Chocolate Time 雨の物語集 ~雨に濡れる不器用な男たちのラブストーリー~
『ずぶ濡れのキス』 (1.音楽室での出来事|2.明かされる秘め事|3.目覚めの朝|4.ずぶ濡れのキス|5.門出)
《4.ずぶ濡れのキス》
職員室のドアが乱暴に開けられた。中にいた教師たちは一斉に振り向いた。
「鷲尾先生!」将太は叫んだ。
教頭が転がるようにやって来て将太の前に立った。「何だ、志賀、今、授業中だろ」
「鷲尾先生は?」
将太は教頭の肩越しに、彩友美の机に目をやった。
「教室に戻れ」教頭は強い口調で言った。
将太はきびすを返して駆け出した。
「こらっ! 廊下を走るんじゃない!」
将太は息を切らして音楽室のドアに手を掛けた。ドアには鍵が掛かっていた。
彼は激しくドアをノックした。「先生! 鷲尾先生!」
音楽室の隣の美術室から年配の女教師が顔を覗かせた。「何の騒ぎ? あら、志賀君、授業は?」
将太は振り向き、その教師に向かって叫んだ。「わ、鷲尾先生はどこですか?」
「彼女は、もう帰られたみたいよ」
「えっ?!」
「具合が悪そうだったから……」
将太は教師に迫った。「彩友美先生の家、どこですかっ?」
「え? な、なに? いきなり」
「どこですか? 俺、見舞いに行きますっ!」
苦笑しながらその教師は言った。「感心ね。でも授業、」
「そんなこと、どうでもいい! 教えて下さい!」将太は大声で怒鳴った。
彼女はたじたじとなりながら口を開いた。「き、北中の裏手の『コーポ デイジー』よ。だけど志賀く……」
将太は美術教師がその言葉を全部発し終わる前に、再び身体を反転させて廊下を何度も躓きかけながら駆けていった。
冷たい雨がざあざあと降っていた。
将太は自転車に跨がり、正門を出て通りを鈴掛北中学校のある方角に向けてそれを走らせた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、彩友美先生……」
将太はそうつぶやき続けながらペダルを踏みしめた。
彼は中学校の周りの道路をぐるぐると回った。いつしか全身びしょ濡れになっていた。
将太はようやくその小さなアパートの看板を遠くに発見した。黄色い傘が二階に上がる階段の前で閉じられるのを見た将太は、全速力で自転車を飛ばし、その建物の前で急ブレーキを掛けた。
「先生! 彩友美先生っ!」
レインコートを脱いだ細身の女性が二階通路の手すりから身を乗り出して下を見た。
「しょ、将太君!」
将太は自転車をそこに放り出して、二階に通じる螺旋階段を二段飛ばしで駆け上がった。
「将太君!」彩友美は目を見開いて口を押さえた。
将太は彩友美の前に来るなり、床に手をついて、額をその手の甲に擦りつけた。「ごめんなさい! ごめんなさい、先生!」
灰色のコンクリートの床に将太の身体の形の水たまりができた。
「将太君! ずぶ濡れじゃない。入って、早く部屋に」
彩友美は将太の手を取って立たせた。
突然、彩友美の身体は将太に抱きすくめられた。そして、唇が将太の唇に押さえ込まれた。
「んんんっ!」彩友美は小さく呻いた。
将太はいつまでも口を離さなかった。それはキスと言うより、ただ固く閉じた唇を押し当てているだけだったが、彩友美の動悸は速くなり、身体もぐんぐんと熱を帯びていった。
将太の濡れ鼠のような前髪から滴る冷たい雫に混じって、温かいものも彩友美の頬にあたり幾筋も流れ落ちた。
◆
狭い玄関で制服のネクタイをほどいた将太は、そのまま玄関脇のバスルームに通された。
「そのままだと風邪ひくわ。そこにバスタオルがあるから、身体を拭いて」
彩友美は奥の部屋に入り、暖房のスイッチを入れた。そして将太に抱きすくめられて濡れた服を脱ぎ、クリーム色のスウェットに着替えた。
「先生ー……」
バスルームから情けない将太の声がした。彩友美は慌ててドアを開けた。
バスタオルを腰に巻いただけの将太が照れたように顔を赤らめて立っていた。
「着るものがない……」
彩友美はふっと笑って、将太の手を引いた。「部屋にいらっしゃい。暖房で暖かくしてるから。でも、しばらくそのままでいい? 服は乾燥機に入れて乾かすから」
将太の手には、ケネスから渡された小箱が握りしめられていた。
彩友美は将太が着ていた服を乾燥機に入れ、スイッチを入れた。彼女が部屋に戻ると、将太は部屋の隅の床に正座をして縮こまっていた。
「寒くない?」
「だ、大丈夫。でも、先生こそ具合が悪いんじゃ……」
「雨が降ると時々頭痛がね。でも大丈夫よ。将太君が来てくれたから、すっかり良くなったみたい」
「で、でも、学校休むほどなんでしょ?」
「サボり、かな。将太君といっしょ」彩友美はウィンクをしてみせた。「待ってて、今コーヒー淹れてあげるから」
彩友美はキッチンで湯を湧かし始めた。
部屋に戻った彩友美は将太の前に正座をして相対した。
将太はまた彼女に向かって土下座をした。「ごめんなさい、先生、俺を許して……」
彩友美は静かに言った。「嬉しい、将太君……」
将太は頭を上げることなく言った。「俺、やっと気づいた。二つのこと」
「やっと?」
将太は顔を上げた。
「俺の想いと、先生の……気持ち」
「待ってたよ、将太君」彩友美は穏やかに微笑んだ。「本当にやっと気づいてくれたね」
火に掛けられていたやかんがにわかに騒ぎ始めた。
彩友美は立ち上がり、キッチンに入った。そしてコーヒーをドリップして、二つのカップに注ぎ、部屋に戻った。
小さな丸いテーブルにコーヒーカップを載せた彩友美は、将太に言った。「こっちにおいでよ」
将太はその言葉に素直に従った。
将太はカップに手を掛けかけて、動きを止めた。
「先生、」
「何?」
「俺、せ、先生のことが好き。本当は……すっごく好き……」そして赤くなってうつむいた。
「知ってたよ」
「せ、先生は俺のこと……」
「大好きになってた。知らないうちに」
将太が顔を上げた時、彩友美はにこにこ笑っていた。今までに将太が見たことのない柔らかな笑顔だった。
彩友美は自分をひどく申し訳なさそうに見つめている将太の瞳が美しく澄んで、少し潤んでいるのを見た時、急に胸に熱いものがこみ上げてきて、思わず何度も瞬きをした。
「で、でも、あんなに乱暴しちゃって……」
「貴男の気持ちは乱暴じゃなかったから」
「え?」
「やってることと思ってることが違ってた。そうでしょ?」
「そう……かな」
「嬉しかったよ。私、貴男に慕われてることが。身体は苦しかったけどね」
「ごめんなさい……」
「でなきゃ、毎週貴男につき合ったりしなかった」
「もう乱暴はしない。しないから、あの……」
彩友美はふっと笑った。「しないから、なに?」
将太は手を恐る恐る開いて、握りしめていた小箱を彩友美に見せた。
「将太君たら……」彩友美は赤くなって将太の顔を見た。
「俺、先生を大切にする。気持ちも身体も。だから……」
彩友美は、将太に顔を近づけ、何も言わずそっと肩に手を置いて、唇を重ね合わせた。
彩友美はブラとショーツ姿で自分のベッドに横になった。将太はベッドの横に立ちすくんだままもじもじしていた。
彩友美は思わず噴き出した。「まるで別人みたい。将太君」
「え? だ、だって……」
「毎週私を裸にして乱暴してたじゃない。あの勢いはどうしたの?」
「だから、もうしませんってば」
「今になって、どうしていいかわからないってこと?」
将太はこくんと頷いた。
「とにかく、おいでよ。私の横に」彩友美は腕を伸ばして将太を誘った。
将太は恐る恐るベッドに腰掛け、そのまま彩友美と並んで身体を横たえた。
「もしかして、夏の音楽室が、貴男の女性初体験だったの?」
「そ、そうです……」
「なるほどね。だから入れることもできなかったんだね」彩友美はふふっと笑った。「私の身体に出して、気持ち良かった?」
「なんか、もう……覚えてない……です」
「そうかー。」
「せ、先生はイヤだったでしょ? あの時」
「うん。どうしてこんなことされなきゃならないの、って運命を呪った。まさか生徒からあんな恥ずかしい目に遭わされるなんて思ってなかったからね」
「ごめんなさいっ!」将太は泣きそうな顔でぎゅっと目を閉じた。
「いつも教室ではおとなしくて、優しい目をしてる将太君が、音楽室では表情をなくして野獣みたいになってたから、初めは怖くてしかたなかった」
「……本当に、ごめんなさい」
「でも、きっと何かあるんだろうな、って先生思ったよ。」
「……うん」
彩友美は将太の頭を撫でた。「教えてあげる。本当のやり方。将太君」
「はい」将太は上目遣いに彩友美の目を見た。
「将太君の瞳って、澄んでてきれい。宝石みたい」
「そ、そう……」
「AVとか、見たことあるんでしょ?」
「……ある」
「それで覚えたの? ストッキング破ったり拘束したりするプレイ」
「……」将太は、彩友美から目を思わずそらした。
「どうしたの?」
「……何でもない」
「ストッキング、穿いてた方がいい? 今」
将太はじっと彩友美の目を見つめた。「もう、いい。大丈夫だよ、先生」
「そう」彩友美はにっこり笑った。
「大丈夫……もう」将太は独り言のように言った。
「私ね、」
「うん」
「私、将太君にはもっと優しく抱いて欲しい、ってずっと思ってた。だから昨日、あなたにブラ外される時、背中に腕回されて、私とっても気持ちよくて幸せだったのよ」
「あの……、教えて、先生。他にも先生が気持ち良くなる方法」
「将太君って、やっぱり優しい子だったんだね。思った通り」
彩友美は将太の額を人差し指でつついた。
「先生は経験あるんでしょ? 今まで……」将太はそこまで言って、はっとして身を起こした。「も、もしかして、先生には彼氏が?!」
彩友美は微笑みながら将太の頬を手で包み、再び寝かせた。「心配しないで。将太君。去年からフリー。でも昨日から彼氏持ち」
「えっ?! じゃ、じゃあ、俺とこんなことしちゃ」将太は大慌てした。
「なんで? その彼氏、今目の前にいるのよ」
将太がその言葉に反応する前に彩友美は彼の身体を押さえつけて、その唇を自らの口で塞いだ。
「んんんっ!」将太は目を白黒させて呻いた。
一度口を離した彩友美は、将太の目を見つめて囁いた。「焦らなくていいから、ゆっくり、たっぷり愛して」
再び二人は唇を重ね直した。将太は唇を突き出したまま硬くなっていた。彩友美はそっと彼の唇を舐めた。そしてその舌を彼の口の中に挿入した。
「んっ、ん……」将太はどうしていいか解らず、呻くばかりだった。
彩友美は手のひらで将太の胸をやさしく撫でた。将太の唇はしだいに柔らかくなっていった。そして震えながら彼も彩友美の唇を、まるで子犬のようにぺろぺろと小さく舐め始めた。
「あ、んん……」彩友美はうっとりしたように小さく声を出した。
「将太君、抱いて」彩友美は仰向けになり、将太を誘った。
将太は彩友美に覆い被さり、恐る恐る身体を押し付けながら腕を背中に回した。
「ああ……」昨日の音楽室での時と同じように彩友美は甘いため息をついた。
しばらくとまどった後、将太はようやくブラのホックを外し、彩友美の腕からそれを抜いた。
「吸ったり舐めたりして、将太君」
「う、うん」
将太はその白い膨らみを両手で撫でながら、口をそっと乳首に近づけた。そして口を開いてその硬くなった粒を咥え込んだ。
「ああん……」彩友美の身体がビクンと反応した。
将太は左右、交互にその行為を続けた。四つん這いで彩友美の上に覆い被さっていた将太の、腰に巻いたバスタオルがほどけて彩友美の身体にばさっと落ちた。
「あっ!」将太は慌てた。
すでの彼のペニスは太く、硬くなってびくびくと脈打っていた。
「相変わらずすごいね。将太君」
全裸になった将太は、顔を真っ赤にして股間を両手で隠していた。
「ふふ……。横になって」
彩友美は彼の身体を仰向けに寝かせると、秘部に当てられていた両手をそっとどけさせた。そして髪を掻き上げながら将太のそれを大きく口を開けて咥え込んだ。
「あっ、あっ! せ、先生!」将太は慌てた。
「ううっ!」びゅるびゅるっ!
出し抜けに将太が射精を始めた。熱い液が激しく彩友美の口の中に迸り出た。
彩友美は口の中に出されたものを、枕元に置かれたティッシュを数枚手にとって出した後、将太のペニスの先端に残っていた液を舐め取り、新しいティッシュで自分の口元を拭った。
「せ、先生っ!」将太はますます赤くなって、おろおろしながら彩友美を見上げた。
「ごめんね、将太君。あっという間だったね」彩友美は将太の胸に手を置いて言った。
「そ、そんなの舐めていいの?」将太は、まだはあはあと大きく肩を上下させていた。
「好きな人のものだもん。大丈夫よ」
「ごめんなさい」将太は申し訳なさそうに瞬きをした。
「でも、やっぱりすごいね、高校生って」彩友美が将太のペニスの根元を軽く撫でながら言った。「まだ硬くて大きいままだよ」
「彩友美先生ー……」将太は情けない声を上げた。
「よし、じゃあゴムつけようか」
彩友美は将太が持って来ていたコンドームをテーブルから一つ手に取った。
「これ、どうしたの? 自分で買ったの?」
「いや、あ、あの……、ケ、ケニーおっちゃんに……」
「ケニーおっちゃん?」
「そ、そう。『シンチョコ』の」
「あの店のマスター、ケニーさんって言うのね。仲良しなの? そのケニーさんと」
「うん。俺がちっちゃい頃から、いろいろ心配してくれる」
「そうなんだね」彩友美は嬉しそうに笑った。そして手に持ったそのプラスチックの包みを見ながら続けた。「こんな心配までして下さるんだね。すっごくいい人じゃない」
「うん。ほんとにいい人なんだ」
「だから健太郎君や真雪ちゃんとも仲良しなんだね」
「あいつらと修平だけかも。俺と本気でつき合ってくれてんの」
「そう……。大切な友達なんだね」
将太は大きく一つうなずいた。
「おっちゃんに『先生の心も身体も大切にしてやれ』って怒られた」
「そうなの」彩友美は微笑んだ。そして手の避妊具を将太に手渡した。
「こっちが表。先をつまんでこう被せるのよ」彩友美は将太の手を取り、その避妊具の付け方を教えた。「そうそう。そのまま下に広げていくの。上手だよ、なかなか」
コンドームが被せられた将太のペニスは、衰え知らずの脈動を続けていた。
「あの、先生」
「何?」
「先生のここも、舐めた方がいい?」
「無理しなくていいわよ。抵抗があるならしなくても」
「舐めた方が気持ちいいんでしょ?」
「そりゃあね」
将太は意を決したように彩友美の唯一身に着けていたショーツを足から抜いた。そしてその一糸纏わぬ白い肢体を見下ろしてごくりと唾を飲み込んだ。
「先生の身体、きれい……」
「何だか、ちょっと恥ずかしい。変だね、貴男の前で裸になるの、初めてじゃないのに……」
「俺も、今は何も着てないから」将太は照れたように笑って口を彼女の秘部に押し当てた。
「ああっ!」彩友美は身体を大きく仰け反らせた。「いいっ! 気持ちいいよ、将太君!」
将太は一生懸命になって彩友美の股間を舐め回した、やみくもに舌を動かし、陰毛や足の付け根までその唾液でぬるぬるにしていった。
「将太君、もういいよ。ありがとう。気持ち良かった」
将太は顔を上げてにっこり笑った。口の周りは唾液でべとべとになっていた。
「繋がろうよ。一つになろう、将太君」
将太は顔を上気させて自分のペニスを手で握った。
しかし、そのまま動きを止めた。
彩友美は頭をもたげた。「どうしたの?」
「先生、お、俺……」将太は唇を噛みしめ、じっと彩友美を見つめていた。
「将太君、不安なの?」
「不安、って言うか……」
「入ってきていいのよ」
「だ、だけど……」
将太はわずかに身体を震わせていた。
「俺、先生に痛い思いをさせたくないよ……」
彩友美は優しく言った。「将太君って、ほんとに優しい子だね」
「ほんとは、俺のこれ、入れて欲しくないでしょ? いやなんでしょ?」
「なんでそんなこと言うの? 平気よ」
「だ、だって……」
彩友美は身体を起こし、シーツの上に正座したままかしこまっている将太の身体を抱いた。
「学校でのことを思い出してるのね。大丈夫。あの時の将太君とは違うよ。今は」
「……」
「私、今の将太君と一つになりたくて我慢できないぐらいなんだから」
「……」
「だから、大丈夫。私、貴男に気持ちよくなって欲しいし、私も絶対気持ちよくなれる」
「そ、そうかな……」
「心配しないで。ね。きて、将太君」
「う、うん……」
彩友美は再び横になり、両手を将太に伸ばした。将太は開かれた彩友美の両脚に手を掛けた。そして、自分の持ち物をゆっくりと彩友美の秘部に押し当てた。
しかし、将太のそれはなかなか彩友美の中に入っていかなかった。
「あ、あれ……」
彩友美は優しく将太のものを握った。
「すごい! 将太君の、熱くてすっごく硬くなってる」
そして彼女は、それに被せられていた薄いゴムをおもむろに巻き上げて外した。
「えっ?!」将太は小さく叫んだ。「先生、だ、だめだよ、妊娠しちゃうよ」
「大丈夫なんだよ、今は」彩友美は少し照れたようにそう言うと、再び将太のペニスに手を当てた。
「せ、先生、な、何だか恥ずかしいよ……」
「心配しないで。この方がずっと気持ちいいから」
「で、でも……」
「私、将太君と直に繋がりたい。だから……ね」
彩友美は自分の谷間にそれを導いた。
「そのまま中に……。将太君」
将太はごくりと唾を飲み込んだ。
「大丈夫。遠慮しないで」
将太はびくびくしながら、腰を少しずつ動かした。彩友美の中のぬるぬるした感触に、将太のペニスはますます熱く脈動し始めた。
彩友美の谷間の入り口を押し開き、将太のものはすっかり彩友美の中に入り込んだ。
「あ、ああ……」将太はうっとりしたように小さく喘いだ。
「気持ちいい?」
「す、すごい、先生の中、とっても温かくて、あ、ああ……」
将太の身体はまたかすかに震え始めた。そして、彩友美の両脇に立てた腕を突っ張ったまま、顔をうつむけて、息を荒くしていた。
彩友美の首筋にぽたぽたと温かい雫がいくつも落ちた。
「え? しょ、将太君どうしたの?」
「先生、先生、俺……」
将太は肘を折り、彩友美の胸に頬を擦りつけた。彩友美は腕を将太の背中に回して、ぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、先生……」将太は小さく言って彩友美の身体を抱き返した。そしてしばらくの間嗚咽をこらえて身体を震わせていた。
彩友美は将太の背中からそっと腕を離し、彼の両頬を包み込んで自分に向けた。
「将太君、私があなたをずっと温めてあげる。心も身体も……」
そしてそっと将太の唇を舐め、吸った。
将太は意を決したように腰を動かし始めた。
彩友美は喘ぎながら言った。「気持ちいいよ、将太君、もっと動いて。いっぱい気持ちよくなろう。二人で」
彩友美はまた彼の口を自分の唇に押し付けながら、激しく交差させて舌を絡ませ合った。
しだいに将太の動きが速く、激しくなっていく。
彩友美も同じように身体を揺り動かした。
ベッドがぎしぎしと軋む。
「んんっ! んんんんっ!」
唇を重ね合わせたまま、二人の身体がびくびくっと大きく脈動した。そして将太の腰の動きが止まった。
「んんんんーっ!」将太が苦しそうな顔で呻く。
そして将太の腰が何度も大きく跳ね上がった。その度に、彼の身体の中で渦巻いていた激しい想いの奔流が、彩友美の身体の奥に迸り出て、彼女の心を熱く満たしていった。
彩友美は汗だくになった身体をぶるぶると震わせた。
二人はまた大きく口を交差させ、お互いの熱い息を吸い込みながら、収まりきれない鼓動を共有させた。
口を離した将太は叫んだ。「せ、先生っ!」
将太はすぐにまた腰を大きく動かし始めた。「気持ちいい! 先生の中、すっごく、あ、ああああ……」
彩友美も喘ぎながら言った。「いいよ、将太君、もう一度……」
何かに取り憑かれたように、将太は全身を大きく揺り動かし、彩友美との熱い繋がりを確かめた。彩友美も彼の身体を包み込むように両腕でしっかり抱きしめ、同じリズムで全身を揺すった。
「将太君、私も、気持ちいい、あ、あああ! もっと、もっと動いてっ!」
「先生っ! んっ、んっ、んんんっ!」
二人が激しく動くたびに、繋がった場所から将太と彩友美の身体の中から溢れた雫が一緒になって溢れ出し、シーツに飛び散った。
「イ、イくっ! また出ちゃうっ! 先生! 彩友美先生っ!」
「将太君!」
彩友美と将太の動きが止まった。そして将太の「ぐっ!」という呻き声と共に、二人の身体は同時にベッドの上で大きく脈動し続けた。
「彩友美っ! 彩友美っ!」
「将太君っ!」
二人は一つになり、お互いの口を覆ったまま、いつまでも熱く固く抱き合っていた。
◆
「先生……」
将太は彩友美の胸に顔を埋めていた。
「将太君、ありがとう。とっても幸せな気分だった」
「ほんとに?」
「やっと大好きな将太君といっしょに気持ち良くなれた」
「ほんとに気持ちよかった? 嘘じゃない?」
彩友美はくすっと笑った。「将太君って、意外に心配性なのね」
「俺も、学校で先生に乱暴してた時は、こんなに気持ち良くなることなかった」
「そう。良かった……」
「先生って……本当に温かいよ、とっても」将太は彩友美の胸に顔を埋めた。
彩友美は、愛しそうに将太の少しごわついた髪を撫で、それから将太の背中に腕を回してゆっくりと力を込めた。
「あ、あの……、先生」将太は顔を上げて不安そうな目をした。
「どうしたの?」
「ほ、本当に大丈夫だったの?」
「何が?」
「ゴ、ゴム使わなかったけど……に、妊娠しちゃったり、しないの?」
「今は安全期。何となくわかる、もうすぐ生理が来るわ」彩友美は微笑みながら将太の頬を撫でた。「でも、絶対安全、っていうわけじゃないけどね」
「俺、」将太は顔を赤くしながら決心したように彩友美の目を見つめ、唇を噛みしめた。「もし、先生が妊娠したら、責任とるから」
「将太君?」
「俺、先生にうちに来て欲しい、って思ってる」
「え?」
「いっしょに暮らして。俺と」
将太はまた彩友美の胸に顔を埋め、頬をその温かく柔らかい肌に擦りつけた。
「将太君……」
「だめ?」
彩友美は将太を抱いた腕に力を込めた。「妊娠してなくても、行っていい? 貴男のところに……」
将太は思わず顔を上げた。「え?」
「だめ?」彩友美は将太の口まねをした。
将太は笑顔を弾けさせた。「も、もちろん。い、いいの? 先生」
「どっちがいい? 将太君は」
「え? どっちって?」
「貴男のお母さんとして来て欲しい? それとも、」
「奥さんとしてだよ、当然」
「そうか……そうだよね」
「決まってるじゃん」
彩友美は将太の頭をそっと撫でながらぽつりと言った。
「私、さっきずぶ濡れの貴男にいきなりキスされて、決心したの」
「決心……した?」
「それが貴男との初めてのキス……。すごく情熱的で素敵だった……」彩友美は目を閉じた。
「大切にする。俺、先生を……」
「嬉しい……」
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