思しきその広い空間の先に、眩しい光が溢れた部屋があった。それはケンジが言ったとおり部屋と言うより、壁も天井も透明なガラス板で覆われたサンルームのようだった。
「マ、マユ、あそこで……」
ケンジはそわそわしたようにマユミの手を取った。
「うふふ、ケン兄、我慢できなくなっちゃった?」
思いの外広い空間だった。薄汚れた丸いテーブルが二つ倒れたままになっている。からからに干からびた観葉植物の鉢が3つ、床に転がっている。そしてすべすべした肌合いの柱が二本立っていた。
「おしゃれだね、」マユミはその太い円柱を見上げた。「上の方がなんか素敵。彫刻が施されてる」
「ギリシャ風の柱ってとこかな」
そのサンルームの外にも雑木や雑草がびっしりと生い茂っていたが、所々に赤いバラの花が見えた。
「しかし暑いな、さすがに……」
そこは太陽の光が充満し、いわゆる温室のような状態だった。むっとするほどの熱気が二人を包み込んでいた。
「丈夫なガラスだね。雨で汚れてるけど、どこも割れてないよ」マユミは首をぐるっと回しながら言った。そしてケンジの顔が上気しているのに気づいた彼女は、彼の背後に立った。
ケン兄、と甘えるような声で言って、マユミは腕を回し、ケンジの制服の白いシャツのボタンを外し始めた。「暑いから脱いじゃお」
「あ、マ、マユ……」
マユミはケンジの制服の半袖シャツをそっと腕から抜いて、その汗ばんだ胸に手を当て、静かにさすった。
「イかせてあげるね、ケン兄」
「う、うん」ケンジは小さな声で言った。
「やった! ケン兄が発射するところ、また見られる」
「え?」
「夏のボートでさ、ケン兄が勢いよく発射するの見て、あたし感動したんだよ」
「お、お前、そんなことに感動するのか?」
「男の子の身体の神秘」マユミは笑った。「だから、ここでまたイって見せて」
ケンジはマユミの顔を見ながら躊躇いがちに言った。「じゃ、じゃあ、一つリクエストしていいか?」
「リクエスト?」
「うん。この柱に俺をくくりつけて、それから、」
マユミは思わず口を押さえた。「えー? ケン兄、そんなMだったの?」
「い、いやさ、手や脚が動かせないようになってると、ちょっと興奮しちゃったりするんだよ」
「そうなの?」
「うん。マ、マユにして欲しかった……」ケンジは赤くなった。
マユミは口角を上げてケンジを横目で見た。「もしかして、その電気のコードで?」
ケンジは照れくさそうに頭を掻いた。
→ケンジが夏のボートで勢いよく発射するという話はこちら(本編第3作『Mint Chocolate Time』)
「じゃあ、あたしも調子に乗っていい?」
「なんだ?」
「ケン兄を目隠ししちゃってもいい?」
「え? 目隠し?」
「そう」
「なんでそんなこと……」
「どうせなら、あたしに虐められるシチュエーションを盛り上げたいかな、って」
「い、いいけど……」
すぐに二人は制服を脱ぎ捨て、全裸になった。マユミはケンジを白い柱に手を後ろに回させてケンジが持っていた電気のコードで縛り付けた。
「足首も、」ケンジが言った。すでに彼のペニスは天を指していた。
「いいよ」マユミはケンジの足首も柱に結びつけた。
「じゃあ、目隠しするね」
「うん……」
マユミは自分の鞄から弁当箱を取り出し、包んでいたオレンジ色の生地に緑のペイズリー模様がデザインされたバンダナを広げた。そうしてそれでケンジの目隠しをした。
「いい感じじゃない? ケン兄、囚われて、今から陵辱されるって感じ」
「マ、マユ、俺、も、もうイきそう……」
マユミはふふっと小さく笑うと、ケンジの前にひざまづいてペニスをくわえ込んだ。
「ああっ!」ケンジは思わず柱に縛り付けられた身体を硬直させた。
マユミはゆっくりと口を前後に動かし始めた。
「マ、マユっ! マユっ! お、俺の、」ケンジが慌てて叫んだ。
「どうしたの?」マユミは口を離し、目を上げて言った。ケンジは目隠しをしたまま言った。「絶対口放せよ、俺、お前の口の中に出すの、絶対イヤだからな!」
「わかってるよ。大丈夫。あたし、今日はケン兄の発射するところが見たいから」
再びマユミはケンジの熱く脈動しているものを咥えた。
「あ、ああああ、マ、マユ、マユっ!」
マユミは口の動きを速くした。
「で、出る、出るっ! 口を放せっ!」
ビクン! ケンジの身体が大きく震えた。マユミは身を引いた。
びゅびゅっ! ケンジの射精が始まった。
びゅっ! 二回目に発射された精液が、まっすぐ勢いよく飛び、天井のガラスに張り付いた。
「すごい! すごいすごいっ!」マユミは次々に発射されるケンジの精液を目で追った。
はあはあはあはあ……。ケンジは肩で息をしていた。マユミは柱の背後に回り、目隠しを解いた。「ごめんね、ケン兄、痛くなかった?」
「大丈夫、平気だ」
「なんかいつもより勢いよく飛んでたみたい……」
ケンジは照れくさそうに言った。「初めてのシチュエーションでさ、すっごく興奮してた」
「すごかったよ、ほら、」マユミは天井を指さした。「あんなところまで、あ!」
ケンジの白い液が付着した天井のガラス板の向こうに、全身真っ黒の猫が姿勢良く座っていた。
「猫だ……」ケンジが言った。
マユミはケンジの束縛を解きながら言った。「何匹もいるんだね」
「いつからいたのかな……」
その黒猫は身動き一つせず、じっと二人を見下ろしていた。
「瞳の色が片方ずつ違うね、あの猫」
「そうだな左が青で右が金色。確か『オッド・アイ』とか言うんだって」
「毛づやもいいし、なんか気高い感じがする……」マユミはその黒猫を見上げたまま、手をメガホンにした。「猫ちゃん、興奮した?」
「な、何言ってんだ、マユ」ケンジは呆れたように言った。
マユミはケンジに目を向け直してにっこりと笑った。
「あたしは興奮しちゃった……」
ケンジはマユミの目を見ながら言った。「ありがとう、マユ。とっても気持ちよかった」
そしてマユミの唇を求めた。マユミはケンジの首に手を回して、ケンジの口に舌をそっと差し入れた。
口を離したケンジが言った。「ごめんな、マユ、俺だけイっちゃって」
「いいんだよ、ケン兄」
「今、お前に入れられない時期だから、指で……」
ケンジはマユミを後ろから抱きかかえた。そして左手で彼女の左の乳房を優しく包み込んだ。彼の右手は前から股間に伸ばされ、その中指がマユミの愛らしい繁みをかき分けてクリトリスを捉えた。
「あ、ああん……」マユミは喘ぎ声を上げた。ケンジはその指の動きを少しずつ大きくした。
「痛くないか? マユ」
「平気。とっても気持ちいいよ、ケン兄。あ、あああ……」マユミは顎を上げ、うっとりとしたように目を閉じた。
マユミの秘部から雫が太股を伝い始めたのを確認したケンジは、一度自分の中指と薬指を舐め、唾液でたっぷり濡らした後、静かにマユミの谷間に挿入し始めた。「あ、ああっ!」マユミは顎を突き出して喘いだ。そのうちケンジのペニスもその大きさを増し始め、彼はマユミのヒップにそれをこすりつけ始めた。「んっ、んっ……」
「ケ、ケン兄、あ、あたし、もう……」マユミの身体が細かく震え始めた。
二人は立ったまま身体を押し付け合っていた。ケンジは左手に力を込めてマユミの乳房を揉みしだき、彼女の谷間に挿入した指を小刻みに動かし続けた。「ああ、ケ、ケン兄! イ、イっちゃう! 、あたし、ああああ……」
「ううっ、お、俺もまた……」
二人の身体の動きが激しさを増した。
「あああーっ!」マユミがひときわ大きな声を出した。
「イくっ!」ケンジも呻いてマユミの乳房を握りしめた。
ぐうっ! っと喉元で呻いたケンジは全身を硬直させて再び体内にあった熱い想いを勢いよく放出し始めた。
がくがくがく! マユミの身体が痙攣した。「ケン兄ーっ!」
ケンジはとっさにマユミをぎゅっと抱きかかえた。
マユミのヒップに放出されたケンジの精液は、太股を伝って彼女の白い脚を幾筋も流れ落ちていった。
二人は汗だくになってはあはあと荒い息を落ち着かせようとしていた。ケンジは背中からマユミを抱いたままその肩に顎を乗せていた。
「やっ!」マユミが小さく叫んで自分の足を跳ね上げた。
ケンジは思わずマユミから身を離した。「ど、どうしたんだ?」
「いつの間に?」
マユミは自分の足下を見下ろしていた。
そこにはさっき天井の上にいた黒い猫が慌てもせずマユミの足にすり寄っていた。
「さっきの黒猫?」ケンジは驚いたように言った。
その猫はマユミの脚を伝って垂れているケンジの放った液をざらついた舌でしきりに舐め取り始めた。
「この猫……」ケンジはびっくりしてその様子を見た。
「やだ、温かくてざらざらしてる……」マユミは脚を動かさずにその猫をじっと見下ろしていた。「でも何となく気持ちいい」
「お、俺の出した液を舐めてら……」
「この子も女の子みたいだよ。好きなのかな……」
「めちゃめちゃ変な猫だな……」
マユミは執拗に脚を舐め続けているその猫に向かって言った。「猫ちゃん、妊娠しちゃうよ、ケン兄の赤ちゃん」
「いや、するわけないから」ケンジが呆れたように眉尻を下げた。
◆
その夜、二人はマユミの部屋でチョコレートタイムを過ごしていた。
「マユ、今度あそこでやる時は、時季を考えような」ケンジが腕や背中をぼりぼり掻きながら言った。
「そうだね、」マユミも脚にかゆみ止めの軟膏を塗りつけながら言った。「まだ蚊がいっぱいだったね」
「全身がかゆい」
「ごめんね、ケン兄、ちょっと考えが浅はかだった」
「気にするなよ。俺、二回もイかせてもらってすごく気持ちよかったし」ケンジは笑った。
「同じコト、ここでやってみる?」
「え?」
「ケン兄が飛ばす瞬間見るの、あたしすっごく好きになっちゃった」
「なんだよそれ」
「だって、逞しいじゃん。男の子の野性の強さを感じる。それに、ケン兄みたいにかっこいい男の子が縛られて喘ぎながらイかされる姿って、あたしとっても萌える」
「か、かっこよくなんか、ないから、俺……」ケンジは照れて頭を掻いた。
「ケン兄、またイきたくなったでしょ?」
「いや、いいよマユ。お前の部屋を汚したりしたら悪いよ」
「ふふ、ケン兄、相変わらず優しいね」
マユミはケンジの頬に手を当てて、キスをした。そして続けた。「もうすぐだからね。あと数日我慢してね、ケン兄」
「うん」ケンジは子どものように顔をほころばせた。
「さて、片づけるかな」ケンジはそう言って二つのカップの載ったトレイを持って立ち上がった。「ついでに歯みがきもしてくる」
「あたしも行く」マユミも立ち上がってパジャマの裾を直した。
二人が洗面所で並んで歯みがきをしているところに母親が通りかかった。そして少し呆れたように言った。
「相変わらず仲良しね」
うがいを終えたケンジが振り向いた。
「何か問題でも?」
「別に」母親は愛想のない口調でそう言うと、洗濯を終えた洗濯機の蓋を開けた。「二人とも自分のはちゃんと自分で干すのよ」
口をタオルで拭きながらマユミが言った。「わかってるよ」
すでにケンジは自分の着ていたものとマユミのそれを黄色い籠に放り込んでいた。
「あんた、なに妹のと一緒に籠に入れてんの?」母親が咎めるように言った。「下着とかに触ったらマユミが嫌がるでしょ?」
「あたし平気だよ」マユミが言った。「いつも一緒に上に持って行くもん」
母親は思いっきり呆れ顔をしてマユミを見た。「変。それって変よ、普通。あんた男の子に自分のブラとかショーツとか触られても何とも思わないわけ?」
横でケンジはどきどきしながら立っていた。
「だって、兄妹でしょ?」
「いや、おかしいわよ、絶対。あんたたちの関係、普通じゃない」
「ちょっとオープンなだけでしょ。あたしケン兄のこと好きだから別に普通だよ」
ケンジはびくん、と肩を震わせてマユミを見た。
「好き……って、あんた……」母親は続く言葉をなくした。
「変な意味じゃないからね、もちろん。兄妹なんだから」
「当たり前よっ!」
「あ、そうだ」マユミが母親に身体を向けた。
「何?」
「うちで猫飼っちゃだめ?」
「猫?」
「うん。あたしもケン兄も好きなんだ」
「残念だけど」母親は申し訳なさそうに眉尻を下げた。「お父さんが猫アレルギーなのよね」
「そうなんだー」マユミは小さくため息をついた。
「それに、あんたたち部活でほとんど家にいないじゃない。世話するの結局あたしでしょ?」
ケンジが言った。「やっぱりだめか」
「他にかわいがる物、見つけたら」
「そうだね。そうするよ」ケンジは言って、母親に気づかれないようにこっそりマユミの背中に指を這わせた。
マユミが横目でケンジを見て、ほんのりと頬を染めた。
「よし、じゃ、じゃあ持って行くよ」ケンジはマユミが抱え上げた洗濯物の入った籠を、代わりに受け取った。
「ありがと、ケン兄」マユミはにっこりと笑ってケンジを見た。
「……ほんとに仲良しね、あんたたち。まるで恋人同士みたい。やってることが」
ケンジは少し赤くなって眉を動かした。
「おやすみ、母さん」
「おやすみなさい」マユミも言った。
「まさか一緒に寝たりしてないでしょうね、あんたたち」
マユミは足を止めて振り向き、ひょいと肩をすくめた。「そんなことするわけないでしょ」
二階に上がった二人はそれぞれの部屋の外のベランダに出て、自分の洗い上がった洗濯物を干し始めた。
「なあ、マユ」
「なあに?」マユミは前に小さなリボンのついた白いショーツを手に持ったままケンジに目を向けた。
「母さん、疑ってるんじゃないかな」
「あたしたちの秘密の関係?」
「うん」
「大丈夫だよ」マユミは鼻歌を歌いながら作業を続けた。
「そうかなあ……」ケンジは不安そうに呟いて籠からタオルを取り出し、ばたばたとはたいて物干し竿に掛けた。
「あ!」
マユミが小さく叫んだので、ケンジは思わず振り向いた。「どうしたんだ?」
「バンダナ……」
「バンダナ? バンダナって、おまえの弁当の包み?」ケンジはマユミに身体を向けた。
「うん。あの空き家に置いたままかも」
「俺を目隠ししたやつだろ?」
「うん。ほどいた後、そのまま倒れてたテーブルの脚に掛けたまま忘れちゃったみたい」
マユミは残念そうな顔をしてケンジに目を向けた。
「そうか……」
「あたしのお気に入りだったのにな」
洗濯物を丁度干し終わったケンジはベランダを歩き、マユミに近づいた。そして彼女の目の前までやってくると、にっこりと笑った。「俺が買ってやるよ」
「ほんとに?」
「ああ、半分俺のせいなんだし」
「やった! じゃあ一緒に買いに行こ。今度の日曜日」
「そうだな」
「やったやった! ケン兄とまたデートだ」
「でも、」ケンジはマユミの肩に乗せていた手を離した。「また一緒に出かけたりしたら、ますます母さんを不審がらせないかな」
「平気だよ。もう半分諦めてるんじゃない?」
「あんまり母さんを刺激するようなこと言うなよ、マユ」
「ケン兄、心配しすぎ」
マユミはケンジの首に腕を回し、唇を求めた。ケンジも目を閉じてその柔らかな感触を味わった。
――the End
2012,8,17初稿発表 2016,3,17改訂
※本作品の著作権はS.Simpsonにあります。無断での転載、転用、複製を固く禁止します。
※Copyright © Secret Simpson 2012-2016 all rights reserved
■廃墟タイムあとがき■
「Chocolate Time」シリーズの本編は、一本の時間軸に沿って語られています。そのスタートの第1作『Chocolate Time』は、主人公海棠ケンジとその双子の妹マユミが高校二年生の時、二人とも16歳で始まります。そして本編の最終話『Sweet Chocolate Time』で、二人は50歳を越えます。
外伝集『Hot Chocolate Time』は、その本編に描かれなかった小さなエピソード集という位置づけ。だから、それぞれのエピソードはいろんな時代が前後する完全に独立した話のアンソロジー。若い頃のケンジたちの話であったり、二世の龍の身に起こった出来事だったり……。
外伝第1集の第1話『廃墟タイム』は、初代主人公のケンジとマユミが高校三年生の9月のエピソード。二人が禁断の関係になってすでに一年以上が経っていますから、お互いのことはかなりよく知っています。どうすれば気持ちいいのか、どんなことをされたいのか、ということを、二人はすでにたくさん知っています。ただ、マユミはなぜかコンドームを使ったセックスを好まないので、ケンジは危険日には彼女に挿入することを我慢しています。だから、そういう時期には、違う方法でお互いを気持ちよくする術もいろいろ知っています。
二人は主に自宅でばかり愛し合う夜を過ごしているので、たまにはこうして違ったシチュエーションで気持ちよくなりたいとケンジは思ったわけです。若い頃ならではの、ちょっと刺激的なエッチタイムでした。
なお、この作品は2012年の夏に発表した後、稚拙なストーリーが自分で許せなくなり、2016年の春に大改訂を施しました。
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