外伝集 Hot Chocolate Time 第3集 第8話「初体験をなめるなよ」

《デートの夜》

 

 『カンポ・デル・オリヴァ』を出た健吾は菫にピーコートを羽織らせた。

「あ、ありがとう、健吾くん」菫は少し顔を赤らめた。

「そんなに寒くないな、今夜は」

「そうだね。ホワイトクリスマスは期待できないかな」

「満足した? 菫」

「え? う、うん……」

「どうしたの?」

「健吾くんからコートを掛けてもらって、ちょっとびっくりしてる」

「どうして?」

「だって、今まであなたにこんなことされたことなかったから……」菫はうつむいた。

「ちょっと意識してる。っていうか、デートの時の男の振る舞い、俺、結構勉強した。おまえに直に言うことじゃないけど」

「勉強?」

「うん。DVD借りて」

「健吾くん、恋愛モノの映画なんかも見るんだ」

「い、いや、おまえとつき合い始めてから、いろいろと……」

「そう。がんばったんだね、」菫は幸せな顔をして笑った。健吾は照れたように菫と目を合わせて微笑みを返した。

 二人は自然と腕を組み、身体を寄り添わせて歩道を歩いた。

「幸せ」菫が小さくつぶやいた。

 

 料亭『高円寺』の小上がり。

「俺が言うのも何だけど、最高に旨かった」豪毅が腹を撫でながら言った。

「うん。もう絶品だね。さすが町で一番の料亭『高円寺』」真唯も食後のお茶をすすりながら満足そうに言った。「でも、こんな料理、すっごく高いんでしょ?」

「どうかねー。親父は材料の質にはこだわるけど、値段にはこだわらねえからな」

「そうなの?」

「ああ。結局刻んでつくる料理だから、元の材料の見かけは関係ねえ」

「どういうこと?」

「例えば、曲がったキュウリ、大きさのまちまちな魚なんかも、それを生かして作っていく。それが親父、いや『高円寺』のやり方なんだ」

「そうかー。こだわりなんだね」

「要は、料理人の腕しだい、ってとこだな。結局どんな材料使っても、お客様を満足させなきゃだめだってことなんだ。もちろん農薬とか遺伝子組み換えとかの危ねえモンは、絶対使わねえけどな」

「かっこいいね。豪ちゃんもそんな料理人なんだよね」真唯は笑った。

「まだまだだよ。俺なんか」豪毅は苦笑いをした。「俺、親父にいっぱい教えてもらった。今思えば、なるほどって思えることばっか」

「どんなこと?」

「例えば『作ったもん口にしてもらって、御代を頂くだけじゃプロとは言えねえんだ。それに見合う腕ってもんがねえとな』」

「いかにも職人の言いそうな台詞だねえ」

「そうだろ? 親父がここまでこの料亭を育て上げたからこそ、言える台詞ってのもあるんだぜ」

「ふうん。どんな?」

「『誰の口にも合うモン作ってても埒あかねえ。てめえの舌と、それまでのお客様のつぶやきを材料に、てめえの理想を決めなきゃなんねえ。どのみち経験がなきゃできねえ技術なんだよ』」

「すごい! おっちゃん、ホントにかっこいいよ」

「俺がまだ小学生だった頃に言って聞かせてくれた言葉なんだぜ、まだそんなこと理解できるかどうかもわからねえってのに」

「豪ちゃんだから言って聞かせてくれたんだよ、きっと。豪ちゃんをもう、跡継ぎとして認めてくれてたんじゃない?」

「大したプレッシャーってもんだぜ。まったく」

「そう言えば、今気づいたんだけどさ」真唯が身を乗り出して言った。

「え?」

「豪ちゃんのそれ、学校の制服のネクタイじゃん」

「そ、そうだけど……」豪毅は自分の襟元に手をやった。それは濃い緑色の細いネクタイだった。二重に巻かれてタイトな結び目を作っている。

「その臙脂のベストによく合ってる。控えめなクリスマスカラーじゃん。意識してたの?」

「ま、まあな」

「それに、制服の時と結び方が違う気がする」

 豪毅は照れたように笑った。「気づいてくれたか。真唯」

「うん。だからアタシ、制服のネクタイとは思わなかった」

「これな、二回巻いて後ろから通す『ダブル・プレーンノット』って言うんだと」

「へえ!」

「めでたいことや何度も経験したい時に作る結び目らしい」

「そっかー。二重になってるもんね。たしかにおめでたい。ネクタイの結び方まで気を遣うなんて、豪ちゃん素敵」

「あれこれ調べたんだぜ。おまえと今日、スペシャル・デートするってことになってからよ」

「そんなに?」

「学校の宿題そっちのけで勉強した」

 真唯が少し赤くなって言った。「アタシんちでの講座も、勉強になった?」

「え? あ、ああ、おまえんちの父ちゃんや母ちゃん、天道先生に、いろいろ教えてもらった……。って、おまえと菫もだろ?」

「うん」

「で、でも、おまえの父ちゃんに、最後に言われたことが今でも忘れられねえ」

「え? パパに? 何て言われたの?」

「『とにかく、その時にならなければわからない。物事は教科書通りにはいかないもんだ』ってな」

「そうなの」

「さて、片付けっかな」

「そうだね」

 豪毅と真唯は立ち上がった。

 

「ただいま」健吾は玄関のドアを開けた。

「おかえり」リビングにいた母親の真雪が言った。「いらっしゃい、菫ちゃん」

「お邪魔します」

 健吾と菫は靴を脱いだ。菫はしゃがんで、二人の靴をそろえた。

 真雪はそんな菫の行為を見て微笑んだ。「さすが菫ちゃん。立派なレディに成長してるね。健吾は幸せもんだ」

 龍もカフェオレのカップを手に玄関にやってきて二人を出迎えた。「やあ、菫ちゃん。デートは楽しかったかい?」

「はい。とっても」

「早かったんだね、父さん」

「ああ。今日はイブだからって、家族持ちや恋人持ちは早めに退社させられた」

「粋な編集長だよね」真雪が龍の腕に自分のそれを絡ませて言った。

「健吾はちゃんと紳士的にエスコートしてやったのか?」

「任せてよ。父さん」

「食事が終わって店を出た時、私にコートを羽織らせてくれたりしたんですよ。健吾くん」

「へえ!」真雪が目を見開いた。

「父さんも、そんなことしてたの? 母さんとのデートの時」

「当然だ」龍は胸を張って言った。「男として、そんなことは当たり前の行動だ」

「あんなこと言ってるけど、どうだったの? 母さん」

 真雪はにこにこ笑いながら言った。「父さんの言うとおり。いつもあたしのこと、気遣ってくれてたよ。この人」

「遺伝なんだね」菫が言って笑った。

「さ、じゃあ、健吾の部屋でゆっくりしなよ。予定通り泊まっていくんだよね? お茶でも飲む?」真雪が楽しそうに言った。

「俺が淹れて持っていくから、母さんは何もしなくていいよ」

「邪魔されたくない、ってことだね。わかった。そうそう、先にお風呂済ませたら? 菫ちゃん」

「そうだね。それがいい」健吾が言った。

「二人で一緒に入ってもいいけどな」ソファに座った龍が言った。

「えっ?!」菫が赤くなった。

 健吾も赤くなって言った。「そ、そんな、ま、まだ早いだろ、父さん」

 

 菫が浴室に入っていった後、健吾は自分の部屋の点検をした。ベッドのシーツを伸ばし、枕の下にコンドームの包みを忍ばせた。部屋の真ん中に立って、くんくんと匂いを嗅いでみた。そしておもむろに棚にあった消臭スプレーを手に取り、辺り一面に振りまいた。

「ティッシュよし!」枕元の箱を指さし確認して、腰を伸ばした。「こんなもんかな」

 健吾は部屋を出てリビングに入った。そしてソファでくつろいでいた父親の龍の隣に座った。

「父さんはさ、母さんとつき合ってる時、いっしょにお風呂に入ったこととか、あるの?」

「うーん、懐かしいなー」龍は大きく伸びをして言った。

「父さんは中学生だったんでしょ? 母さんとつきあい始めたの」

「俺と真雪がいっしょに風呂に入る時っていうのはな、お互いを浄化する目的もあったんだ」

「浄化? なんだよ、それ、意味わかんないから」

 真雪が手にカフェオレのカップを持ってやってきて、龍の隣に座った。

「そう、浄化」

「どういう意味?」

「父さんはね、中学二年の時、そう、あたしとつき合い始めてすぐの頃、レイプされたんだよ。それも学校の教師に」

「ええっ?!」

「信じられない話だろ?」龍が言った。

「レ、レイプって、父さん、男でしょ?」

「そう。男の俺を、男がレイプした。若い理科の教師だった」

「そ、そんな趣味の男が学校に?」

「そうなんだ。俺は理科室に連れ込まれて、床に縛り付けられ、無理矢理射精させられた。そいつからも乱暴されたし、ぶっかけられもした」

「ひ、ひどい……」

「登校拒否になりかけた俺を、真雪が救ってくれたんだ」

「母さんが?」

「龍はね、ひどくショックを受けて、自分の身体を『穢(けが)れた』、って両親にも、誰にも触らせたがらなかったんだよ」真雪が言った。「でも、健太郎おじさんやあたしが龍を説得して、事情を聞いて、被害届をケンジじいちゃんに出してもらって、その理科の教師は逮捕。証拠もいっぱいあったし、龍以外にも過去に何人か被害者がいたから、立件は簡単だった、ってじいちゃんは言ってた」

「そ、そんなことがあったんだ……。父さん、強烈な体験だったね」

「もう、一時は死にたいぐらいにショックだった。でもな、この『マユ姉』が俺の身体を浄化してくれる、って言って、いっしょに風呂に入ってくれた」

「そうなんだ、それで浄化なんだね」

「いとこ同士だったから、小さい頃はけっこう一緒に風呂に入っていたが、さすがに思春期になってのそれは赤面モノだったぞ」

「だろうね」

「赤面モノどころか、『龍くん』はあたしの身体に触って鼻血出してた」真雪は笑ってカフェオレをすすった。

「当然だろ!」龍は赤くなった。「それなのにな、その時『マユ姉』は、風呂場で俺のものを手でしごいて射精させちまったんだぞ!」

「ええっ? 手で? だ、大胆だね、母さん……」

「大胆だよな? まだ初体験も済ませてないのに、だぞ」

「だって、興味あったんだもの、男のコのカラダに」

「その直後、俺と『マユ姉』の初体験」

「お互いに『わけがわからなかった』初体験ですね? ご両親」健吾は笑った。

「そうだ」龍も笑った。

 浴室のドアが開く音がした。

「あ、」健吾が顔を上げた。

 ぱたぱたとスリッパの音がして、菫がリビングのドアを開け、言った。「お先にいただきました」そしてぺこりと頭を下げた。

「うん。じゃあ、俺の部屋でくつろいでてよ」

「う、うん……」菫は恥じらったようにそう言って、健吾の部屋に向かった。

「お風呂、先にいい?」健吾が真雪に訊いた。

「いいよ。もうどきどきしてきたんでしょ?」

「大きなお世話だ」健吾は赤くなった。

「隅々までしっかり洗ってから挑むんだぞ」龍がおかしそうに言った。

「わ、わかってるよ」

 

 健吾がリビングを出て行った後、真雪は唐突に言った。「ねえ、龍」

「何だい?」

「ワイン、飲もうよ」

「いいね。でも、どうしたの? 急に」

「今日ね、素敵なワインを見つけたんだ。南アメリカの」

「へえ」

「安いけど、コクがあって美味しいんだって」

「南アメリカのワインは、ヨーロッパで猛威をふるった害虫フィロキセラの被害を受けずに、良質な品種が残った、って言うよね」

「さすが龍。だてに新聞社に勤めてないね」

「それでも現地の人たちは、それを売ることより自分たちで楽しむために作ってる。だから美味しくないわけがない。ってワイン通の編集長が言ってた」

「そうかー。なるほどね」

「ラテンの人たちのおおらかさってとこじゃないかな」

 真雪はソファから立って、キッチンの隅に置いてあった細長い紙袋を手に龍の元へ戻ってきた。「これ。アルゼンチンのワインだって」彼女は袋からそのワインの瓶を取り出した。

「どれどれ」龍がそのボトルを受け取ってラベルを見た。

「すごい! マルベック種のワインだ」

「マルベック?」

「そう。カベルネソーヴィニヨンやメルローと並ぶ一流品種。もともとフランスの品種だけど、アルゼンチンやチリも主要産地。俺も以前一度だけ編集長に恩着せられながら飲ませてもらったことがあるけど、これ、濃い赤で、重くて、ブルーベリーの風味があるんだよね。やった。また飲めるなんて思ってなかった」

「良かった。龍にも喜んでもらえて」

 龍はコルクを手際よく抜いて、真雪が用意した二つのワイングラスに注いだ。

「うん。この香り。思い出したよ」龍が嬉しそうに言った。

 真雪も同じように微笑んで、グラスを口に運んだ。

「でもさ、真雪って、始めはワインが苦手、って言ってたよね?」

「それは一番最初のワインの経験が苦かったから……だよ」真雪は少しうつむいた。

 真雪が二十歳の誕生日のすぐ後に、専門学校の実習で出会った妻子ある男性と過ちを犯した時に、食事で飲んだのが初めてのワイン体験だった。

「ご、ごめん。思い出させちゃったね」

「いいんだよ、龍」真雪は笑った。「もう二十年以上も前の、大昔の話だし」

「無神経だった……」

「気にしないで、龍。でもね、あたしが龍といっしょにワインを飲んだ時の方が、ずっと心の広い面積を占めてるよ」

「えっと……そうか、俺が二十歳になった年のクリスマス・イブだったよね、確か」

「そう。龍は最初からワインを美味しいって言って飲んでたよね」

「うん。そうだったね」

「あたしも、そんな龍と一緒に飲むワインは、まるで別の飲み物みたいだったよ、最初の時のに比べて」

「なんでかな」

「だって、あたし、ずっと龍といっしょにお酒が飲みたい、って思ってたもの。龍が早く大人にならないかな、ってずっと思ってた」

「言ってたよね、確かに真雪」

「四つも年上だから、あなたが二十歳を過ぎるまでの四年間は、お酒の味、わからなかった」

「え? だって飲んでたじゃん。ケニー叔父さんとかケン兄とかと一緒に」

「全然美味しいって思わなかったもん。無理してつき合ってたんだよ。パパやケン兄とはね」

「そうなの?」

「そうだよ。でも不思議だよね。龍と一緒だと、同じお酒飲んでも、本当に美味しいって思うもの」

「ごめん。待たせちゃったね」

「龍はフライングしなかったからね。変なところで律儀だから」真雪は笑った。

「何だよ、変なところって」

 二人は笑って、また一口ワインを飲んだ。

「龍、お願いがあるんだ」

「え?」

「あたしのあの時の過ちのこと、真唯に話して欲しい」

「え? どうして?」

「あの子には、あたしのような失敗をして欲しくないから」

「心配しすぎなんじゃない?」

「ううん。これはあたしの使命だと思う。でも、あたし自身が話して聞かせるより、龍があの時の苦しみとかあたしへの気持ちを語ってくれた方があの子のためになると思うんだ」

「……うまく話せないかもしれないよ」

「いいの。全部細かく話す必要はなくて、その事実とその時のあたしたちの気持ちがあの子に伝われば、それでいい」

「真雪……」

「あたしのその時の気持ちを詳しく訊きたかったら、改めてママに訊きな、とかって言ってくれればいいよ。とにかく最初にあなたがあの子に伝えて欲しいんだ」

「わかった。じゃあ折を見て」

「ありがとう、龍」

 

 

 料亭『高円寺』。

「わあ! 想像してたのと、全然違う」豪毅の部屋に足を踏み入れた真唯がぐるぐる中を見回しながら言った。

「ど、どんな想像してたんだよ」

「前にお邪魔した時はむちゃくちゃ散らかってたじゃん」

「それは、俺にとってのおまえの位置の違いだ」

「位置?」

「そうだ。その時はただの友だち、今は恋人だろ?」豪毅は自分で口にした『恋人』という言葉に自ら反応して赤面した。

「豪ちゃん。何だかかわいい」真唯は目をくりくりさせて微笑んだ。

 豪毅が言った。「さ、先に風呂、入って来いよ」

「いいの?」

「ああ。俺、後でいいから」

「一緒に入る? お風呂」

「ば、ばっ! ばかなこと言うな」豪毅はますます赤面した。

「だって、今夜アタシたちエッチするんだよ。お風呂ぐらい一緒に入っても全然問題ないじゃん」

「ご、ごめん、真唯、俺、まだそこまでの勇気ねえから……」

「豪ちゃん純情」真唯は持って来たバッグから着替えを取り出した。

 豪毅は真唯にバスタオルとタオルを渡しながら言った。「ゆっくりな」

「ありがと」真唯は部屋を出て行った。

 しばらくして豪毅も部屋を出て両親の部屋を訪ねた。

「何だい、豪毅、何しに来たんだい?」茶をすすっていたユウナが顔を上げた。

「母ちゃん、親父、俺、俺……」

「なに怖じ気づいてやがる」親父がにやにやしながら言った。

「マユお嬢、今、風呂かい?」

「うん」

「いよいよじゃないか。がんばんな」ユウナが言った。

「か、母ちゃんさ、」

「なに?」

「は、初めての時って、女のコはやっぱり痛がるもんなんだろ?」

「八割方そうだね」

「母ちゃんもそうだったのか?」

「痛いってもんじゃなかったよ。この人、そんなことお構いなしにあたしに突っ込んできたけどね」

「おめえ、痛いなんて言わなかったじゃねえか。あの時」

「言うもんか。好きな人に抱かれてんのに、痛いなんて言えるわけないじゃないか」

「ま、真唯も痛がるよな、きっと……」豪毅は縮こまって言った。

「痛みよりも、抱かれてる心地よさの方が大きければ、それほど気にならないと思うよ」

「心地よさって?」

「安心感、っつーか、心から好きな人に抱かれているっていう、心理的な心地よさだね。初めての時に身体が気持ちいいって感じることは、ほぼ期待できないからね」

「そうか……」

「おめえ、教えてもらったんだろ? 龍や修平、それに夏輝や真雪によ」

「うん。やっぱり同じコト言ってた。夏輝さんたちも」

「だから、おめえがお嬢にどんだけ優しくできるか、ってのが鍵なんじゃねえのか?」

「その通りだね」ユウナがまた茶をすすった。

「何だか、真唯がかわいそうになってきた……」

「そのぐらいで丁度いいんじゃないのかい? この人みたいに人の気もしらないで一人だけイっちまうよりはね」

「悪かったよ」親父がふてくされて言った。

「ま、案ずるより産むが易し、ってね。あれこれ思い悩んでないで、今のおまえの気持ちを大事にしてお嬢を抱いてやりな」

 親父が居住まいを正して豪毅を見据えた。豪毅も思わず正座をして親父の目を見た。

「人との付き合いも、料理を味わうのと同じだ。外見は盛りの見た目、会話は香り、ふれあいが味だ。その3つ全部気に入られるようにするのは至難の業だ。だがな、何度も口にしてっと、本当のその料理の味わいがわかってくる。そうやっておめえもお嬢と付き合え。エッチが全てじゃねえよ」