外伝集 Hot Chocolate Time 第3集 第8話「初体験をなめるなよ」

《初めての体験》

 

 入浴を済ませた健吾は、部屋のドアをそっと開けた。菫はパジャマ姿で健吾のベッドにちょこんと腰掛け、持ってきていた本を読んでいた。

「あ、健吾くん」菫は顔を上げた。頬が上気していた。健吾にとって、そんな彼女を見るのはもちろん初めてだった。胸に熱いモノがこみ上げてきて、健吾は動悸を抑える努力を余儀なくされた。

「す、菫……」健吾は恐る恐る菫の横に座った。そして彼女の肩に手を置いた。「や、優しくするから……」

「うん」かすかに聞こえるほどの声でそう言った菫は、読んでいた本を閉じ、ベッド脇のサイドテーブルの上に置いて身体を健吾に向けた。

 健吾は震える手を彼女の両肩に置き直し、そっと唇を顔に近づけた。菫は思わず目を閉じた。健吾の唇が菫のそれに触れた瞬間、菫の身体がびくん、と硬直した。健吾は唇を突き出して、さらに彼女の唇に押しつけた。

「ん……」菫が小さく呻くのを聞いて、健吾の胸の熱さがさらに増した。

「脱がせて、いい? 菫」

「う、うん」

 健吾はぎこちない手つきで、彼女のパジャマのボタンを外し始めた。菫はうつむいたままじっとしていた。いつもより速くなった菫の息づかいだけが、健吾の耳に入ってきた。

 菫のバストは、フリルのあしらわれた、淡いすみれ色のブラで隠されていた。健吾は、その中に秘められたものを早く見たくて、早く触りたくてうずうずし始めた。

「菫の色だ」健吾が小さく言った。

「うん。そうだよ。新しく買ったんだ」

「この日のために?」

 菫はこくんとうなずいた。

 健吾はそっと菫をベッドに横たえ、パジャマのズボンを脱がせ始めた。「あ、」菫はかすかに叫んだ。

「ブラとお揃いなんだね」

 そのすみれ色のショーツも愛らしいフリルで縁取りされていた。

 固く脚を閉じたままの菫は、目と口もぎゅっと閉じていた。健吾はその白い身体を見ているうちに、胸にわき上がってきていた熱いモノが一気に表面にはじけ出すのを感じた。

「す、菫っ!」いきなり健吾は菫の身体に覆い被さり、唇を乱暴に彼女の唇に押し当てた。健吾の眼鏡の冷たいフレームが菫の頬に押しつけられた。

「んんんっ!」菫は呻いた。

 健吾の息は荒々しく、背中に回された腕が乱暴に身体を締め付けた。菫はおびえたように身体を震わせた。健吾の唇が離れた隙に、菫は健吾のカラダを押しやり、叫んだ。「い、いやっ!」

 はっとして健吾は菫から身体を離した。「ご、ごめん!」

「や、優しくするって、言ったじゃない、健吾くん……」菫は震える声で言った。「こ、こんなキスは、いや」

 菫は涙ぐみ、両手でブラ越しに自分の乳房を覆った。

「わ、悪かった、菫……」

「お願い、初めてなんだから……」

「うん。ごめん……」健吾はうなだれた。

「ほ、本当にコントロールできないんだね、男のコって……」

「……」

「私、健吾くんを嫌いになりたくない……」

「す、菫……」

「私の知ってる健吾くんじゃないような気がした……。何だか、怖い……」

 健吾は菫の足下で身を固くしていた。「お、俺……」

「私、覚悟はできてる。できてるけど、あなたが健吾くんでなくなるのは……いや……」

「ご、ごめん……」

「それに、私、健吾くんの目の前にいるのに、なんで眼鏡を外してくれないの?」菫は懇願するように言った。「私を……直に見て欲しい……」

 健吾がようやく口を開いた。「菫、また俺が突っ走りそうになったら、遠慮なく突き飛ばしたりひっぱたいたりしてくれるか?」

 菫は悲しそうな顔で言った。「うん。わかった」

「え、えっと、じゃあさ、俺、どうしたらいい?」

「とりあえず、そのスウェット、脱いだら?」

 健吾は風呂上がりのパジャマ代わりのスウェットを身につけたままだった。

「私だけ裸じゃ、恥ずかしいよ。それに、よかったら灯り、消してくれる?」

「ご、ごめん。そうだったね」

 健吾は眼鏡を外してサイドテーブルに置き、菫に背を向けて着ていたものを脱ぎ始めた。そして下着だけの姿になった。菫は上半身を起こしてベッド脇に立っている健吾の身体を見た。

「そんな下着穿いてたんだ、健吾くん」

「うん」

 健吾が穿いていたのは黒いビキニタイプの下着だった。

「こんなの、嫌いか? 菫は」

「ううん。大人っぽくてかっこいいよ」

「いやらしい、とか生々しいとかって感じしない?」

「ううん。平気」

「そうか、良かった」健吾はほっとしたように笑った。「父さんも、聞けばじいちゃんも昔からこのタイプを穿いてたんだって。海棠家の男子のユニフォームってとこかな」

「何それ、ユニフォームだなんて。変なの」菫は笑った。

 空気がふわりと和んだ。

「来て、健吾くん。私を抱いて」菫は自ら再びベッドに仰向けに横たわった。「今度は優しくね」

「わかった」

 健吾は灯りを消して部屋を暗くした後、もう一度菫の身体に自分の肌を重ねた。そしてできる限りの気を遣って唇を重ね合わせた。

 菫は、うっとりとした表情でそれを受け止めた。さっきのキスとはまるで別人のような柔らかさ、温かさだ、と彼女は思った。菫は唇を弛緩させ、舌を少しだけ出してみた。健吾はその舌を唇で挟み込んで吸い始めた。菫の身体の中からも熱いものが湧き上がってきた。

 健吾は手を菫の背中に回し、ブラのホックを探した。それはすぐに見つかったが、ホックを外すのはなかなか難しかった。耳元で繰り返される熱い息づかいと、焦ったように背中でうごめく健吾の指が、ますます菫の身体を熱くしていった。今度は怖いとは感じなかった。ぷつっ、という音と共に、ようやくブラのホックが外れた。健吾はそのままブラのベルトに手を掛け、ゆっくりとそれを菫の腕から抜いた。

 ごくり、と健吾が唾を飲み込む音がした。菫はじっと健吾の目を見つめて言った。「さ、触ってみて」

「う、うん」

 健吾はそっと、その二つの膨らみを両手で覆ってみた。柔らかくて、温かくて、すべすべしていた。

「す、すごい……」

「え?」

「触ってるだけで、気持ちいいよ、菫」

「ほんとに?」

 健吾は手をゆっくりと動かし、菫の乳房をさすってみた。「んん……」菫が小さく呻いた。彼は手を離し、その白く、柔らかいものに唇をあてた。そして静かに口を開き、舌でなめらかな表面を舐め始めた。

「あ……」菫は息を荒くして目を閉じていた。

 健吾の口が、彼女の左の乳首を捉えた。「ああっ!」菫の身体が小さく跳ねた。健吾はその乳首を吸い始めた。菫は身体を波打たせ始めた。

「け、健吾くん……」

 とっさに口を離して健吾が言った。「ご、ごめん、す、菫、い、痛かったか?」

「ううん。気持ちいい。気持ちいいよ。大丈夫。続けて」

 安心したように彼は再び菫の乳首を吸った。健吾は赤ん坊に戻ったようだ、と自分で考えたりしていた。

 健吾はまた菫にキスをした。二人とも慣れてきて、お互いの唇の感触を味わうことができるようになっていた。菫は上になった健吾の背中に腕を回して抱きしめた。健吾もそれに応えた。

「け、健吾くん、」

「え?」

「あなたと、つ、繋がりたい。私……」

「す、菫……」

「健吾くんと、ひとつに……なりたい」

「い、いいのか?」健吾は顔を真っ赤にして訊いた。「こ、後悔しない?」

「うん。大丈夫」菫はこくんとうなずいた。

 健吾は菫から身体を離し、彼女に背を向けてベッドの横に立った。ぺりぺりとプラスチックの袋を破る音が聞こえた。

「健吾くん?」

「ちょ、ちょっと待ってて、菫。すぐだから」そう言いながら彼は下着を脱いで全裸になった。

 菫には、健吾が今、何をしているのかわかっていた。彼の予想以上に逞しい背中を眺めながら、菫は期待と不安がない交ぜになった、変な気持ちになっていた。

 健吾は練習した通りに自分のペニスにコンドームを被せ始めた。しかし、焦っていて、それは半分まできたところで、巻きが広がらなくなった。健吾の興奮は、すでに上昇途上にあったので、そのままペニスをいじり続けると果ててしまいそうだった。仕方なく半分だけ被せた状態で、健吾は振り向いた。

 彼はベッドに戻ると、菫の足下に膝立ちになった。菫は薄目を開けて健吾の顔だけを見ていた。彼の股間に目を移すことはできなかった。

「菫、脱がせるよ」

「うん」

 健吾は菫のショーツに手を掛け、ゆっくりと下に下ろし始めた。菫は思わず顔を覆った。そして両脚を固く閉じた。

 ショーツが脚から抜き取られ、菫もその白く柔らかな身体の全てを健吾の目にさらした。

「す、菫!」健吾が叫んだ。菫はびくっとして身体を硬直させた。「お、俺、俺……」

「や、優しくしてね、お願い、健吾くん……」震える声で言った菫は、少しずつ脚を広げていった。

 灯りを消した部屋は暗かったが、目が慣れてきて、お互いの表情までわかるほどだった。しかし菫は自らの手で顔を隠している。健吾は開かれた菫の秘部を見つめた。暗い中にもそこがピンク色をしていることがわかった。愛らしい繁みの下の、その部分は、健吾には初めて目にする光景だったが、知らず知らずのうちに身体が引き寄せられていくような強烈な魅力を持っていた。

「は、恥ずかしい……」菫が小さく言った。

「さ、触ってもいい? 菫」

 菫は黙ってうなずいた。

 健吾は右手を伸ばし、その秘部にそっと触れた。「あ……」

 そこはしっとりと潤っていた。彼は人差し指を谷間にそっとあてがい、ゆっくりと撫でた。「あ、ああ……」

 健吾は一度手を離し、今度は親指を谷間に入り込ませた。「んんっ……」

「あ、あったかい、あったかいよ、菫。それに、とっても柔らかで気持ちいい……」

「恥ずかしい……恥ずかしいよ、健吾くん」

 コンドームが半分だけ被せられた健吾のペニスは大きく反り返り、脈動していたが、菫がそれを見ることはなかった。

「い、入れていい?」健吾が小さな声で言った。

「う、うん。そっと……そっとね……」

「わかった」

 健吾は指を離し、その手で自分のものを握りしめ、菫の谷間にそっとあてがった。菫の身体は細かく震えていた。

 健吾のペニスが菫の谷間を割って中に入り始めた。「あ、ああ!」菫が大きな声を上げた。健吾はとっさに腰を引き、身体を離した。「ご、ごめん! 菫、だ、大丈夫?」

「うん。だ、大丈夫。健吾くん、大丈夫だから、い、入れてみて」

 健吾は再び挿入を試みた。コンドームの内部は自分で分泌した液でぬるぬるになり、指で押さえていないと抜け落ちてしまいそうになっていた。

 健吾はペニスの根元を押さえて、ゆっくりと、できるだけゆっくりと菫の中に入っていった。

「ああ、ああああ!」菫が身体をよじらせた。

 ペニスが半分ほど菫の中に入り込んだ時、健吾は違和感を感じた。何かに阻まれ、自分のペニスがそれ以上先に進まなくなった。

「え? あ、あれ……」

 菫はいつしか両手でシーツを握りしめ、苦しそうな表情で喘いでいた。健吾にはそれが身体の快感によるものなのか、苦痛によるものなのかの区別はつかなかった。

 健吾は両手を菫の身体の脇につき、身体を突っ張ったまま、腰を少しずつ動かした。ペニスに加わるなめらかな刺激が、健吾の身体をどんどん熱くした。

「んっ、んっ!」いつしか健吾は懸命に腰を動かしていた。菫はますます苦しそうに息をしながら顔を赤く染めていた。彼女の首筋や乳房にたくさんの汗が光り始めた。

 腰のあたりに強いしびれを感じた健吾は、我慢できなくなり、腰を大きく突き出した。その拍子にコンドームがぬるりとはずれ、同時に健吾のペニスは何か、ひどく狭いところを押し広げ、そのまま菫の中に深く入り込んでしまった。そして次の瞬間、健吾の中に溜まっていた熱いものが、どくどくと一気に菫の体内に放出され始めた。

「きゃあっ!」菫の短い叫びが、健吾の耳の奥にいつまでも残響として残った。

 

 菫の目には涙が光っていた。健吾ははあはあと大きく肩で息をしながら、脈動が収まるのを待った。

「け、健吾くん、そのまま抱いて。私の身体を抱いて」菫が絞り出すような声で言った。健吾は繋がったまま、彼女の身体を抱きしめた。

「し、しばらくそのままで……いて。健吾くん」

「う、うん」

 静寂の中に二人の息づかいだけがいつまでも残った。

 しばらくして健吾が菫の耳元で言った。「菫、ごめん、痛かっただろ?」

 菫は涙を指で拭った。「大丈夫。大丈夫だよ」

「俺、乱暴だったよな」

「ううん。健吾くん、優しかったよ、とっても」

 健吾はその時、落ち着きを取り戻しつつあるペニスに、それまでとは違うなま暖かいものがまつわりつくのを感じて、はっとした。

「え? な、なに?」

 健吾は慌てて菫から身体を離し、ペニスを彼女から抜き去った。

 二人が繋がっていた場所が血だらけになっていた。菫の谷間、自分のペニス、そしてシーツも真っ赤に染まってた。そしてそのシーツの上に、抜け落ちたコンドーム!

「こ、これって!」

「あ!」菫も上半身を慌てて起こした。

「や、やばいっ! お、俺、おまえの中に出した! いつの間にかゴム外れてた!」健吾は大急ぎでベッド脇に置いてあったティッシュを箱ごと手に取り、何枚も引っ張り出して菫の秘部に当てた。菫はその大量のティッシュで自分の秘部をそっと拭き始めた。そのティッシュにも赤いシミがどんどん広がっていく。

「菫っ! 俺、俺っ!」健吾は今にも泣きそうな顔でおろおろしていた。「こ、こんなに血が出るなんて! ごめん、ごめん、菫!」

 菫は落ち着いた表情で、数枚のティッシュを手に取り、健吾に渡した。「健吾くんも拭きなよ。私の血で汚しちゃったね。ごめんね」

「菫、菫っ! お、おまえを傷つけちゃった。ど、どうしよう!」

「健吾くん、大丈夫」

「大丈夫じゃないだろ。処女膜、破っちゃって、こんなに……。痛かっただろ? 痛かったよな?」健吾は涙ぐんでいた。

 菫は穏やかに微笑みながら健吾の顔を見た。「始まったんだよ。今月の分」

「え?」

「私ももしかしたら、って思ってたんだ。昼間っから、妙にお腹が張る感じがしてたから」

「え? ど、どういうことなんだ?」

「生理が始まったんだよ」

「せ、生理?」

「そう。だって、初体験で破れても、きっとこんなに血がでるわけないもの。だから安心して」そしてにっこりと笑った。「妊娠の心配もないから」

「妊娠の心配も……」

「大丈夫だよ、健吾くん」菫はまた微笑んだ。

「そ、そうだったのか……」健吾はやっと安心したようにため息をついた。

「知らないうちにとれちゃったんだね、ゴム」

「そ、そうみたいだ」

「健吾くんの出したものが、私の中に入ってるんだね。何だか嬉しいな」

「ごめん、こんなことになるとは思ってなかった」

 

 二人は下着姿に戻り、ベッドに並んで横たわっていた。

「どうだった? 健吾くん。気持ちよかった?」

「なんか、必死だった」

「必死?」

「どうしていいかわからなかったよ。やっぱり。結局出す時に気持ちよかっただけ、かな」

「よかったじゃない、気持ちよくなれたんなら」

「菫は?」

「やっぱり痛かった」

「ごめん。もっと優しくしなきゃいけなかったんだよな」

「健吾くんのせいじゃないよ。初めての時は、たいていそんなもんだ、って夏輝さんも言ってた」

「オトコばっかり気持ちよくなるなんて、不公平だよ」

「でもね、夏輝さんも真雪さんも口をそろえて言うのに、二度目はもう、全然感じ方が違うんだって」

「そうなのか?」

「うん。私もそんな感じがする。次はきっと私も気持ちよくなれるよ。健吾くんと一緒に」

「そうか。良かった」

「この痛みは、二人がその後も交際を続けることができるかどうか、試すためのものなんじゃない?」

「菫は、俺と交際を続ける気になってる?」

「もちろんだよ。だって、あなたに抱かれて気持ちよくなりたいもん。私も」

「そうか。今度は抜けないようにするから」

「そうだね」

 健吾はそっと菫の髪を撫でた。「菫、本当に後悔してない? 俺とこんなことになって」

「全然。昨日より今日、今日の昼間より今の方が好き。私、健吾くんが大好きになっちゃった」

「俺も」健吾は笑って菫の唇に自分のそれを重ねた。勢い余って、お互いの歯がカチリと当たった。

「ごめん」

「うふふ、キスもだんだん上手になるよね。楽しみ」

 

 

 ――『料亭 高円寺』。豪毅の部屋。

 全裸になった豪毅は、真唯のショーツに手を掛け、ゆっくりと脱がせた。彼のペニスにはすでにコンドームが装着されている。

「ご、豪ちゃん、ら、乱暴しちゃ、いやだよ」

「わかってる。わかってるけど、いざとなったらわかんねえ」

「そ、そんなー!」真唯は両手で顔を覆った。

「いやだったら、いや、って言えよ。真唯」

「いやって言ったら言うこと聞くの? 豪ちゃん」

「わかんねえ」

「やだー!」真唯はまた両手で顔を覆った。

「お互い初めてだし、我慢しねえで、気持ちを伝え合おうな、真唯」

「そ、そうだね」

「と、とりあえず裸になったわけだが、次はどうすりゃいい?」

「んー……。普通はキスからかな」

「よしっ!」

 豪毅は真唯に身体を重ね、静かに唇を真唯のそれに重ねた。「んっ!」真唯は小さく呻いた。豪毅は静かに口を開き、舌で彼女の上唇、そして下唇を舐めた。しっとりと湿った温かいその感触に真唯の身体はどんどん熱くなっていった。豪毅は顔を傾け、大きく口を開いて真唯の口全体を覆った。そして舌と唇を巧みに使って真唯の唇や舌、口の中を慈しんだ。真唯はうっとりと目を閉じて豪毅のその濃厚なキスに酔いしれていた。

 豪毅が静かに口を離した。そして真唯の目を見て静かに微笑んだ。

「ご、豪ちゃんって、テクニシャン……。あたし、もう感じてきた……みたい」

「そうか、良かった」

「キスの練習、したの?」

「え? い、いや、れ、練習なんて、できるわけねえだろ」豪毅は不自然に動揺して言った。

「すっごく上手。初めてとは思えない」

「お、おまえが喜ぶことを想像してやっただけだ」

「才能なのかな」

「ま、そういうことにしといてくれ。で、次はどうするんだっけ?」

「んーとねー、ママの話によると、おっぱい触って、吸って、身体を舐めて、あそこも舐めて、あたしが豪ちゃんの咥えて、」

「俺のはもうゴムしてっから、咥えらんねえよ」

「そしたら挿入」

「そうか」

 豪毅は真唯が示したその手順通りに実践した。真唯はその度に身体を仰け反らせて喘いだ。

「や、やだ、気持ちいい。豪ちゃん、豪ちゃんっ!」豪毅が秘部を舌で舐め始めると、真唯はそれまでで最高に興奮した。「セックスって、最高!」

「よしっ、じゃあ、入るぞ、真唯。いいか?」

「うん。いいよ。来て、豪ちゃん」真唯は上気した声で言った。

 豪毅はいきり立った自分のペニスを今まで舐めていた真唯の谷間にあてた……つもりだった。

「あれ?」

「どうしたの?」

「ど、どこだ?」

「もうちょっと上だよ、上」

「え?」

 豪毅はここだ、と思った場所で腰を突き出した。しかし、ペニスの先端はするりと彼女の腹の上に逃げた。

「こ、ここかな?」

「そ、そう、そこ、そのあたり」

「よし」

 豪毅はまた腰を突き出した。ペニスの先端が少しだけ中に入った……ような気がした。

「こ、ここでいいのか? 真唯」

「た、たぶん、そこでいい」

「わかった」

 豪毅は少しずつ腰を前に出し始めた。

「痛、痛い、ご、豪ちゃん、痛い!」

「我慢できなくなったら言えよ、真唯っ」豪毅はさらにペニスを奥に進ませた。

「やだ! 痛い! 痛いよ! そんな大きいの、入んない、無理だよ!」真唯の身体はどんどん布団を上にずり上がっていった。結果豪毅のペニスはなかなか深いところまで入っていかなかった。真唯の頭は布団から落ちて畳の上に移動していた。

 いつしか豪毅も真唯も汗だくになっていた。

「せ、狭い、狭いな……」豪毅は焦り始めた。そして意を決して勢いをつけてペニスを中に差し込んだ。

「ああっ! やだ! 痛いっ! もうだめっ!」真唯は身を起こした。その拍子に豪毅のペニスは真唯から外れてしまった。

「だ、だめだ……」豪毅はうなだれた。豪毅のペニスもうなだれていた。

 真唯は全裸のまま布団に正座をして泣きじゃくっていた。「豪ちゃん、豪ちゃん……」

 豪毅は優しく真唯の身体を抱いた。「ごめん、ごめんな、真唯、乱暴しちゃって……」

「痛かった。とっても痛かったよー」

「ごめん、ほんとにごめん、真唯」

「セックスなんて嫌い! でもアタシ豪ちゃんとセックスしたい! とっても痛かった、でも豪ちゃんが大好きっ!」ぐすんぐすんと真唯は泣き続けていた。豪毅はそんな真唯が不憫でたまらなかった。

 真唯は秘部を拭ったティッシュを見て言った。「あ、少し血が出てる」

「ほんとか?」豪毅が言った。

「いちおう、入ったんだね。豪ちゃんの」

「そうみたいだな」

「これって、初体験、って言うのかな……」

「どう……かな……」

「アタシ、痛くて我慢できなかった。でも豪ちゃんとセックスしたい。どうしたらいいのかな……」

「も、もう、俺のもの、おまえに入れられないだろ? そんなに痛いんだったら……」豪毅も涙ぐんでいた。

「豪ちゃん……」

「真唯……」

 二人は裸のままベッドの上で抱き合い、いっしょになってしくしく泣いた。

 

 豪毅の部屋の入り口の襖戸が開いた。ちょうどそこに豪毅の親父が通りかかった。部屋から真唯がうつむきながら出てきた。

「お、お嬢、どうした?」親父は真唯の顔をのぞき込んだ。彼女は泣きはらした目で親父を見上げた。「おっちゃん……」

 親父は真唯の後に続いて出てきた豪毅の襟首をつかんで引きずり出した。「てっ、てめえ! お嬢に何しやがっ……た……」豪毅は抵抗しなかった。親父を見る豪毅の目は、死んだ鯖の眼のようだった。しかも、その目には涙さえ浮かんでいた。

「ど、どうしたんでい? 豪毅」

 豪毅は力なく言った。「真唯を家に送っていくよ」

「な、何があったんだ? 豪毅、おい、何とか言えっ!」親父が引き留めるのも聴かず、豪毅と真唯は階段を降り、無言のまま玄関を出て行った。

「どうしたんだい?」ユウナが玄関に佇んでいる親父のもとにやって来た。

「俺の方が聞きてえよ」

「帰っちまったのかい? マユお嬢」

「ああ、豪毅のやつ、送ってくって。二人とも落ち込んじまっててよ」

「落ち込んでた?」

「同じように、目、真っ赤にしてやがった」

「……何があったんだろうねえ……」

 

 真唯は自宅の玄関ドアを開けた。「ただいま」

 マンション入り口のインターフォンで娘の帰宅をすでに知っていた真雪と龍は、心配そうに真唯と豪毅を出迎えた。

「おかえり。どうしたの? いったい……」真雪が言った。

「とにかく上がるんだ。外は寒かっただろう」龍が二人をリビングに通した。

 豪毅と真唯はソファに肩を並べて座った。

「パパ……」真唯は父親の龍を見つめてまた涙ぐんだ。

「どうした、真唯」龍は優しく言った。「何があったんだ? 言ってごらん」

 真唯は黙ってうつむいた。

 真雪が4客のティーカップを運んできて、それぞれの前に置いた。真唯はすぐにそのカップを手に取って、淹れたての紅茶をすすった。「おいしい……」

 真雪も龍の隣に座った。

 龍は一つため息をついて妻の真雪を見た後、もう一度目の前の娘に目をやった。「話したいことが、あるんだろ? パパたちに」

 真唯はこくんとうなずいた。豪毅はずっと身を固くしたまま下を向いていた。

 龍も手元のカップを手に取り、紅茶をすすった。

 突然真唯が目を上げ、父親の龍を鋭い眼で見据えながら一度大きく息を吸って叫んだ。「パパっ! アタシとセックスしてっ!」

 ぶぶ~っ! 龍は口の中の紅茶を噴き出した。「な! なんだってっ?!」ひどく咳き込んだ後、彼は大声を出した。

 立て続けに真唯は母、真雪に目を向けて叫んだ。「ママは豪ちゃんとセックスして!」隣の豪毅はますます身体を固くして縮こまった。

 真雪は目を皿のようにして絶句した。

「お、おまえ、何てこと言い出すんだ! 出し抜けにそんな……」龍は真っ赤になって言った。

「ちゃ、ちゃんとわかるように説明しなさい」真雪も赤面していた。

 豪毅は顔を上げた。「お、俺たち、自分の力でセックスができなかったんです」

「豪ちゃんのが、痛くて痛くて、アタシ我慢できなかったの」

「俺も、真唯にどうしてもうまく入れられなくて、結局萎えちまったんです」

「そ、それで、どうして俺たちに……」

「アタシ、豪ちゃんとセックスしたい。ちゃんと繋がりたいんだ。でも、中が狭くてきっと入んないんだと思う」

「お、俺も一体どうやったらうまく入れられんのか、わかんねえから、このままじゃ……」

「このままじゃ、永遠にアタシと豪ちゃんはセックスができない。だから、パパで練習したいんだ。っていうか、パパに一度やってもらえば、次からは豪ちゃんとうまくいくような気がする」

「れ、練習だあ?!」

「アタシが中に男の人を受け入れる練習」

「お、おまえ、自分の言ってることがわかってるのか? 俺とおまえは、そ、その、お、親子だ。父親と娘の関係なんだぞ」

「わかってる。でも親子だからアタシ許せる。きっとパパとセックスしても、痛い思いをするはず。でも、パパだから我慢できるって思うんだ」

「…………」龍は固まった。

 真唯は続けて言った。「それに、豪ちゃんも、ママとちゃんとしたセックスができれば、アタシとの時も戸惑わずにすむはずでしょ?」

「…………」真雪も固まった。

「お願い、パパ、ママ。アタシたちを救って」真唯は子犬のように上目遣いで両親を見た。

「お、俺からも、この通り」豪毅は床に正座をして深々と頭を下げた。