Twin's Story 11 "Sweet Chocolate Time"
《9 変わらない想い》
――梅雨が明けた。すでに夏の日差しだった。
「ごめんな、マユ、引っ越しの手伝いなんかさせちゃって」ケンジが段ボールを外に運び出しながら言った。
「何言ってるの。ここ、あたしたちの実家じゃない」
海棠一家の新しいマンションでの三世代同居が決まり、海棠家とシンプソン家の人々はケンジたちの実家の荷物を運び出す作業を賑やかに進めていた。ケンジたちの両親は引っ越しの間、街のシティホテルに滞在していた。
「二階は全部済んだでー。もう何も残ってへん」ケネスが二階の窓から顔を出して言った。
「そうか、ありがとう、ケニー」そしてケンジはまた家の中に入った。
「台所もきれいになったよ」真雪が汗を拭きながら言った。
「真雪はもう休んでなさいよ。お腹をいたわらなきゃ」床をぞうきんがけしていたマユミが言った。
「うん。無理はしてない。大丈夫」
「元気な赤ん坊、産むんやで、真雪」二階から降りてきたケネスが真雪のお腹をそっと撫でた。
「ありがとう、パパ」真雪は額の汗を拭って微笑んだ。
ケネスはペットボトルの水を飲みながら言った。「さあ、あと一踏ん張りやな」
◆
「じゃあ、先に行ってるから、ケン坊」陽子が荷物を積んだトラックの運転席から顔を出して言った。
「すいません。面倒かけます、陽子先輩」ケンジは手を振った。
「ほなわいたちも」ケネスがみんなを乗せたワゴン車の運転席に乗り込んだ。「後のこと、大丈夫やな?」
「ああ、戸締まりして鍵掛けたら、大家さんに届ける。任せろ」ケンジが言った。
陽子の運転するトラックに続いて、ケネスの運転するワゴン車も遠ざかっていった。
住む者の誰もいなくなった家の前に、ケンジはマユミと二人で立っていた。
ケンジはマユミの手をとって玄関に入った。
「ちょっと寂しいものがあるな……」
二人はがらんとしたリビングに立った。続くダイニングに入ったケンジは言った。「俺、おまえの作ったパスタの味、まだ覚えてるぞ」
「そうなの?」
「あれは実にうまかった」
「何度か作ったよね」
「うん。そうだったな」
「ケン兄と二人だけで、この家で過ごした夜も作ったよね。覚えてる?」
「もちろん。たった一回きりのチャンスだったけど、おまえといっしょに風呂に入ったな、その時」
「もう、ケン兄ったら、恥ずかしがっちゃって」
「そりゃそうだ。思春期真っ盛りの男子が同い年の女の子の裸を見せられるんだぞ、恥ずかしいに決まってるだろ」
「ケン兄って、そんな時、興奮するより先に恥ずかしいって思っちゃってたんだね」
「おまえはその点、大胆だったよな」
「ケン兄がシャイだったから、あたしは逆に安心できてたのかも」
マユミが二階への階段を登り始めた。ケンジもすぐにあとに続いた。
マユミは自分の部屋のドアを開けた。カーテンの取り払われたベランダの窓からまぶしい光が差し込んでいる。
「何にもないと、広い部屋だったんだね。ここも」
「そうだな」ケンジはドアを入ったすぐのところに立った。「ここだ、ここ」
「え?」部屋の真ん中にいたマユミが振り向いた。
「おまえと初めてキスした場所」
マユミはケンジに駆け寄った。「再現してみて」
「うん」ケンジは少し照れて微笑んだ。
マユミはケンジの前に立ち、目を閉じた。「マユ……」ケンジはマユミの背中に腕を回してそっと唇を重ねた。
しばらくして静かに目を開けたマユミは言った。「思い出した。あの時のどきどき、思い出したよ、あたし」そして嬉しそうに笑った。
「俺も」ケンジも笑った。
「ねえ、」
「なんだ?」
「ベランダに出てみようよ」
「あ、おまえ何を思い出したのか、俺わかるぞ」ケンジがにやりと笑って言った。
「やっぱり?」マユミも笑いながらベランダの掃き出し窓を開けた。
「今思えば、」
「かなり大胆なこと、やってたね、あたしたち」
「俺はあの時、ベランダに出る前からすでにはらはらどきどきだったぞ」
「立ったままでセックスするの、初めてだったから、あたしかなり感じてたんだよ、あの時」
「そうなのか?」
「うん。それにケン兄その前にあたしをいっぱい舐めてくれたでしょ。それがすごく……」
「俺、まだ若かったってこともあるけど、おまえに入れたら、すぐにイっちゃってた。ずっと歯がゆい思いをしてたんだ」
「そうなの?」
「そうさ。おまえの興奮を十分に高めて、最後に一緒に思い切りイきたい、ってずっと思ってた」
「男のコは、一回に一度だからね、イけるの。でもあの時は猫に助けられたんだよね」マユミがおかしそうに言った。
「そうだったな」ケンジも笑った。
「ケン兄、そんな心配してるけど、あたしケン兄に抱かれた瞬間からいつもイきそうになってたんだよ」
「え? そうなのか?」
「もう、ケン兄のことが好きで好きで堪らなくて、そんな人があたしの中に入ってきて、一つになるって思ったら、どんどん興奮していくんだよ」マユミはケンジの手をぎゅっと握った。「入れられた瞬間から、どんどん……」
「そうなんだ……」
「だから、心配しなくてもよかったんだよ」マユミは少し照れたように言った。
「そうそう、ベランダと言えば、」ケンジがおかしそうに言った。「俺、ここでおまえのショーツ盗んだんだ」
「干してあったショーツ?」
「そう。俺がその後ずっと隠し持ってたヤツ」
「干してあったのを手に取る時、どきどきした?」
「俺、あの時、ずっと息止めてた」ケンジは笑った。マユミも笑った。「そして部屋に駆け込んだんだ」
「何か、想像するとかわいいね、ケン兄」
「その日から、俺、もうそのショーツ使って毎晩平均二回は一人エッチしてた」
「すごい! どんな風に使ってたの?」
「え?」ケンジは少し赤くなった。
「やっぱり穿いたりとか?」
「そ、そりゃ時々は穿いたりもしたけど、キホン匂いを嗅ぎながら、とか……」
「匂い? だって洗濯して干してあったものでしょ? それでもあたしの匂いがついてた?」
「洗剤と柔軟仕上げ剤の匂いだった。でもさ、そこはほら、も、妄想でカバーだ」
「思春期の男のコって大したもんだね。でもケン兄、穿いた時はどんな気分だったの?」
「あれはむちゃくちゃ興奮するもんなんだぞ」
「穿いたまま出しちゃったことなんてなかったの?」
「それはない。おまえの大切なショーツは汚したくなかったからな。自分でこっそり洗濯したりもしてたんだ」
「ホントに?」マユミは嬉しそうに微笑んだ。「そんなに大事に使ってくれてたんだー。ケン兄ありがとうね」
「いや、そう褒められるのも何だかとっても変なんだけど……。もともとおまえのショーツなんだし、大事に使うってのも、何だか……」
ケンジとマユミはベランダから表を眺めながら肩を抱き合っていた。
「健太郎はさ、真雪をそんな風に思ってたりしなかったのかな」ケンジが訊いた。
「あの子も中三ぐらいからあたしを部屋に入れるのをちょっと拒んでたよ」
「まあ、そんなもんだろうな」
「でも、真雪に手を出したり、真雪のもので興奮したりはしてなかったみたい」
「そうなのか?」
「だってあの子、高校生になった時ぐらいから、ミカ姉さんにお熱だったじゃない」
「そうか。そうだったな」ケンジは笑った。「しかしヤツは幸せモンだな。憧れの女性と初体験ができたんだから」
「ほんとだね。しかもハワイのホテルで」
「その初体験では健太郎、一晩で6回もイったんだってさ」
「ええっ?! ほんとに?」マユミは目を見開いた。「6回も?」
「しかもミカとずっと繋がったまま」
「知らなかった」
「ミカ、そのハワイの晩を思い出しながら苦笑いしてたよ。さすがにへとへとになったって」
「もう、ミカ姉さんに迷惑かけちゃって、健太郎ったら……」マユミは恥ずかしそうに言った。
二人はケンジの部屋に入った。「ああ……」ケンジは大きなため息をついた。「甦る。甦るよ、マユ」
「クローゼット、もう空っぽ」マユミが部屋の中をうろうろしながら指さして言った。「ここにケン兄の机、そしてここに、」マユミは黄ばんだ壁の前で立ち止まった。「ベッド。あたしたちが初めて結ばれたベッド……。懐かしいね……」
振り向いたマユミの目には、涙が滲んでいた。
「マユ……」ケンジはマユミの身体を抱いた。そしてまた唇同士を重ねた。「んん……」マユミはケンジの背中に腕を回し、力を込めた。二人は大きく開いた口を激しく交差させ、何度も重ね直しながら、お互いの舌や唇を激しく吸い始めた。「んんんっ!」
二人の身体はカーペットのないむき出しのフローリングの床に倒れ込んだ。そしてそれでもまだ二人の熱いキスは続いていた。
ケンジはマユミの、マユミはケンジの着ていた服に手を掛け、焦ったように脱がせ合った。そして二人はあっという間に全裸になり、身体を重ね、腕を背中に回し合い、脚を絡ませ合った。
「ああ、ケン兄、ケン兄!」
「マユ、マユっ!」
またケンジはマユミの唇を塞いだ。マユミはケンジの大きくなったペニスを手で掴み、自分の谷間に誘い込んだ。ケンジは腰を捻らせ、マユミの秘部に自分のものを埋め込み始めた。「んっ!」
下になったマユミは脚を開き、ケンジを奥深くまで迎え入れた。「あああっ! ケン兄、ケン兄っ!」
「マユ、マユっ!」ケンジは腕を床に突っ張ったまま仰け反った。「ああ、マユっ!」
マユミは下になったまま腰を激しく動かし始めた。ケンジもそれに応えた。
だだっ広くなってしまった床を二人は一つになったまま激しく転げ回った。二人の脚は交差し、ケンジのペニスはマユミの谷間にしっかりと埋め込まれ、きつく締め付けられていた。
「ああ、マユ!」
「ケン兄!」
「ううううううっ!」ケンジが呻き始めた。
「あああああっ!」マユミも喘ぎ始めた。
汗だくになった二人の身体が部屋の真ん中で止まった。下になったマユミの身体をケンジは抱き上げ、繋がったまま向かい合い、強く強く抱きしめながら口でマユミの唇を覆った。「ぐううっ!」そしてそのままひときわ大きく呻くとケンジの身体が大きく跳ねた。
ケンジは口を離した。
「うあああああああーっ! マユーーっ!」「ケ、ケン兄、ケン兄ーっ!」
「マユ……」「ケン兄…………」
はあはあと二人はまだ荒い呼吸を繰り返していた。ケンジはマユミの身体を抱えて仰向けになった。
「ケン兄……」
「マユ……」
二人はまたお互いの名を呼び合い、静かに目を閉じた。
しばらくしてケンジが先にそっと目を開けた。
「マユ、」
「なに?」
「今になってこんなことを訊くのも何なんだけど、」
「どうしたの?」
「俺を初めて受け入れた時さ、おまえ痛くなかったのか?」
上になったマユミは少し恥じらったように顔を上げ、瞬きをして言った。「実を言うとね、」
「うん」
「すっごく痛かった」
「やっぱり?」
「うん。無理に広げられる、って言うか、中が擦られる度に、じんじん痛みが強くなってた」
「ごめんな、マユ。あの時は俺、一人で突っ走ってたから、おまえがそんな痛い思いをしているなんて考えられなかった。本当にごめん。あの頃の俺に代わって謝る」
「いいんだよ。それが普通なんだから。最初は誰だって痛いもんだよ。女のコはね」
「不公平だよな。オトコは出して気持ち良くなるだけなのにさ」
「でもね、大好きな人の身体の一部が自分の中に入ってる、って思うと、痛みよりもうれしさの方が大きいもんなんだな、ってあたしあの時思ったよ」
「そうなのか?」
「でなきゃ、またこの人に抱かれたい、明日もこの人とセックスしたい、なんて思わないよ、きっと」
ケンジはふっと笑って背中に回した腕に力を込めてマユミを抱きしめた。「ありがとう。マユ」
「でもね、二度目からはもう、本当に気持ち良くなってたよ。魔法みたいに」
「ほんとに?」
「うん。ケン兄に抱かれる、っていう心地よさと、セックスの気持ちよさがいっしょになって。あたし、もうホントに夢心地だったもん」
「そうか」ケンジはひどく嬉しそうに笑った。
「初めての人がケン兄で、ほんとに良かった」マユミはケンジの胸に耳を当て、目を閉じてその鼓動を感じた。
「ん?」ケンジは顔を横に向けた。
「どうしたの?」マユミはまた目を開いて顔を上げた。
ケンジは床にキラリと光るものを見つけた。
「なんだろう……」マユミを上に乗せたまま彼はそれを指でつまみ上げた。小さな小さな金色のアルミの包み紙の切れ端だった。
「これ、アソート・チョコレートの包み紙」
「ほんとに?」
ケンジはそれをマユミにも見せた。
「ほんとだ、懐かしいね」
「今までずっとこの部屋にあったのか、これ……」ケンジが感動したように言った。「俺たちの思い出といっしょに、ずっとここにあったんだ……。俺たちの時間の証し……」
「なんだか、すごく健気だね、その包み紙」
「でもまだキラキラしてる」
「ケン兄と同じだね」
「え? 俺と?」
「ケン兄の温もりやあたしへの優しさ、まだあの時のままだもん」
「マユ……」ケンジはマユミの髪をそっと撫でた。「おまえの匂いもあの時のままだ」
「ケン兄、背中痛くない? 床、硬いでしょ?」
「全然平気だ。俺、丈夫だからな」
「ずっと丈夫でいてね」
「そううまくいくかな」
「え? どうして?」
「俺たち、この冬にはおじいちゃんとおばあちゃんになるんだぞ」
「そっかー」マユミは笑った。
「あたしがおばあちゃんになっても抱いてくれるよね、ケン兄」
「もちろんさ」
「好き、ケン兄……」マユミはケンジの唇にまた自分の唇を重ねた。
◆
――12月。その日は穏やかな小春日和だった。
「なにっ?! 生まれたっ?!」修平が目を剥いて叫んだ。その声を聞いて夏輝も駆け寄ってきた。修平は一度スマートフォンを耳から離して夏輝に言った。「赤ちゃん二人とも元気だって」
「ホントに?」夏輝は飛び跳ねた。
「よっしゃ! 真雪、ようやった!」ケネスがガッツポーズをした。
「二人とも健康だって。女のコが2800グラム、男のコは2600グラムだって言ってたよ」マユミがタオルや着替えを手提げ袋に詰めながら言った。
「他に何か用意するもの、ありませんか?」春菜が少しおろおろしながら言った。
「今のところこんなものでいいよ。春菜さんもいっしょにいらっしゃい。赤ちゃん見たいでしょ?」
「はい」春菜はにっこり笑った。「支度してきます」そしてカフェオレ色の前掛けを外しながら自分の部屋に急いだ。
「俺も父さんも、店を空けるわけにはいかないから、龍とマユによろしく伝えて」健太郎が白いユニフォーム姿のまま自分のアトリエから顔を出して言った。
「わかった。伝える」
「龍は何か食べたのか? 昨夜から真雪につきっきりだったんだろ?」ケンジが言った。
「何か買っていこうか、食べる物」ミカが慌ただしく身支度をしながら言った。
「そうだな。『シンチョコ』でマユと春菜さんを拾ったらコンビニにでも寄るか」
薄いピンクの壁の個室のベッドには真雪が横になっていた。寄り添うように龍がベッド脇に座り込み、彼女の手を握っている。
「みんなには朝一番で連絡したよ。父さんと母さん、もうすぐ来ると思うよ。それにマユミ義母さんと春菜さんも」
「そう」真雪は嬉しそうに微笑んだ。
「よくがんばったね、真雪」
「龍こそ一晩中あたしについててくれて、ありがとう」
「どうってことないよ」龍は微笑んだ。
「名前は予定通りでいい?」
「もちろんだよ」
「龍、」
「なに?」
「覚えてるかな、みんなで山の温泉に旅行に行った時、あなたあたしのおっぱい飲みたいって言ってたよね」
「あー覚えてる!」龍は笑い出した。「真雪の母乳が飲みたいって言ったんだよね、俺」
「飲んでみる?」
「初乳は赤ちゃんに飲ませなきゃ。特別な母乳なんでしょ?」
「よく知ってるね」
「俺も勉強したからね。いろいろ」
「感心感心」真雪は龍の頭を撫でた。
「それに、二人分の母乳が必要だからね。俺の分残ってるかなあ」
「いっぱい作るよ、あたし。龍の分まで」
「真雪のおっぱいは大きくて牛並みだからね。楽しみにしてるよ」龍は笑って真雪にキスをした。
その時、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」龍は立ち上がり、ドアの方を振り返って言った。
「真雪、龍」ケンジがドアを開けて入ってきた。「おめでとう!」
「よくがんばった。真雪、二人まとめて産むの、大変だっただろう?」続いて入ってきたミカも言った。
後ろからマユミと春菜が入ってきた。「真雪、」
「ママ。春菜も」真雪が嬉しそうに顔を上げて言った。
「あなたもいよいよお母さんね。おめでとう」
「おめでとう、真雪」
「ありがとう」
龍が入ってきた四人に言った。「赤ちゃん、隣の部屋だよ。一応保育器に入ってるけど、何の心配も無いって」
「そうか。じゃ、会ってくるかな」ケンジたちは部屋を出た。
ガラス越しにケンジたちは目を細めて、並んで寝かされた二人の赤ん坊を見つめた。
「目元は龍、だね」ミカが言った。
「ちょっとだけマユに似てないか? 口元あたりがさ」ケンジが言った。
「女の子の方はやっぱりどことなく母さんにも似てる気がするけどね」隣に立った龍が言った。
「名前はもう決めたの? 龍くん」春菜がにやけ顔の龍を見て言った。
「うん」
四人は龍に向き直った。龍は微笑みながら言った。「男の子は健吾、女の子は真唯」
「へえ!」ケンジたちはまた二人の赤ん坊に目を向けた。健吾、真唯と名づけられたその二人は同じように目を半開きにして同時に笑った。
2013,7,27 最終改訂脱稿
Twin's Story 「Chocolate Time」シリーズ全編 the End
生まれた双子の健吾、真唯を抱く双子の兄妹ケンジとマユミの画があります こちら→
『Twin's Story Chocolate Time』
生まれた時から手を握り合ってた
君と同じ想いが僕の身体にも流れている
抱き合って
繋がり合って
何度も同じ時を過ごしたね
とろけるような君の唇
甘く香り立つ君の肌
指でつまんで味わうスイーツの様に
ふんわりと僕の中に広がっていく
朝の「おはよう」がいつかどきどきに変わって
夜の「おやすみ」は、いつかお互いの耳元で囁き合ってた
ずっと変わらない、この気持ちも君を呼ぶ名前も
時がページをめくっても、きっと
一日に一度は必ず君のことを考えるよ
僕の身体に流れる熱くて甘い想いが
君の中にも同じように流れている限り
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《Sweet Chocolate Time あとがき》
最後までお読み頂き感謝します。また、本編を第1作からずっと愛読して下さった方には、大変長い間のお付き合い、ありがとうございました。
考えてみれば、ケネスの過去、というのは、今までずっと語られずにきました。彼はそれほど異性体験(同性体験も)があったわけではなく、比較的潔癖だったことがわかります。彼は元来オプティミストなので、あまり物事にこだわらず、深刻に思い悩むことはあまりありません。もちろんケンジやマユミのことを真剣に思いやり、思慮深く行動することもできますが、それに加えて周りを明るい雰囲気で包み込み、元気にさせる力をケネスは持っているのです。
さて、第1作からすれば随分長い年月が流れました。ケンジとマユミの初体験から数えると、約30年が経ちました。今思えば、その頃彼らがおじいちゃん、おばあちゃんになることなど、誰が想像したでしょう。それでもこの二人はいつまでもあの時と同じように抱き合い、キスし合い、身体を重ね合って愛し合うのです。ある意味羨ましいですね。
二世たちもそろって結婚しました。彼らにもいずれジュニアが生まれ、成長し、恋をするのでしょう。
こうやって書いてくると、このシリーズのもう一つのテーマは『家族』だったということに気づかされます。
どんなに熱く燃え上がり、求め合ったとしても、行きずりの、その場限りの逢瀬を、結局僕は書くことができませんでした。育み合う愛とか、癒し合う気持ちがあってのセックスだと僕はずっと思っているし、何よりそうでなければ僕自身落ち着かないし満足しない。二人が積み上げてきた時間とお互いを思う気持ちがあって、二人はより熱くなれる、満足できる。そういう関係が理想だと思っているからです。
もっとセンセーショナルでショッキングで刺激的なアダルト小説を望んでおられた読者の皆さんを、こういう『ぬるい』世界に誘ってしまったのは申し訳ないけれど、それが作者Simpsonの作品の特徴なのだということを理解して頂けたら嬉しいです。
なかなか現実的には難しいことかもしれませんが、こうやって最初のときめきをずっと忘れずに愛し合える関係というのは、本当に素晴らしいことだと思います。
この『Chocolate Time』シリーズには、これまでの11作の本編の他に『外伝』と呼ばれるものが存在します。例えば、ケンジとミカが交際を始めたエピソード、ケンジが、ケネスの息子の健太郎を自分の血を引く子だとケネスから聞かされるエピソード、中学を卒業する間際の龍が、友人に真雪とつき合っていることを突き止められるエピソードなど、本編の間隙を埋める短い話を書きつづっています。
僕自身、これまでに登場した主要なキャラクターに強く感情移入してしまっていて、それぞれのキャラに対するさまざまな思いもあって、彼らをほとんど実在の人間のように大いに『勘違い』しているのです。そうなると彼らの甘く熱い関係を何度も味わいたくて、いろんな年齢、いろんな場面の話が書きたくなるのです。
そういう思いを理解し、同調して頂けるなら、これらの『外伝』は、きっと興味を持って読んでいただくことができると思います。
基本的に、僕の作品は、読む人が幸せな気分に浸れて、心の現実逃避ができるのをその最大の目的にしています。「こんなこと、現実にはあり得ねえし!」なんて突っ込まないで、シリーズの他の作品も無心に楽しんで頂ければありがたいです。
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