Chocolate Time 外伝 Hot Chocolate Time 3 (第3集) 第1作
鍵盤に乗せたラブレター
1.ときめき-二人の出会い 2.男女交際 3.本心 4.重なり 5.気持ちと身体 6.思い込み 7.想いの詰め合わせ
《6.思い込み》
翌週の月曜日、部活帰りの勇輔は、いつものように一緒に学校を出た冬樹と交差点で別れた後、一人で『シンチョコ』を訪ねた。
勇輔はまっすぐアトリエに向かい、ガラス越しに中でチョコクッキーを焼いているケネスに目配せをした。
その何かに祈るような勇輔の目に気づいたケネスは、顔を向けて言った。「テーブルで待っとり、すぐ行くよってにな」
勇輔はこくんと頷くと、店内の喫茶スペースに足を向けた。
「ごめん、おっちゃん仕事中に」
「ほんまやで。せめてアポよこしてからにしてくれへんか?」
「ほんとにごめん。手が離せないんだったら、出直すよ」
ケネスはふっと笑った。「殊勝やないか。ええで。わいもおまえに話したいことあるし」
勇輔は小さく首をかしげた。「俺に?」
ケネスは勇輔と向かい合って椅子に腰掛けた。
「まずはおまえの話から聞いたるわ。なんや、どないした」
「あ、あのさ、」勇輔はもじもじしながら赤くなってうつむいた。「ア、ア……、」
「?」
「ア、ア……」
「おまえは『千と○尋の神隠し』のカオナシか」
勇輔は顔を上げ、意を決して言った。「ア、アナルセックスのほ、方法を、教えてくれない?」
「やっぱりそう来たか……」ケネスはため息をついた。
「え?」
「おまえがきっとそういう相談を持ちかけるんやないか、って思ってたで」
「そ、そうなの?」
「ええか、よう聞くんやで、勇輔」
勇輔はこくんと頷いた。
「はっきり言うで、そんなん、止めとき」
「え?」
「アナルセックスなんて止めとき、っちゅうたんや」
「……」
「先週の土曜日、冬樹がおまえんちに泊まった時に挑戦した。そやけどできへんかった。ちゅうことなんやな?」
「な、なんでわかる?」勇輔はケネスの顔を見た。
「話の流れとおまえらの行動でわかる、っちゅうもんや」
勇輔はうなだれ、背を丸めた。「そうなんだね……」
「まあ、おまえもネットやビデオでぎょうさんゲイビデオ見たんやろけどな、あれは虚構や。見るもんを興奮させるためだけのな。本人たちはみんながみんなあれで満たされとるわけやないねんで」
「そう……なの?」
「まあ男っちゅうもんは射精すれば気持ちええ動物やから、とりあえず最後に射精して気持ちよくなっとるやろけど、初心者がアナルで気持ちよくなることなんか、ほとんどあれへん。そもそもおまえらには似合わん。止めとき」
「そうなんだ……」
勇輔はケネスと目を合わせることができないでいた。
ケネスは席を立ち、レジ横のデキャンタから二つのカップにコーヒーを注いでテーブルに戻った。
「ほれ、おまえのために甘甘のクリームもぎょうさん持ってきてやったで」
「え? クリーム?」勇輔は顔を上げて小さく言った。
先にカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲んだケネスは静かに話し始めた。
「エロビデオの演出みたいなんはな、ほんまに想い合っとる二人がやることやない」
勇輔はテーブルのカップを見つめながら言った。「お、俺、冬樹がやりたいことをさせてやりたいんだ」
「冬樹がやりたいこと?」
「あいつが俺に突っ込んで気持ちよくなって欲しくて……」
ケネスは静かに言った。
「アヌスは元々そんなことする場所やない。清潔にしとかなあかんし、ほぐして長いこと馴らしとかなあかんし、ローション使こたりしてめっちゃめんどくさいんやで」
「そう……だけど」
「へたしたら、相手を傷つけてしまうかも知れへん。突っ込む方も突っ込まれる方も。そないなリスク犯してまでやる意味ないやろ?」
勇輔は黙っていた。
「勇輔、おまえはそもそもセックスするために冬樹とつき合うとるんか?」
「……」
ケネスはふっとため息をついた。「冬樹、しょげてたで」
「えっ?」
「『僕が先輩に乱暴したのがいけなかったんだ』っちゅうて」
「冬樹、おっちゃんに話したの?」
「先週学校のプールで、おまえら初めて抱きおうたんやって?」
「う、うん」
「そん時も、冬樹、おまえを押さえつけてイってしもたらしな」
「激しいんだ、冬樹。そんなのが……好きらしい」
勇輔はまたうつむいた。
ケネスは勇輔のカップの横に置いたクリームの小さな容器を持ち上げた。
「おまえ、実はコーヒーにはクリーム入れて飲んだりせえへんのやろ?」
「え?」
「甘いモンが好きやから、っちゅうて、コーヒーも甘くして飲む、っちゅうわけやないんやろ?」
「おっちゃん、知ってて持ってきたの? クリーム」
「それと同じや」
「え?」
「おまえが甘いモン好きでもコーヒーはブラックしか飲まへんのと同じ。冬樹はワイルドなやり方が好みでも、おまえに突っ込んで気持ちようなろう、なんて思てへん、ちゅうこっちゃ」
「そうなのかな……」
「おまえ、冬樹に訊いてみたんか? そんな行為が好きか、って」
勇輔は力なく首を横に振った。
「あのな、そもそもセックスっちゅう行為は、好き合うた二人の最高、最大の癒やし合いや。二人共気持ちようなって、満たされな意味がない。どっちか片方だけの独りよがりやったら、それこそ一人エッチと変われへんねんで」
「うん。わかる」勇輔は小さく頷いた。
「エロビデオなんかのメディアに振り回されんと、自分らのスタイルを見つけていかなあかんねん。時間掛けてな」
ケネスはコーヒーをすすった。勇輔はケネスの顔を見て小さくため息をついた。
勇輔はテーブルを見つめたままぽつりと言った。「思い出したよ、俺」
ケネスはカップから口を離した。「何をや?」
「ケンタ先輩に去年、怒られたこと」
「怒られた? 健太郎にか?」
「うん。『思い込みで失敗すんな』って。部活ン時」
「へえ」
「これも思い込み……ってやつだよね」
「そやな」
「忘れかけてた……」勇輔はうなだれた。
ケネスはまた自分のカップを持ち上げた。
「好きおうて、ずっと長く付き合うためには、お互いをよく知り合うんが先や。何も言わんとわかり合えるようになるのん、めっちゃ時間がかかるもんや。まずはもっとぎょうさん話さな」
「……」
「焦ったらあかん。な、勇輔」
勇輔はこくんと頷いた。
「その上で、おまえらにしかできんことも少しずつ判ってくる。おまえと冬樹が、一番快適で燃える行為っちゅうもんも、そのうち見つかる」ケネスはにっこりと笑った。「AVなんぞ手本にせんでもな」
ケネスは残ったコーヒーを飲み干した。
「そうだね」勇輔は小さな声で言った。
「ま、とりあえずしばらくはおまえらの相談相手になったらなあかんな。なんかあったら相談し」そして悪戯っぽくウィンクをした。「今度はちゃんとアポよこしてからな」
勇輔は顔を上げてようやく安心したように微笑んだ。「ありがとう、おっちゃん」
――次の土曜日。
先週と同じように居酒屋『らっきょう』で食事をした後、勇輔と冬樹は『酒商あけち』の二階、勇輔の部屋にいた。
勇輔は冬樹の眼鏡を外し、ベッド脇のサイドテーブルに置いた。
冬樹はベッドの上で正座したまま、その澄んだ目でじっと勇輔の顔を見つめた。
「な、なんだよ、どうした? 冬樹」
「言います」
「は?」
「僕は決心しました。先輩を名前で呼ばせて下さい」
勇輔は呆れ顔で返した。「ばあか、なに深刻な顔してんのかって思ったら……。いいよ。無理すんな。こないだは俺が悪かった。お前の気持ちももっと尊重しなきゃいけなかったな」
冬樹はふるふると首を横に振った。「僕も、一歩前進しなきゃいけないから……」
「大げさだぞ、冬樹」
「だって!」冬樹は大声を出した。勇輔はびっくりして目を見開いた。
「キスしてほしいんだもん……」
涙ぐんだ目で冬樹はじっと自分を見つめている。
勇輔は胸に締め付けられるような痛みを感じ、思わず冬樹を抱きしめた。「冬樹っ!」
そして彼は冬樹の髪を何度も撫でながら震える声で言った。「ご、ごめんな、冬樹、おまえをまた追い詰めちまった。悪かった、俺が悪かった」
勇輔は冬樹の肩に両手を置き直して、もう一度その目を見つめた。
そして、ゆっくりと口を彼のピンク色の柔らかな唇に重ね合わせた。
勇輔が口を離した時、冬樹は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。「勇輔……」
勇輔はにっこり笑ってもう一度冬樹の身体を抱きしめた。そして冬樹の耳元で囁いた。「もう泣くな」
二人はベッドで全裸になっていた。
「ねえねえ、せんぱ……じゃなかった勇輔」冬樹は恥じらいながら言った。
勇輔はくすっと笑って横目で冬樹を見た。「なんだ?」
「咥えていい?」
「咥える?」
「うん。勇輔のこれ」
冬樹は勇輔の腰に手を回し、もう一方の手の指先で、その大きく反り返ったものを軽くつついた。
勇輔はごくりと唾を飲み込んだ。「く、咥えるのか? こ、これを?」
「大丈夫、歯を立てないように気をつけるから」
冬樹はそう言って、勇輔を下にして四つん這いになり、そっと舌を勇輔のペニスに這わせ始めた。
「ちょ、ちょっ!」勇輔は慌てた。
冬樹はその行為を続けた。
得も言われぬ快感が身体を駆け抜け、勇輔は思わず仰け反った。
冬樹は慎重にそれを咥え込み、ゆっくりと口を動かしながら唇で包み込んだり、咥えたまま舌で舐め回したりした。
「うああ……」勇輔はため息交じりに甘い喘ぎ声を出した。
冬樹は口を離した。「気持ちいい? 勇輔」
「ちょ、ちょっと待て、冬樹」勇輔は慌てたように言って頭を枕から持ち上げた。
冬樹は上目遣いで勇輔を見た。
「お、おまえ、それ、イヤじゃないのか?」
「どういうこと?」
「む、無理してやってんじゃねえのか? だ、だっておまえ初めてだろ、そんなことすんの」
冬樹は身体を起こした。「初めてだけど……。なんでいきなりそんなこと訊くのさ」
「イヤなら無理してやんなくても……」
冬樹は口角を少し上げてゆっくりと言った。「また臆病者の勇輔になってる」
「お、俺はおまえもちゃんと快適で気持ちよくなってもらってだな、」
冬樹は柔らかく笑った。「快適だし、気持ちいいよ、当然。だって、大好きな勇輔の身体の一部が僕の口の中に入ってくる、っていうことだもん」
「そ、そういうことなのか?」
「それに、これで勇輔が気持ちよくなってるわけでしょ? 僕だってそれはうれしいよ」
「冬樹ー」勇輔は泣きそうな顔になっていた。
「勇輔はイヤなの? 舐められたり咥えられたりするの」
「き、気持ちいい……」勇輔は顔を赤らめた。「すんげー気持ちいい」
冬樹はふっと笑った。「じゃあ続けさせてよ」
「う、うん」
冬樹は口を大きく開き、勇輔の太く硬くなったものを再び喉の奥まで咥え込んだ。
「うあああーっ! ふ、冬樹、冬樹っ!」
にわかに勇輔は身体をよじらせ喘ぎ始めた。
ぐぶっ、ごふっ、という音を立てながら、冬樹はその動きを大きくしていった。
勇輔の身体の奥で、熱い激流が渦巻き始めた。
「ふ、冬樹っ! も、もうイく! 俺、出る、出るっ! 口離せっ!」
全身汗だくになった勇輔は叫んだ。
冬樹は口を離さなかった。そのまま勇輔のペニスを深く喉の奥まで咥え込んだまま、動きを止めた。
喉元でぐううっ! という音を立て、勇輔は身体をビクビクと大きく震わせた。
勇輔の熱い想いが何度も冬樹の口の中に弾け出した。
「うわああーっ! 冬樹、冬樹っ! 出てる、お、おまえの口に出てるっ! あ、ああああーっ!」勇輔は慌てて上半身を起こし、ひどくうろたえた。
冬樹はじっと目を閉じたまま、口の中に広がる勇輔の体温を夢見心地で味わい続けた。彼の唇の隙間から、とろとろと白い液が大量に垂れ落ち、勇輔のヘアを濡らした。
「冬樹っ!」
勇輔は冬樹の頭を抱えて無理矢理自分のペニスから口を離させ、焦って枕元に置いていたティッシュを何枚も手に取り、彼の口を拭った。「冬樹、む、無理すんなって言っただろ!」
「だから大丈夫だって」冬樹はにこにこ笑っていた。
「まずいだろ、こんなの……」勇輔は申し訳なさそうな顔をして、新たに掴み出したティッシュで冬樹の顎に垂れた自分の精液をごしごし拭き取った。
「あったかくて気持ちいいよ。それに、ちょっとノンアル・ビールに似た味がする」
「な、何言ってんだ」勇輔は赤くなった。
「だから悪くない」
「悪くないって……」勇輔は小さくため息をついて眉尻を下げた。
「勇輔は気持ちよくなかった?」
「そ、そりゃあ、射精したからには気持ちよかったに決まってるだろ。でもよ、」
「でも?」
勇輔は小さな声で言った。「俺、イく時はおまえにしがみついてた方がいい」
「え?」冬樹は勇輔の目を見つめた。
「俺だけ、しかもおまえの口に出すだけなら、一人でやるのとあんまり変わんねえよ」
しばらく黙ったまま冬樹は勇輔の顔を見つめていた。それから、少し悲しそうな顔をして小さな声で言った。
「確かに……」
冬樹はうつむいた。
勇輔は慌てて言った。「いや、お、おまえのフェラはめっちゃ気持ちよかったぞ。で、でもな、やっぱそこでフィニッシュにしたくねえ……」
またしばらく黙ったまま何か考える風にしていた冬樹は、くいっと顔を上げて微笑んだ。「なるほど……」
そして冬樹はベッドの上に正座をし直して、両手を膝に置いた。「わかる。わかるよ、勇輔」
「冬樹……」
「勇輔の言いたいこと、わかるよ」
「わ、わかるだろ?」
「うん。オトコって、出せば終わりだから、その瞬間にこだわりたい、っていうことなんでしょ?」
「そ、そうだ」
「わかるわかる。考えてみれば、僕もそう。自分一人でやる時って、ベッドで枕や毛布にしがみついてるから、きっと僕もフィニッシュは勇輔と抱き合っていたい、って思う」
「そうだろ?」
「うん。ごめんね、出させちゃって」冬樹は申し訳なさそうな顔をした。「イく前にやめるべきだったね」
「い、いや、身体は満たされたからおまえが謝ることはねえけど……」
「なんか、エッチな小説やビデオによく出てくるシチュエーションだから、ついやってみたくなっちゃって……」
勇輔はにっこり笑って冬樹の頬を両手で包み込んだ。「俺たちのスタイルを見つけようぜ。いろいろやってみてよ」
「そうだね」冬樹もにっこり笑った。
勇輔と冬樹はベッドに並んで横になっていた。仰向けの勇輔に寄り添うように冬樹は横向きでその白い身体を密着させていた。
勇輔が顔を冬樹に向けた。「冬樹は一人で、枕にしがみついてやる時、そのまま布団の上に出しちまうのか?」
冬樹は恥ずかしげに言った。「い、いつもナイロン袋被せて、ゴムで止めてる」
「おお! なるほどな」勇輔は大声を出した。「ナイロン袋なら店にたっぷりあらあ、俺も今度からそうしよう」
「だめ」冬樹は勇輔を睨んだ。
「えっ?」
「一人でやっちゃだめ。その時は僕も一緒にいたい」そしてその小柄な少年は微笑んだ。
「そ、そうだったな」あはは、と笑って勇輔は頭を掻いた。
勇輔が冬樹に身体を向けた。
「じゃあよ、こないだプールでやった時みてえに、おまえと俺と抱き合って腹に出すか?」
「え?」
「おまえまだ治まってねえじゃねえかよ」
勇輔は冬樹のペニスを指で弾いた。
「痛っ! 勇輔、乱暴」
「おまえのこれ、身体に似合わず逞しいな。太いし、長いし……」
「そ、そうかな……」
「イく時は抱き合うことにしてだ、まずは俺もおまえの咥えたい。いいか?」
冬樹は赤くなって頷いた。「……うん。いいよ」
「初めてで、うまくできるかわかんねえけど。痛かったら言うんだぞ」
冬樹はコクンとまた頷いた。
勇輔は冬樹の腰に両手を回して抱きしめながら、口でゆっくりとその大きくなったものを咥え、舌や唇で刺激した。
冬樹は慌てたように頭をもたげた。「ゆ、勇輔、止めて、って言ったら止めてよ」
先端を舐めていた勇輔は低い声で言った。「わかってるよ」
「カウパーってちょっとしょっぱいんだな……」
冬樹のペニスをフェラチオしているうちに、勇輔の中心にあるものも次第に大きさと硬さを復活させていった。
「勇輔、勇輔っ! 待って! やめて!」冬樹が叫んだ。
勇輔はとっさに口を離した。
「ど、どうかしたか? 冬樹。イきそうだったか?」
少し息を荒くしながら、冬樹は身体を起こし、勇輔を見つめた。勇輔は口元を手で拭った。「それとも、痛かったとか……」
冬樹は首を横に振った。「ううん。そうじゃない。そうじゃなくて僕、なんか、とっても恥ずかしいよ。勇輔に咥えられるの、なんでか、とっても……」
「いいじゃねえか、さっきは俺がおまえに気持ちよくしてもらったんだから。今度は俺の番、ってことで」
勇輔は冬樹を押し倒し、腰に手を回して再び彼の逞しいペニスに舌を這わせ始めた。
「ちょ、ちょっと待ってってば!」冬樹は焦った。
「何だよ、俺にもさせろよ、おまえばっかりずるいぞ」勇輔は口角泡を飛ばして主張した。
冬樹は早口で言った。「せ、せっかくだからさ、お互いに咥えてみない?」
「お互いに?」
「うん」
勇輔は顔を上げて手を打った。「おお! なるほどな、シックスナインてやつだな」
冬樹は顔を赤くして頷いた。
勇輔が仰向けになった。
「来いよ、冬樹」
「う、うん……」
冬樹は緊張したように頭を勇輔の足の方に向けて、彼に覆い被さった。そして鋭く屹立したものに舌を這わせ始めた。
「あ……」勇輔は小さく喘いだ。そして冬樹のペニスを手で握った。「も、もうちょっと下がってくんねえか?」
「あ、うん」
冬樹は身体をずらした。
勇輔は首を大きくもたげて、冬樹のものを手で口に運んだ。そして先端を舐め始めた。
「んっ……」冬樹も呻いて、勇輔のそれに手を添え、顎を大きく上げて自分の口にそれを導いた。
冬樹のペニスが勇輔の口に深く入り込むと、冬樹の口は勇輔を捉えることができなかった。
「ゆ、勇輔、と、届かない……」
冬樹は身体をずらして、勇輔のものを深く咥え込んだ。
「あっ、外れちまった……」今度は勇輔が小さく叫んだ。
二人は身体を起こし、抱き合って大笑いした。
「だめだよ、勇輔、身長差ありすぎ」
「だな。俺たちにゃ無理だな、これ」
二人はまた並んでベッドに横になった。二人ともその肌はしっとりと汗ばんでいる。
勇輔は冬樹の頭を撫でながら言った。「ケニーおっちゃんの言ったこと、今になってわかる」
「なんて言われたの?」
「長いこと付き合ってるうちに、俺たちならではの行為が見えてくる、AVなんか参考にすんな、って」
「さすがだね、ケニーさん」
「俺たちは俺たちなりのやり方で気持ちよくなれ、ってことだな」
冬樹は恥ずかしげに言った。「こないだのプールでは、僕、とっても燃えた」
勇輔はにっと笑った。「抱き合って、腹で挟んでイくって、あれか?」
「うん」
「俺もだ、冬樹」
勇輔はいきなり身体を起こし、冬樹の脚を大きく開かせて覆い被さり、背中に腕を回して固く抱きしめながら、まるで男女のセックスの時のように腰を前後に動かし始めた。
「今日は俺が上だぞ」勇輔は身体を揺さぶりながら、喘ぎながら言った。
冬樹はすでに息を荒くして喘いでいた。「ああ、勇輔、勇輔っ!」
冬樹もその白く華奢な腕で勇輔の厚い胸板を力一杯抱きしめた。そして同じように身体を揺すった。
「ふ、冬樹っ!」勇輔は一声、愛しい人の名を呼ぶと、その唇を自分の口で覆い、舌を中に差し入れながら彼のそれと絡み合わせた。
冬樹は勇輔の舌を歯で挟み、拘束した。
んん、んんっ!
二人が同時に呻いて、同時にお互いの身体を締め付けた途端、二人の腹に挟み込まれ、絡み合っていたペニスがビクビクと脈動し始め、身体の中から湧き上がった熱いマグマが勢いよく噴き出し始めた。
冬樹は口を離して思わず顎を上げた。「あっ、あっ! ゆ、勇輔っ! 出てるっ!」
「うあああーっ! 冬樹っ、冬樹っ! 俺もっ!」
ベッドの上の二人の身体は汗だくになっていた。
勇輔も冬樹も、長い間はあはあ、と大きく肩で息をしていた。
「勇輔、」冬樹が微笑みながら上になった勇輔の顔を見上げた。「すごく良かった。とっても気持ちよかった。ありがとう」
「俺も」勇輔も微笑みを返した。「今までで最高に燃えた」
「そう?」
勇輔は照れながら言った。「好きだ、冬樹」
冬樹は目を見開き小声で叫んだ。「やった! 初めて勇輔に好きって言われた」
「そ、そうだったか? 今まで言ったこと、なかったっけか」
「うん。今が初めて」冬樹は目に少し涙を溜めて大きく頷いた。「僕も好き、勇輔が大好き」
そして二人はまた固く抱き合った。
勇輔は冬樹の耳元で囁いた。「ずっと、こうしてくっついていような、冬樹」
「嬉しい……」
冬樹は幸せそうな顔で目を閉じて、また腕を勇輔の背中に回した。
「俺さ、」勇輔が静かに口を開いた。
逞しい勇輔の胸に頬を当ててその心臓の音が穏やかになっていくのをずっと聞いていた冬樹は目を開けて顔を上げた。「なに?」
「最初におまえに声掛けた時、真っ先にそのほくろに目が行ったんだ」
冬樹は自分の左目の下に指を当てた。「これ?」
「そうだ。いわゆる『泣きぼくろ』ってやつ」
「そうだったの」
「でさ、そこにほくろがあるヤツって、涙もろいとか男女の関係で苦労する、って聞いたことあってよ、こいつもそんな悩みがあんのかね、って思った」
冬樹はふっと笑った。「涙もろいのは当たってる。それに確かに苦労したね、男女の関係で」
「うららとのことか?」
「うん。でも苦労したのはうららさん。僕の身勝手で辛い思いをさせちゃったから……」冬樹は眉尻を下げた。
「だけどあいつ、もう吹っ切れたみたいだな」
「うん。そうみたい。僕が勇輔と付き合うことになって良かった、って言ってた」
勇輔は口角を少し上げて、穏やかに言った。「あいつとも仲良くしてやってくれよ、冬樹」
「もちろんだよ」冬樹も笑った。
「だけど、ほどほどにな」
「何それ」冬樹は呆れたような顔で微笑んだ。
勇輔は冬樹のその黒い点にそっと指を当てた。「俺たちは男同士だから、このほくろの言い伝えは無効だな」
冬樹はクスッと笑った。「そうだね『男女の関係』じゃないからね、確かに」
「俺、そのほくろ、好きだぜ」
冬樹は照れたように顔を赤らめた。「ありがとう。勇輔」
勇輔は唇を突き出し、冬樹の泣きぼくろにチュッとキスをした。
「勇輔にもほくろ、あるよね」
「え?」
「僕、知ってるよ」
「俺のどこにほくろが?」
「きわどいところ」冬樹はにこにこしながら言った。
「きわどい? どこだよ、それ」
冬樹は身体を起こし、勇輔の両脚に手を掛けた。
「お、おい、冬樹……」勇輔は焦ったように頭をもたげた。
「ここだよ。右足の内側の付け根んとこ」
冬樹はそう言いながら勇輔の秘部のすぐ脇にある小さなほくろを指で軽くつついた。
「そ、そんなとこに? ほくろがあんのか?」
「そうだよ。知らなかった?」
「知らなかった。だって見えねえだろ、自分じゃそんなとこ」
冬樹は勇輔の脚を抱えたまま、大きく開かせ、その場所にチュッとキスをした。
「ふっ、冬樹っ!」勇輔は赤くなって焦った。「は、恥ずかしいコトすんじゃねえっ!」
「あははは、勇輔照れてる!」
冬樹は再び勇輔に密着させて身体を横たえた。
「ご両親が知らなければ、僕が最初に見つけた勇輔の秘密。だね」
「嬉しそうにしやがって、こいつ……」勇輔は乱暴に冬樹の頭を撫でた。
冬樹はにこにこしながらまた勇輔の胸に耳を当て、目を閉じた。
勇輔は身体を横に向けて、冬樹を柔らかく抱いた。そしてふうっとため息をついた。
「おまえを抱いてっと、めっちゃ気持ちいい、っつーか、気持ちが落ち着く」
「僕もさ……」
「鍵盤に乗せたラブレター」 1.ときめき-二人の出会い 2.男女交際 3.本心 4.重なり 5.気持ちと身体 6.思い込み 7.想いの詰め合わせ
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