外伝集 Hot Chocolate Time 第3集 第8話「初体験をなめるなよ」

《練習》

 

「豪毅くん、固まってないで、入っておいでよ」真雪が言った。

 豪毅は龍夫婦の寝室の入り口でもじもじしていた。「ほ、ほんとにいいんですかね、こんなこと……」

「とにかくこっちにおいでよ」真雪は笑って豪毅の手を取った。

 二人は大きなキングサイズのベッドの縁に並んで腰を下ろした。

「い、いざとなったら、やっぱ緊張しますね……」豪毅は真雪の横に身を固くして座り、赤くなってうつむいた。

「豪毅くん、ちっちゃい頃はよくうちの子たちや菫ちゃんとこのベッドの上ではね回って遊んでたよね」

「そ、そうっすね。懐かしいです」

「それがもうこんなに逞しく、男らしくなったんだから」真雪は豪毅に笑いかけた。

「お、おばちゃんは、お、俺とエッチするのに抵抗はないんすか?」

「ないと言えば嘘になるけど、あなたたち二人が、うまくつき合っていくために必要なことだったら、協力したい。それにあなたの恋人真唯も夫の龍も承知の上だし」

「す、すんません。勝手なことお願いしちまって……」

「いいんだよ。練習でしょ? あたしも練習のつもりであなたに抱かれるから」

 『抱かれる』という言葉が、すぐ横に座った大人の女性から自分に向かって発せられたことで、豪毅は急に興奮し始めた。

「多少乱暴なことしても大丈夫だよ。少しは耐性があるからね」

「い、いや、俺、おばちゃんに乱暴なんかしませんから」

「男の子はそうはいかないものだよ。でも、エスカレートしすぎたら指導が入るよ」

「そ、そうしてください」

「どうしようか?」

「え? 何がです?」

「お互いの呼び方だよ。あたしはあなたを『豪毅くん』でいいとしても、あたし、あなたに『おばちゃん』って呼ばれるのには抵抗があるな」

「ま、『真雪さん』で、どうですか?」

「練習だから臨場感出そうか」

「え? 臨場感?」

「あたし『豪ちゃん』って呼ぶからさ、あなたは『真唯』って呼びなよ。あたしを抱きながら真唯を抱いてるつもりになればいいじゃない」

「そ、そうっすね……。確かにおばちゃんの声は真唯によく似てる……」

「じゃあ決まりね」

 真雪は豪毅が着ていたフリースのトレーナーとペインターパンツに手を掛けた。そしてあっという間に下着一枚の姿にしてしまった。豪毅は体中を真っ赤にして、ベッドの真ん中でかしこまって正座をした。

「あたしの着てるもの、脱がせてみる? 豪ちゃん」

「え? あ、あの……」

「やってみて」

 豪毅は真雪のニットのタートルネックシャツの裾をめくり始めた。

「手、震えてるよ。もっとリラックスしなよ、豪ちゃん」

「は、はい……」

 真雪も下着姿になった。そして彼女はベッドに横になった。

 正座をしたままの豪毅を見上げて真雪は言った。「そのままキスして」

「わ、わかりました」

 豪毅は白いボクサーショーツ姿のまま真雪の身体に覆い被さり、唇を彼女のそれにそっと触れさせた。「ん……」真雪は小さく呻いた。豪毅は唇を柔らかく押しつけ、滑らせて静かに口を開き、舌を使って真雪の上唇を舐めたあと、大きく口を開いて顔を交差させ、真雪の口を塞いだ。真雪もそれに応え、口を開いて舌を豪毅のそれに絡ませ、吸った。豪毅は何度も角度を変えながら、真雪の唇や舌を味わった。

 そっと口を離した豪毅の目を上気した顔で見つめながら真雪は言った。「素敵! 豪ちゃんのキス、最高だよ!」

「そ、そうっすか?」豪毅は照れて頭を掻いた。

「もう、なんか、余裕って感じ。あたし、もうとろけそうだったよ。すごいすごい!」

「ま、真唯にもキスだけは褒められたんです」

「練習したの?」

「え?」

「だって、今夜の真唯との時が最初だったんでしょ? 始めからこんなに上手なのって、ちょっと信じ難いんだけど」

「じ、実は……」

「練習したんだ」真雪が豪毅の耳元に口を寄せて囁いた。

「だ、誰にも言わないでくださいよ」豪毅が念を押して続けた。「俺、か、か、母ちゃんと練習したんです」

「え? ユウナと? ホントに?」

「は、はい。俺が毎日座布団で練習してたら、見かねて……」

「そうなんだー。だからこんなに上手なんだね」

「ひ、秘密っすからね」

「なんで?」

「な、なんで、って……。恥ずかしいじゃないっすか」

「だって練習だったんでしょ? それに親子だからあなた小さい頃にいっぱい奪われてるよ、ユウナに。あたしだって健吾や真唯が小さい頃、唇、何度も奪ったよ。龍もだけど」

「そ、それは親子のスキンシップでしょ? こ、こういうキスとは……」

「いずれにしても、豪ちゃんのキスは満点合格だね」

 豪毅はまた頭を掻いた。

「問題は、このあとなんです」

「じゃあ、順を追って説明するから、よく聞くんだよ。豪ちゃん」

「はいっ。お願いします」豪毅は真雪の足下にまた正座した。

「キスをしながらブラを外す、そして唇をおっぱいに移動させて、片手で一つをさすりながらもう一つを口で舐めたり吸ったりする」

 豪毅は、小さなメモ帳に赤ボールペンで真雪の言葉を書き込み始めた。

「い、いつの間にそんなメモを……」真雪はあからさまに怪訝な顔をして身体を起こした。

「つ、続けてください、おばちゃん」

 真雪は豪毅と向かい合った。

「できれば口を肌から離さずに、胸やお腹を舐めながらショーツを脱がせる」

「ふんふん……」

「積極的な女のコなら、あなたの下着をここで脱がせてくれるかも。真唯はどう?」

「頼んでみます。今度やるとき」

「そうだね。でも自分で脱いでも問題ないからね。っていうわけで、二人とも裸になったら、いよいよ女のコの一番敏感な部分を舌や唇で愛撫する。これには時間をかけること」

「はい。真唯もそれはとっても感じてました」

「女はそれ抜きでセックスはできない、と断言してもいいぐらいだよ。そうすることで、中が潤って、挿入が楽になる。女のコもこすれる痛さが軽減されるんだよ」

「何となくわかります」

「このときに、ゴムを気づかれないように装着できれば、なかなかのものだね」

「な、舐めながらですか?」

「そう。間を置くとせっかく盛り上がった興奮が冷めちゃうこともあるしね。でも最初は無理しなくてもいいかも。『ごめん、ちょっと待ってて』って言うのも思いやりだからね」

「なるほど」

「ゴムの装着に関しては、あの男どもからしつこく学んだでしょ?」

「はい。あの講座っすね。龍さんや修平先生、めっちゃ熱く語ってましたから……」

「さて、いよいよ挿入。入れる時って結構迷ったりするから、後でその時に教えてあげる」

「は、はい。恐れ入ります」

「経験が少ない時は、女のコは入れられる時にかなり違和感を感じることを覚えておいてね。できるだけゆっくり、優しく入れてやって」

「はい」

「口で十分愛撫して、愛液が溢れるぐらいに潤ってたら、それほど痛くは感じないはずだよ」

「あ、あの、質問いいっすか?」豪毅は右手をさっと挙げた。

「はい。豪ちゃん」真雪は豪毅を指さした。

「入れた後の動かし方のポイントを」

「今から言おうと思ってた。男女のギャップがあるところだからね」

「ギャップ?」

「男の人は奥深くまで入れたがるもんだけど、実は女の身体は入り口付近の方が感じやすいんだよ」

「そうなんだ……」

「だから、入れる時に少しそのあたりを刺激してやって、高まってきたら奥まで入れて、恥骨同士を擦りつけ合うっていうのが定番スタイルだね」

「ち、恥骨って、ナニの上の堅いとこですよね」

「そう。よく勉強してるね。偉いよ、豪ちゃん。そこでクリトリスを刺激してやるの。そうやって興奮が高まったら、もう、がむしゃらに出し入れしても平気。女のコはそれでも十分感じてるはず」

「わかりましたっ」豪毅はメモを閉じた。

「はい、それだめね」真雪から指導が入った。

「え?」

「まだセックスは終わりじゃないんだよ」

「そ、そうなんだ……」豪毅はまたメモを開いて、ペンを手に持った。

「あなたが果てても、女のコの身体は熱いまま。だから、いきなり抜き去るのは厳禁。しばらく繋がったまま、セックスの余韻を楽しむ。フルコースの後のコーヒーのようにね」

「余韻かー」

「この事後の抱かれている時間は、あたしは個人的にすっごく好き。じっくり愛されている、っていうのを実感する至福の時」

「深いっすね」

「繋がりの余韻を充実させる甘い会話……。それがコーヒーと共に味わうデザートだからね。髪を撫でたり、頬に触れたりして、豪ちゃんもたっぷり味わってね。以上」

「今度こそ、わかりました」

「でもね、」真雪が笑いながら言った。「今言ったことをそのまま忠実にやる必要はないんだよ。お互いが、お互いを求め合って、癒し合って、感じ合うのがセックスなんだから、順序も方法もその時好きなようにやればいい。あまり囚われすぎないでね」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ、やってみる?」真雪は豪毅の目を見つめた。

「は、はい……」

「もう一回、キスから始めて。ユウナ仕込みのあなたのキス、病みつきになりそう」

 豪毅は真雪の背中に腕を回し、ゆっくりと抱きしめながら、濃厚なキスをした。真雪はうっとりとした表情でその感触を味わった。

 全裸になった二人は、身体を重ね合わせていた。豪毅は真雪の乳房を狂おしいほどに揉みしだき、口で乳首を吸った。「ああ、いい、いいよ、豪ちゃん、その調子」

 真雪のバストの形は、その娘真唯のそれと驚くほどよく似ていた。豪毅はまるで本当に真唯を抱いているような錯覚を起こしそうになっていた。

 真雪は豪毅を仰向けにした。そして大きくなった彼のペニスを手で握り、優しくさすり始めた。

「あ、あああ、」

「どう? 感じる?」

「い、いい気持ちっす……」

 真雪はそれをゆっくりと口に咥えた。「ああっ!」豪毅が仰け反った。真雪は口を上下に動かし始めた。

「い、い、」

 真雪は口を離した。豪毅は方ではあはあと大きく息をしている。

「イきそうだった? 豪ちゃん」

「やばかったっす」

「口の中で出しちゃったりするのは、好きずきだから、事前に確認しておくことをお勧めする」

「ま、真雪さんはどうなんです?」

「あたしは好き。でも龍は苦手って言ってる」

「へえ、おもしろいっすね。逆ならありそうだけど」

「じゃあ、いよいよ挿入してみようか、豪ちゃん」

「ほ、ほんとにいいんですか? 真雪さん」

「遠慮しないで。あなたの恋人もそろそろ、龍と繋がってる頃だよ。きっと」

「いきます」豪毅は広げられた真雪の脚の間にひざまづき、真雪の秘部をじっと見つめた。「あ、あの……」

「なに? 豪ちゃん」

「触ったり舐めたりしても、いいですか?」

「そうか、そうだったね。でも、我慢できなかったらもう入れちゃってもいいけど」

「い、いえ。俺、真雪さんにも気持ちよくなってほしいし……」

「優しいね、豪ちゃん」

 豪毅は真雪の秘部に顔を埋めた。そしてクリトリスと谷間をその舌で舐め始めた。

「あ、あああ……」真雪が喘ぎ始めた。「いい、気持ちいいよ、豪ちゃん……」

 豪毅はそれをずっと続けた。真雪の谷間からはすでに多量の液が溢れていた。

「も、もう大丈夫、豪ちゃん、あ、ありがとう」

 豪毅は口を離した。

「入れて、あたしに入れて……」真雪は荒い息のまま言った。

「あ、ゴ、ゴムつけなきゃ」豪毅は傍らに置いてあったコンドームの袋を慌てて破り、中身を取り出してペニスに被せ始めた。「ま、待っててくださいね、す、すぐですから」

「ふふ、慌てなくていいよ。豪ちゃん」

「よしっ!」コンドームを無事に装着し終わった豪毅は、気合いを入れ直して真雪に挑んだ。

 ペニスが秘部に当てられたのを感じた真雪は言った。「あたしの腰を少し持ち上げてみて」

「え? は、はい。こうっすか?」豪毅は両手で真雪の腰を抱え上げた。

「そう。それでいいよ。その方が入りやすいから」

 豪毅はその体勢のままでペニスをゆっくりと真雪の谷間に埋め込み始めた。真唯との初体験の時はなかなか入っていかなかったペニスが、いともたやすく真雪の中に入り込んだ。ぬるぬるとした柔らかい感触が、豪毅のペニスを包み込み、彼はため息をついた。「ああ、き、気持ちいいっす、真雪さん」

「動かしてみて」

「はい」

 豪毅はさっき真雪に言われたとおりに、自分のものを浅いところで動かしてみたり、時折真雪の奥深くに沈み込ませたりしてみた。

「じょ、上手だよ、とっても。いい、その調子、あ、ああああ……」真雪はまた喘ぎ始めた。

「ま、真雪さん、お、俺、も、もうすぐ……」

「激しく動くんだよ、豪ちゃん」真雪が叫んだ。「そして最後にイく時、あたしを抱いて、きつく」

「わ、わかりましたっ!」

 豪毅は豪快に腰を前後に動かし始めた。

「あああ、ああああっ!」真雪の身体が細かく震え始めた。

「イ、イく、イきますっ! 真雪さんっ! ああああ! 出るっ!」豪毅はひときわ大声で叫び、全体重を真雪に預けてのしかかり、腕で彼女の身体をぎゅっと抱きしめた。「ぐうっ!」

 豪毅の体内から、熱く沸騰したものが何度も弾けだした。

 

「最後まであたしを『真唯』って呼ばなかったね、豪ちゃん」

「すんません……」

 二人は繋がったまま、抱き合ってベッドに横になっていた。

「やっぱり無理か。あたしは真唯の母親だからね」

「い、いや、そんなんじゃなくて……。俺、真唯じゃなくて真雪さん本人に抱かれて、身体を癒されているって、ずっと意識してたような気がするんです」

「そうなの?」

「はい。真唯とのエッチの練習、ってもう、途中から忘れちまってた」

「あたしとのエッチに、本気になってたってことだね。嬉しい、豪ちゃん」

「ごめんなさい。これって、不倫ですよね、立派な」

「残念でした。だって、あたしは本気じゃなかったもん。あくまで豪ちゃんは娘の恋人。それを忘れてセックスするほど、あたし若くないよ」

「そ、そうっすよね」

「でも、豪ちゃんは本気で良かったんだよ。そうでなきゃ練習にならないよ」

「ありがとうございました。本当に」

 

 豪毅のペニスがぬるりと真雪から抜けた。真雪は枕元のティッシュを手に取り豪毅に渡して、自分の分のティッシュも手に取った。そして真雪は豪毅の身体を起こし、自分も起きあがった。

「でもね、あたしも身体はとっても感じてた。すごく充実したセックスだったよ。大丈夫。これなら真唯も満足させられるよ」

「そうすかね」豪毅は赤くなって頭を掻いた。

「たぶん、あたしと真唯の身体は、形や感じ方が似てると思うよ。だから、いい練習になったんじゃないかな」

「もう二度と真雪さんを抱くことはありませんけど、時々セックスのことでわからないことがあったら、お尋ねしてもいいっすか?」

「もちろんだよ。いつでもね」

「えっと……」

「どうしたの?」

 豪毅は大人しくなったペニスに被せられたままのコンドームに手を掛け、困った顔をしていた。

「ああ、ゴムはね、中身がこぼれないように外したら、口を縛ってティッシュに包んでゴミ箱へ」

「そ、そうか、結ぶんすね」豪毅はコンドームを慎重に外し、真雪に言われた通りに口を結び始めた。「そうか、そうすれば中身が漏れないもんなー。いいこと教えてもらった」

 真雪は豪毅にベッドの下に落ちていた彼の下着を取り上げて渡した。そして自分も元のショーツを穿き直した。豪毅は渡されたボクサーショーツを穿き終わると、真雪に訊ねた。「そう言えば、健吾と菫、今、どこなんすか?」

「健吾の部屋だよ」真雪はニコニコして言った。

「予定通りってわけっすね?」

「あなたたちが帰ってくる前に部屋の前を通ったら、艶っぽい菫ちゃんの声がかすかに聞こえたよ」

「あの二人、うまくできたんすかね」

「どうかなあ。でも、少なくともあなたたちみたいにあたしたちに助けを求めたりした形跡はないみたいだよ」

「明日、聞いてみっかな」

「そうだね。あたしも興味ある」真雪は笑った。「真唯とパパももう、終わった頃かな」真雪は自分のケータイを手に取った。